すき、きらい、すき、 | ナノ





「あ―――…なあ、もうやめようぜ」



そう、機械に向かって音にした声は、震えてはいなかっただろうか。






で、すきで






無理矢理耳から引き剥がした画面に指をスライドさせ、無造作にベッドへと放り投げる。やっかいな機械だ。今までだったら閉じればすんだところを、操作しなくては切れないだなんて、本当にやめてほしい。
最後の最後に聞こえてしまったあいつの声が、俺の名前を呼ぶあいつの声が、耳にこびりついて離れない。焦ったようなあの声が脳内で何度も繰り返し再生されて、体が勝手に高ぶりそうで、涙が出そうで、ぎゅうっと体を縮こめた。



「…いい子ですね、桐生様」



あいつの声でいっぱいだった耳に、無遠慮に押し入ってくる耳障りな声。いい加減聞き飽きたその声は酷く俺を苛立たせたが、反応したところできっとなにも変わらない。殴れるもんなら殴ってやりたいが、しかしどうすることもできないので無視を決め込んで目を閉じた。

お前のせいで、お前らのせいで。
俺は―――…あいつ、は。
言ってやりたい言葉は口から外には出せない。弱味を握られた自分の愚かさが情けなくて、腹立たしくて、悔やんでも悔やみきれない。しかし結局はどこにも吐き出すことができない苛立ち。自分を殴ることもできず、シーツをぎゅっと握り締めることで無理矢理誤魔化す。きっとなにもしないよりはましなはずだ。



「完璧でした、さすがですね」
「………」
「久谷様のご様子はいかがでしたか?」



背中にひたりとくっついてくる体温。白く華奢な腕が腰に回されるも、逃げることはできない。ちゅ、と首筋にキスを落とされ、ぞわっと体が震えた。

情けなくて、虚しくて、悔しい。
あんな電話のあとなのに、俺を呼ぶあいつの声を聞いたあとなのに。それなのに、快感に慣れた体は簡単に熱を上げる。怪しい手つきで体を粘っこく撫でられて、直接的な刺激にあいつの声を聞いたときよりも簡単に高ぶる。



「ふふ、かわいいですよ桐生様 」
「だまれ…っ」
「こんなにも麗しく壮麗なのに、誰よりも健気で敏感で…罪なお人だ」
「てめぇな、んっ…!」



思わず振り向き睨み上げるも、柔らかい笑みに軽く往なされる。おまけに簡単に捕まった頭は向き直るのを許してはもらえず、不自然な体勢のまま口づけを受ける嵌めになった。後ろへ逃げようとも、後頭部を引き寄せられてあまつさえ体ごと抱えるようにホールドされれば、それも叶わずそれが深くなるのを許してしまう。



「んぐっ…う、ん、んんっ」
「ん……っ」
「んぁっ、ん…っは、ん」



易々と侵入してくる舌に口内を蹂躙される。あっという間に絡めとられた舌を執拗にねぶられて、快感を訴えるように喉の奥がひくりと震えた。覆い被さるように体勢が変わり、上から唾液を送り込みながらの深い口づけを施される。飲み込みきれずに口の端から溢れて頬を伝う唾液。しつこいキスに、酸欠でボーッとしてくる頭。限界を訴えるために伸ばした手はどうにもならず、縋りつくだけで終わってしまった。



「んぅ、ぁ…んんっはぁっ」
「んっ…はっ、気持ち、よかったですか」
「はっ、あ、くそっ、は…」



ようやく解放された唇。しかし熱に浮かされた頭は痺れて働かない。ぐったりと動けなくなった体は重く、しかし条件反射のように目だけで威嚇すれば、見下ろしてくる男がこくりと喉を鳴らした。



「ってめ!も、いいだろっ…」
「なにを仰いますか…貴方も、」
「ッ!」
「ここを、こんなにして」



怪しい動きをしだした手に抗議の声を上げるも、俺のモノを柔く握られてびくりと体が跳ねた。さっきまで散々ヤってたにも関わらず、俺を余すところなく見つめる瞳はすでに情欲に濡れている。外見にそぐわない絶倫加減にぞっとしつつその手を引き剥がそうとするも、ぬちぬちと揉みしだかれて、びくびくと震える体は力が入らない。

嫌なのに。もう嫌なのに。
煽られれば簡単に熱を上げ、あまつさえ後ろまで疼いてくる自分の体に、絶望する。



「や、いやだ、やめろっ…!」
「体は準備万端なようですが?」
「ひっ…や、うああっ」



つぷんと後ろに入ってくる指。先までの行為で散々蹂躙されていたそこは、三本もの指を難なく受け入れる。くぱあっと穴を広げるように指を動かされ、体がびくんと仰け反った。中に出されたものがとろとろと出てこようとする感覚に、ぞわっと全身が震える。そのせいで指が動くととぬちゅぬちゅと卑猥な水音が聞こえてきて、死にたくなるほどの羞恥に駆られた。



「ふ、あ、んんっ…!」
「ああ、ほら、さっきの私の精液が出てきましたよ」
「ひっ、や…っんな、みんじゃねぇ!」
「嫌なのに興奮なさって…随分とまた、久谷様に調教されているようで」
「だまれ…っ!ん、あ、あああ…っ」



中のものを掻き出すように動く指。シーツに爪を立てて快感を逃がそうとしてもそんなもの意味もなく。背中が仰け反り晒された乳首を口に含まれ、さらにびくびくと体が跳ねる。もう片方を優しく擦られ、一辺に与えられる快感に体の痙攣が止まらない。




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