すき、きらい、すき、 | ナノ





「はっ、あ、くそ、やっ」
「んなこと言って、期待してんだろ?」
「この悪趣味野郎が…!」



視界を奪われ不安だろうに、あくまで減らず口を叩くのにニヤリと笑う。
見えない中で触られることを期待しているのか、健気にぷくりと膨れて主張するその小さな乳首に、俺はそっと指を沿わせた。






らいというよりむしろ






「ひっ、あ、や、やだ、くたに…っ!」
「んな怯えんなって。ほら、ここはぷっくり勃ってきたぜ?」
「あ、そこばっか、触んな!」



俺たち以外には誰もいない風紀委員室。
いつも使っている我が城で、非日常的な行為に耽る。この風紀委員長席の上では他のセフレたちともここでヤったことはあったが、俺の上に乗っているのが会長様だってだけでこんなにも背徳的に感じるのは、この男の麗しすぎる容姿が原因なのか。と言っても、こいつもビッチだなんだと言われるほどには清らかなわけじゃないんだが。
そうわかっていても、この完璧すぎる男前が自ら男に跨がって腰を振って善がる姿はあまりにも倒錯的すぎるから、仕方ないことだと思う。

それになんせ、いまは。



「も、これ外せえ…!」
「いいじゃねぇか、見えなくてお前もいつもより敏感になってんだろ」
「あ、やめ、あああっ」



嫌がるこいつに無理矢理目隠しをして、騎上位をさせているのだから。
さっきから乳首ばかりを弄って焦らしていた手で唐突にびくびくと震えていたモノを撫でれば、桐生は大袈裟に震えて仰け反った。逃げをうつ腰を捕まえて、先走りでどろどろのソレをぐちゅぐちゅと可愛がってやる。自ら動こうとしたせいで走った中からの刺激と遠慮のない外からの刺激で、均整のとれた綺麗な体ががくがくと震える。



「あ、やめ、くそ、も、や、あ」
「ヤ、じゃねぇだろうが!おらっ」
「っひ!あ、あ、やああっ」



逃げようとして腕をつっかえ棒のようにし、嫌だと首を振る素直じゃない桐生の腰を突き上げる。その途端、突っ張っていた腕が助けを求めるように縋ってきて、俺は思わず口角を上げた。
じんわりと濃く変色した目隠し。ああ、涙を湛えたあの瞳を見られないなんて惜しいことをした。そう思いながら、悲鳴のような矯声をあげる体をがつがつ突き上げる。こいつとヤるのは、これだから困る。いくらヤっても、もっともっとと渇いている気がして。ヤバイ奴にハマったよなあと思いつつもやめるきなどさらさらなく、乾いた唇をぺろりと舐めた。



桐生会長の情事の噂は、何度か聞いたことがあった。
ネコタチ拘らぬ快楽主義者。どちらであっても主導権は手放さない。
だから、ネコの時は特に騎上位を好んだらしい。上に乗っかり、相手には触らせずに一方的に翻弄する王様。いや、女王様か。



(―――そんな、男が)



俺の上で、涙を流して啼いている。
助けを求めて俺だけに縋ってくる。

こんなにも満たされることはない。そうしてもっともっとと求めてしまう。やめろ、はなせと詰り、あくまで女王様でいようとするこいつの仮面を剥ぎ取り、すべてを晒け出させてやりたくなる。俺だけに晒させて、俺だけのものしたくなる。
軽い気持ちで専属契約した俺の予想とは裏腹に、桐生という男は、どうしようもなく独占欲を煽られる男だった。



「は、あ、ひああっ」
「ココがいいんだよな?」
「や、ソコ、やだ、あ、ああ―――ッ」



桐生のイイところをごりごりと擦り上げる。耐えられない、という風にくんと伸びる綺麗な首。無防備に晒され、ひくんと震える綺麗な喉があまりにも美味しそうで、思わずがぶっと噛みつく。途端、びゅくっと僅かに桐生は白濁を吐き出した。



「はー…はっ、ふ、は…」
「ははっ…思わずイっちまったか」
「っる、せぇよ…」



肩で荒く息をする桐生の顔がどうしても見たくなって、目隠しをするりと取ってやる。布の奥から現れた瞳は快楽に濡れ、赤く染まった目尻が酷く艶やかで。



「ま、俺はまだまだイケねぇからやめねぇがな。最後までちゃんと付き合えよ?」
「…誰も限界だなんて言ってねぇ。てめぇが俺に付き合うんだ」
「っは、上等…!」



それでもまだ、凛として立ち向かってくるもんだから、どうしようもなく求めてしまうのだ。

今までは、そんなことはなかった。どんな奴が相手だって、適度に性欲が満たされればそれでよかったのに。
今はもう、そんな悠長なことは言ってられない。どこまでも求めて、どこまでも求めさせたい。だからまるで、獣のようなセックスになってしまうのだ。


自覚がありながらも止められない性欲に苦笑しつつ、生意気な口を黙らせるべく俺は動きを再開する。途端、さっきの台詞を言ったのと同じ口が発する甘い啼き声に、どうしようもなく満たされるのを感じた。






***






「信じらんねぇ、超腰いてぇんだが」
「そりゃお前が煽るからだろうが」
「つーかそもそもここでヤろうって言い出したのはてめぇだろ!って、あ…」



とりあえず夕方から背徳の限りを尽くし、そろそろ警備員が回ってくるであろう時間にどうにか動けるようになった桐生と共に風紀室を出る。部屋の鍵をかけながらぶつくさ文句を言う会長様に答えていたら、桐生が微妙な声を出したのでどうしたと顔を上げる。
そうして視界に写ったのは。



「久谷様…桐生様…」



愕然とした顔で俺たちを見つめる、一般生徒。いや、ただの一般生徒ではないな。親衛隊を作ってはならない風紀委員長の、ファンクラブという名のセフレ集団の仕切り役、だった男。つまり、俺のセフレ歴の一番長いやつだ。



「よお、久しぶりだな。どうしたこんな時間に?」
「っあ、いえ、久谷様に久々にお会いできないかなーと、思ったんですけど」
「俺に?」
「あの、えっと、久谷様が大丈夫なら、問題ないんです、はい」



しどろもどろするそいつに、なるほどと合点がいく。きっとこいつは、俺に抱かれたくてここで待っていたんだ。偶然を装ってここで待ち、あわよくば一緒に帰ってセックスをしよう、と。
俺のためっぽいことを言っているが、突然のセフレ切りに我慢できなくなったのは俺じゃなくてこいつだ。そもそも執着もなんもない、ただセックスするためだけの集団だったのだから、双方ともにこんな事態があり得ないはずなんだが。
まあなんにせよ、俺が桐生だけで満足していなかったところで、俺への執着心ありすぎなこいつは即座に切っていただろうが。どうせただのセフレなんだ、面倒くさい事はごめんだぜ。



「会長様、だったのですね…」
「あっ、いや、」
「ああそうだぜ。俺のパートナーはもうこいつだけだ。だからもうお前は帰れ」
「ちょ、久谷放せ!」
「失礼します…!」



わざとらしく桐生の肩を抱いて笑ってやる。嫌がってすぐに逃げられてしまったが、それだけでも効果は抜群だったようで、名前も思い出せないようなセフレは走って逃げ出してしまった。
厄介事は避けられたしなんだか独占欲まで勝手に満たされた。一石二鳥だったなと機嫌よく桐生を見れば、桐生はなぜかどちらかというと不機嫌そうに、顔をしかめていた。



「おい、どうした?」
「…あれでよかったのか?」
「は?」
「あの手のタイプは、簡単に引き下がれるようなタイプじゃないだろ」
「あー…」



まあ確かに、粘着質そうなタイプではあったな。今までは鳴りを潜めていてくれたおかげで俺の周りには今まではいなかったが、立場上ああいう奴等と話さなきゃならない機会がよくあった。大抵は自分なりの正義だけを掲げ、誰かのためという大義名分を振りかざして押し通そうとするやつら。あいつらには現実を突きつけたところで、逆に刺激を与えて激昂させてしまうことの方が多い。そこですんなり引き下がれるなら、もともと食い下がることはないのだから。
そう考えると、確かに追い払い方を間違えたかもしれない。やらかしちまったかな…と思っていると、隣で桐生がふっと息を吐く。そうして一言呟いた。



「ま、大丈夫か」
「は?」
「だって、あいつがなんかしようとしたって、対象は俺らだぜ?大丈夫だろ」
「あー…まあ、確かに」



言われてみれば、確かにそうだ。
なにか、復讐でも制裁でもやろうとして、俺たちほどやりにくい相手もいないだろう。やれるもんならやってみろって話だ。



そう納得して、対策を考えるのをやめてしまった俺は、知らない。

あいつが、なにを思って大丈夫だと言ったのかということを。
あいつが、大きな弱点を抱えているということを。
あいつの考える“大丈夫”が、俺にしか当てはまらないことを。







*end*




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