キリリク | ナノ
「委員長!頼みますよ会長のとこ行ってください!」
「あん?あいつぁ自分でやりたくてやってんだろ。それで潰れたとしても自業自得だ。俺ぁ関係ないね、好きにやらせとけ」
「委員長ぉ〜!!」
涙ながらに訴えてくる部下を無視して煙草に火をつける。ふーっと煙を吹きかけてやってから口元に笑みを浮かべれば、そいつの顔がなんとも言えない顔になった。
「い、委員長…ここで喫煙は流石に…」
「あぁ…?てめぇ俺に指図するつもりか?」
「なななんでもねぇっす!」
一睨みすればビビって更に泣きそうな顔をする。はん、とその情けねぇ面を笑っていると、見兼ねたように横から口を挟まれた。
「行ってやれよ、会長が風紀に必要な書類持って立て籠ってんだって」
「副委員長の言う通りなんすよ委員長!さぁそのマスターキーで生徒会室からちょちょいっと書類を…!」
希望の光が…!と目を輝かさているそいつを再び睨みつけてやれば、かちこーんと見事に固まった。あぁうぜぇ、なんで嫌ってる奴にわざわざ会いに行かなきゃなんねぇんだよ。
しかしうちのNo.2を怒らせると面倒なのは俺が誰より知っている。盛大なため息を吐いたあと、俺は座り心地のいい椅子から立ち上がった。
***
「書類を回収しにきてやったぜバ会長」
ばん!と派手な音をたてて重厚な扉を蹴り開ければ、正面の席に座った男が一人。開ける前にしたであろうロック解除の音は愚か、蹴り開けた音さえも聞こえていないかのように、一心不乱に仕事をしている。
本当になにも反応しない。いつも憎たらしいくらい冷静で偉そうな顔さえあげない。気に食わねぇ、と室内に足を踏み出したその時だった。
「―――止まれ!!」
響いた声に、思わず足が止まる。
すると、前見たときよりも遥かに憔悴した、奴らしからぬ顔がゆらりとあがった。
「それ以上この部屋に入るんじゃねぇぞ!すべて終わったら渡すと言ってんだろうがちょっとくらい待て俺の邪魔をすんじゃねぇ!!」
「あぁ…!?」
「つぅかなんでてめぇなんだよふざけんな!!てめぇは不良どもを絞めるためだけのお飾りだろうがこっちまで口出してんじゃねぇよ!」
「てめぇ…!」
「やめろ喋るな笑うな息を吸うな!この部屋のものはすべて俺様のものだ!机も、椅子も、空気さえも!てめぇが吸う空気なんざねぇんだよ!!」
ぷっちーん。
はいキレた。キレたね。言い過ぎだ。
「てめぇ……!この俺を誰だと思ってやがる!!」
「―――有象無象!」
「………え?」
奴はきっぱりすっぱり言いきって満足したのか再び仕事に戻ったが、俺はぽっかーんだ。どうしたんだ、なにがあったこいつ。
恐る恐る一歩踏み出すも、奴は仕事に一気に集中したらしく気づいた様子は欠片もない。この集中力こそがこいつが書類処理歴代最速と言われる由縁。だが今はこれ幸い、と音をたてないように細心の注意を払いながら近づいた。
「…おい、おいバ会長、会長様よ!」
「………」
「一端仕事やめろ河上!!」
「…え?」
ハッとしたように顔を上げる生徒会長こと河上慎吾(カワカミ シンゴ)。ふっとなにかを探すように視線を巡らしたあと、河上は俺を見て目を細めた。
「…今俺を呼んだのはお前か?」
「は?俺以外誰もいねぇだろうが」
「……そうかよ、期待させんな」
ふぃ、と下げられた目。小さく呟かれた言葉。珍しく内面を隠しきれていないその言動に、河上がいつになく動揺しているのが見てとれる。
(あぁ…"河上"、ね…)
そこで思い出したのは、ここにはいない役員のこと。確か、名字で呼ぶのさえ畏れ多いと言われているこの生徒会長のことを"河上"と呼んでるのは、あいつらだけじゃなかったか?
「期待、ねぇ…」
「なっ…!余計なことまで聞いてんじゃねぇ!つぅか入んなっつっただろうが!」
「目ぇ真っ赤だぜ河上くん?」
サッと頬を朱に染める河上に口角が上がる。
なんだ、1人で寂しいとか可愛いとこあんじゃねぇの。
「ニヤニヤしてんじゃねぇアホ!」
「そう噛みつくな、寂しいんだろ?」
そう言えば、河上は一瞬目を見開く。心なしふるふると震えている身体。そして何が起爆剤だったのか、目に薄らと涙を溜めながら叫びだした。
「―――うるせぇてめぇに何がわかる!!
あいつらとは中学からずっと一緒にやってきたんだ、ずっと!それなのにあんな奴に唆されやがって意味わかんねぇよ!なんでだ!なんでだよ!俺が何かしたのか!?あんなマリモ野郎のどこが良いんだ!あの人格破綻者のどこが!!」
肩で息をする河上の目尻から、涙が零れ落ちた。
「あんな奴より人望がなくなって、あいつらは離れていく!!もっと頼ってほしかった!?今さらなんなんだよ!仕事面倒だって、ランキングで押しつけられたって言ってたじゃねぇか!だから俺は……っ!
どうすればいいんだ!どうしろって言うんだよ!どうにかしてくれよ!!どうせ離れるんなら最初から近づいてくんじゃねぇ!
もう…っ、一人は嫌なんだ…!!」
苦しげにそう吐き出す河上。
その吃驚するぐらい華奢な痩身を、俺は無意識のうちに抱き締めていた。
あぁ、不味いな。
いつになく不安定で人間臭いこいつが
―――こんなにも愛しい。
「…これだから嫌だったんだ。人に会えばぶちまけちまうに決まってんだろ、情けねぇ…」
俺の腕の中から逃げる気力もないのか、そのまま疲れたように呟く河上。机越しに拘束していた身体を離す。さらりと絹糸のような髪を透くと、河上がゆっくりと涙濡れの顔をあげた。
まさか、こいつのこんな顔を綺麗だと、愛しいと思う日が来るなんて―――…
「俺が助けてやろうか」
「…は?」
「俺が一緒にいてやるよ」
「え…」
冗談だろう、と俺を見る河上ににやりと笑いかえしてやる。安心しろよ。たった今から、俺はお前の味方だぜ。
「あぁ、その前に酸素くれ。苦しくってしかたねぇ」
「お前、さっきからなに言って…」
「―――この部屋に、俺の吸える空気はないんだろ?」
そう言って、河上の口内の空気を貪った。
*end*
生徒会長…河上慎吾(カワカミ シンゴ)
風紀委員長…名前はまだない。
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