季節小説 | ナノ
遠くで聞こえる鐘の音。止むことのない喧騒。遅々として進まない列。ごった返す人の群れ。
それを少し離れたところで見ながら甘酒を口に含む。
―――あぁ、今年もまた、始まった。
***
「あーっ会長こんなところにいたの!やっと見つけたぁ!」
なんとも言えずほっこりする甘い飲み物に舌鼓を打っていると、人混みの中から見覚えのある顔が三人駆け寄ってきた。見ているだけで酔いそうなあの中によく今までいられたなと感心する。ちなみに俺はというと、即リタイアした。
「……心配した…」
「本当っすよ会長」
「人多いんだからはぐれないでよねぇ」
「なに言ってんだ、お前らがはぐれたんだろ?」
甘酒を貰いに行っていた相棒が戻ってくるのを視界の端に入れながらニヤリと笑う。
「会長と副会長がこっちに来てるんだから、はぐれたのはお前たち。そうだろ、なぁ我が副会長殿?」
「はい?何の話ですか」
「えーなにそれ!ずるい!自己ちゅ〜!」
馴れない人混みに早々音を上げた俺たちは、出店やらなんやらにことごとく引っ掛かっていく三人を置いてとっととお賽銭を済ませてしまった。頭の中にはとりあえずさっさと人混みから抜ける、それだけで。俺たち二人で失礼します、と前の人に声をかければモーゼにでもなったかのようにざっと人が割れて、すぐに前まで進めたということは黙っておこう。
「ひどい会長!おーぼーだ!」
「…お前は今年は数学以外もできるようになればいいな…」
「え、なにそれどういう意味!?」
「はいはい、落ち着いて先輩。会えたんだからいいじゃないですか」
「……あそこで…くじ、引こうか…」
書記の一言で、突っかかってきていた会計と意外と子供っぽい庶務が目を輝かせて走っていく。それを見守るようにゆったりと大股で追いかける書記。はしゃぐ二人とその保護者を見ながら目尻が緩む。隣でちみちみと甘酒を飲んでいる副会長がちらりとこちらを見た。
「どうしたんです?」
「んー?いや…去年が終わっちまったなと思ってなぁ」
調度いい感じに冷めた甘酒を煽る。じんわりと広がる甘さと温かさ。
副会長がふんわりと笑んだ。
「名残惜しいですか?」
「いや…」
「私にとっても去年は特別な年でしたよ。こんな風にみんなで初詣に来られるなんて、そんな仲間ができるなんて思っていなかったから」
少し離れた三人を見つめながら、眩しそうに目を細める。
きっとそれは、みんな同じだ。
決して学園が嫌いなわけじゃない。
けれど、俺たちの通う学園で、俺たちの様な人種にこんな気のおけない仲間ができるなんて、きっと奇跡に近い幸せ。
「だけど心配する必要はないと思っています。今は想定外かもしれないけれど、これからこれが普通になるんですから」
そうでしょう?
そう言って笑う副会長に自然とつり上がる口端。思うことは、願うことは、通じているから。
三人の方へと歩み出しながら、ひらりと後ろ手に手を振る。
「惜しみはすれど、心配はしてないさ。
―――お前たちがいるからな」
そう思える仲間に出会えた奇跡に感謝した一年が過ぎた。
そしてまた、この奇跡を噛み締める一年が、始まる。
*end*
会計「俺大吉だったよぉ〜ラッキー!会長はぁ?」
会長「…凶」
庶務「え、会長…?」
会長「凶」
副会長「これはまた、幸先悪いですね」
会長「あー…まぁ、いいんじゃねぇの」
書記「……会長…?」
会長「俺は運なんてもんにゃ左右されねぇよ。それにいざってときは、お前らが傍にいてくれるんだろ?」
会計書記庶務「!!」
副会長(やっぱりやったこのタラシ…!)
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