季節小説 | ナノ
Series『すき、きらい、すき、』より
お正月SS
「あけましておめでとう」
『おう、おめでとう』
電話越しに新年の挨拶。
リビングの方から聞こえてくる、賑やかに新年を迎えて騒いでるらしいテレビの音。この寒いのにご苦労なこってと思いながら、あふ、と一つ欠伸を噛み殺す。
『今年もよろしくな』
「こちらこそ」
どこか緊張しているような機械越しの声に、思わず笑いそうになって誤魔化すように咳払いをする。少し拗ねたようななんだよ、という声が聞こえて抑えるのをやめてふはっと声を出した。
「悪い悪い、んな緊張すんなよ」
『だっ!…って、なんか、あれだよ。年越えたら去年のことなしになってそうでさ』
「なんだそれ、なに言ってんのお前」
『うっせぇ!』
なんて盛大に笑ってやりつつ、本当の大馬鹿者が誰かは知っている。
毎日毎日これが都合のいい夢だと気づくかもしれないなんて、そんなことを思って寝るのが怖いなんて言ったら、お前は笑うかな。
「な、今年の抱負は?」
『抱負ぅ?』
「まあそんな大層なものじゃなくて、なにしたいとか、なに心掛けるとか、なんでもいいけど。やりたいこととか」
『んー、そうだなあ…』
うんうん唸って考えているのに苦笑する。そんな悩むもんでもないだろうに。
こいつにはそんないっぱいやりたいことがあるのか?いやむしろなにもないのか?なにもなかったら、俺的にはちょっとショックなんだけど。
『うん、そうだなやっぱりこれしかないな』
「うん?」
『お前を―――侑紀を、身も心ももっともっと愛すこと』
「…っくは!っに言ってんだ、馬鹿じゃねぇの!?」
『ちょ、笑うんじゃねぇ!俺は本気だ!』
溜めに溜めて放たれた言葉に、俺は今度こそ盛大に吹き出してしまった。照れ隠しかギャーギャーと向こうで騒ぐのを聞き流しながら、構わず腹を抱えて笑う。
ああもう本当にこいつは。臭いっていうかベタっていうか、新年早々見事にやらかしてくれるよな。
『じっ、じゃあお前はどうなんだよ!』
「ははっ、あー面白ぇ…なに、俺?」
『大層な抱負なんだろうな!?』
「んーそうだな。まあ、抱負というか、今年やりたいことかな。目標みたいなのはそれはずっと決めてある」
怒ったように聞かれたことに、笑いすぎて荒くなった息を整えながらなんとか答える。さっさと教えろと急かす相手に苦笑しながら腹を押さえる体勢から起き上がり、とんと壁へと寄り掛かった。
その目標を思い、自然と笑みが浮かんでくる。
「俺の今年の目標は、なるべくお前と一緒にいることだよ」
『…え?』
「夜はお前の隣で寝て、朝はお前の隣で起きる。そんな生活を送るのが俺の目標」
『っ―――…』
俺が言ったきり黙ってしまった向こう側に少し笑う。臭いだベタだと散々笑っておきながら、俺も人のこと言えたもんじゃないな。
端から見たらただの馬鹿みたいな願いでしかないのはわかってる。恥ずかしいことを言ってる自覚もある。
だけど、俺には去年が奇跡の年だったから。
今年もその奇跡を逃してやる気なんてないよ。
『あー…今すげぇ抱き締めてぇ』
「やっぱり一緒に年越しすればよかったな」
『会いてぇなあ』
「…俺もだよ」
この奇跡を、幸せを、お前を手放すことのないように。俺は、きっと俺はなんだってしよう。
なんて、これから新たな年を迎える度に同じことを思っていそうな自分が容易に想像できて。そしてそれが本望だと思っている自分に、小さく笑った。
*end*
A Happy New Year!!
本年も、Cheers!!をよろしくお願い致します!
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