企画提出物 | ナノ
俺には、7歳上の恋人がいる。
一番辛いときに傍にいてくれた人。初めて甘えさせてくれた人。俺を必要としてくれた人。俺を愛してくれた人。
人を愛するということを、教えてくれた人。
だけど―――だからこそ、不安になるんだ。
【歳上の恋人】
「ん……しまった、寝てたか」
のそりと突っ伏していた机から起き上がる。その拍子に机上に積んである書類の山がぐらりと揺れて、何枚かがひらひらと床へと舞い落ちていくのをぼんやりと見つめていた。
静まり返った生徒会室に独り、生徒会長が書類に囲まれて転た寝をせざるを得ないほど疲労困憊することになるなんて、一体誰が想像したことだろう。少なくとも会長に就任した時の俺は、そんなこと欠片も考えていなかった。あの時の俺は、あの人と一緒にいられる時間が長くなる…そんなことを考えて浮かれていただけだったから。
眉目秀麗。頭脳明晰。文武両道。ついでに財閥の御曹司で、その溢れんばかりの自信に見合う実力を持つ学園の生徒会長。そう、俺は、あらゆる方面から見てハイスペックで完璧な超人だと言われていた。俺自身、正直自分はかなりのスペックを授かった人間だと思っている。
だけど、それは一人の男子高校生としてであって。
(―――じゃあ、恋人としては?)
でかくて、目付き悪くて、可愛いげなくて。ガキで、恋愛経験値低くて、我儘で。もらってばかりで何一つ返せやしない。
厚顔不遜とまで言われる俺が、どうして俺なんだ、と思ってしまうくらいには我ながらロースペックな人間で。
だったらせめて生徒会長としての俺くらいは、あんたに追い付きたいと思うのに。
なのにどうして、こんなことに―――…
「布団…布団で…寝よう……」
流石に眠すぎる。我慢できない。どうせ固い机の上で転た寝することになるのなら、割り切って仮眠室のベッドで寝てしまった方が絶対にいい。とりあえず書類の提出はその後だ。
そう決断してふらふらと椅子から立ち上がり、仮眠室へと向かう。30分だけ…と思いながら扉へと手をかけた時だった。
「おい!生きてるか!ってなんだこの部屋!」
派手な音を立てて生徒会室の扉を開けたのは――――ここにいるはずのない人物で。
「な、」
「良かった、生きてたか…!」
「あんた…出張じゃ…」
「早めに終わらせて帰ってきたんだよ。そしたらこれだ。よりによって俺がいない時に…!」
余裕そうに笑っているのが常なのに、今日は珍しく息を切らしている姿に少し驚く。ちっと舌打ちをしてずんずんと一直線に俺の方へ来たと思ったら、くぃと顎を持ち上げられる。するりと頬を撫でられた。
久々に見る恋人の姿。今日は黒シャツを彼らしく胸元を大きく開けて着こなしている。相変わらず惚れ惚れするようなきつめの整った顔は、今は心配そうな表情を乗せていた。
「こんな隈つくって…一体何日寝てないんだ?」
「え、わかんね…あんたが出てってからかな」
「お前なぁ!…あーもう、良いから今は寝ろ、後はやっとくから」
呆れたような表情でぽん、と頭を撫でられて、どくんと心臓が大きく跳ねる。
こういうの、苦手だ。大分慣れてはきたと思ってたんだけどとんでもなかったようだ。きっとあんただからこそ、こんなにも恥ずかしい。
居たたまれなくなって俯いた俺の反応を肯定ととったのか、ごそごそと各机に積まれた書類の山を見始める後ろ姿をぼんやりと見つめる。ダメだな、疲れてるせいか上手く思考が回らない。
「…必要ないよ」
「え?何が?つかまだやってない山どこだよ?」
「…ない」
「は?」
「だから、もう全部終わってる。あんたがやる必要ないから」
あんたにやられちゃ困るんだよ。俺がやらなきゃ、なんの意味もない。
本当はあんたが帰ってくる前に全て収拾を付けておくつもりだったんだ。まさかこんな早く帰ってくるとは思ってなかったから、まだ書類の処理だけしか終わっていないけれど。
「は?全部って…これ全部お前一人で処理したのか?」
「………」
「おまっ…信じらんねぇ!なんでなにも言わなかったんだよ、メールでも電話でもくれりゃすぐ帰ってきたのに!」
そんなことわかってたさ。だけど、生徒会のこんな酷い状態を学園側に知られるわけにはいかなかったから。生徒会の長は確かに俺で。生徒は俺の監督責任だと考えるだろう。だけど、学園の考える生徒会の責任者は俺じゃない。
「あんたに、迷惑かけたくなかったんだ」
顧問である、あんただろう?
それに―――…
「それに、あんたに追い付けるような、気がしたから」
こんな考え方は良くないのかもしれない。だけど、この事態を俺一人の力だけで収拾することが出来たなら、少しはあんたに近づけるような気がして。誰にも頼らないで、俺だけで生徒会の仕事をこなすことが出来たなら、少しは俺だってあんたに見合う人間になれるかもしれない―――なんて、嗚呼、なんて独り善がりで愚かな考え。
だけどこんなことを思い付いてしまうくらいには、俺はあんたのことが大切で。
そしてこんな考えに縋ってしまうくらいには、7年の差は、大きい―――…
「あーもう…!」
「う、わ!」
何が起爆剤だったのか、唐突に腕をぐっと引っ張られて。勢いよく腕の中へ飛び込み、そのままぎゅっと苦しいくらいに抱き締められる。
なんで抱き締められてるのかわからない。展開についていけず目を白黒させる俺を余所に、ぎゅうぎゅうと抱き締めてくる手が緩む気配はなく。
「あー…俺最低だわ」
「え?」
「お前がこんな疲労困憊してるっていうのにな」
ぐりぐりと俺の肩に頭を押し付けてくる男の背中に、そっと手を回す。なんだかとても愛しくて、恋しくて。
「それが俺のためってだけで―――こんなにも、嬉しい」
呟くように告げられた言葉。背中に回した腕に、無意識にぎゅっと力を込めた。はっと息を吐いて繰り返されるありがとうとごめんに、ただただ首を横に振る。
胸が、喉が、熱くて痛くて。声なんて出なかった。
俺には、7歳上の恋人がいる。
一番辛いときに傍にいてくれた人。初めて甘えさせてくれた人。俺を必要としてくれた人。俺を愛してくれた人。
人を愛するということを、教えてくれた人。
だけど―――だからこそ、不安になるんだ。
でもなによりもあんたの言葉が、俺に自信をくれる。
あんたが喜んでくれるなら、それは俺の自信へと変わる。
少し近づけたと思ったら、またすぐに離される。結局はプラマイゼロ。俺たちの差はなかなか埋まらない。
だけど―――その度に“好き”が増して、積もっていくから。
その積もった“好き”で、いつか俺たちの差が埋まればいいと、そう思った。
*end*
生徒会長至高。様提出物
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