short | ナノ
「―――お、やっと来た」
「やっと来た、じゃないですよ」
「はは、お前生徒会でなかなか来れないからなーみんな指導してもらいたいって離さないだろ」
部誌を書いていたのか、机の上で俯いていた顔がふっと上がる。来ることは予想済みだったのだろう、後輩の姿を確認するとニヤッとして嫌味を口にした。すると、嫌味の標的にされた彼はすぐに思わずすみませんと口ごもる。
そう、彼こそが、新歓戦争の開幕を宣言した張本人であり、学園のトップである生徒会長様だった。
仕事が忙しすぎて部活には週一くらいでしか参加できず、空き時間の自主練が主となってしまっていることに負い目を感じているため、部長に対して頭が上がらない。そのせいで話をしに来たはずなのにきゅっと口を閉じてしまった後輩に、仕方ないなと笑ってその頭をくしゃっとかき混ぜた。
「どうした、なにか言いに来たんだろ?新歓に対してか?」
「あ、そうです!あのビラなんなんですか!」
「あれ?だってお前がかっこよく言ってたから」
「は?」
「持てる力を総動員して部のアピール、だっけか?」
在校生ならあの宣言を聞いているのは当然なのだけれど。しかしあまりに身近な人間から繰り返されると羞恥心が込み上げてきてしまう。赤くなるのを誤魔化すように、彼は咄嗟に声をあげた。
「だからって!ビラに俺のこと書かなくてもいいじゃないですか!」
「お前も十分うちのアピールポイントの一つだと思うんだけど」
「俺がいるってことに釣られてきた生徒なんて続くわけないでしょう!そもそもあの大量の見学者の中に、どれだけ入るって人間がいるんだか…」
「だけど、たった一人でもあの中から弓道に興味持ってくれれば嬉しいじゃない」
動機が不純だなんて、そんなこと気にしないよ。
そう言って笑う先輩に、あーもう、と額に手を当てる。
「それはそうですけど、さすがにあれは集めすぎですよ。部活の進行に影響出てたじゃないですか…」
「それはお前の人気がありすぎたせいだろ」
「それ俺のせいですか!?」
「それに進行の問題はあいつらのメンタルが弱いのが悪い。ちょっと状況が変わっただけで的中率下げやがって…いつも通り中ってるの俺とお前ぐらいじゃないか?」
不満そうに口を尖らせ、腕を組む部長。
部誌を睨みながら再び計算に戻る姿に毒気を抜かれ、苦笑する。
(―――まったく、この人は)
普段はやる気のない適当な感じのくせに、弓道のこととなると真剣になるのだから困る。今の部員達が練習を必死にこなすのも、この人に見てほしいからっていう気持ちが多少なりともあるのを、この人はわかっているのか。
まあ確かに、動機が不純でも結果が出るなら構わないとは思うけれど。
(ただ、ちょっとだけ、面白くない)
この人が他の部員に、こんなにも慕われていることが。
恋人の株が高いのは自慢だし誇りでもあるけれど、嫉妬の要因であるのも事実。自慢したいけど知ってほしくない。見てほしいけど見てほしくない。複雑な恋心は扱いに困る。
なんて、先輩のこととなるとらしくないことを考えてしまう自分に、彼ははぁっとため息をはく。鬱陶しそうに頭をかくと、くるりと背を向けた。
「ったく、どんな奴が入ってきても知りませんからね」
「あぁ…心配すんな、お前をがちで狙ってる奴を俺が見逃さないとでも思うのかよ」
「っ、先輩!?」
「だーいじょうぶ、お前が次来るときまでにふるい落としといてやるから安心しろ」
驚いて振り向くと、悪戯っぽく笑う恋人。
それを見た途端、カッと頬に熱が集まるのがわかる。嬉しくて、恥ずかしくて、ぐるぐるして。不意打ちのそれに対処しきれず、彼は咄嗟に失礼しました!と大きな声を出し、派手な音を立てながら道場へと飛び出していった。
部室に一人残され、がしがしと頭をかく先輩。
扉のすぐ外で、ずるずるとしゃがみ込む後輩。
(本当はあんたが囲まれてるのが面白くない、とか)
(お前が俺のものだって自慢したいから、だなんて)
((悔しいから、絶対言ってなんかやらない))
二人の意見の相違。
その動機は―――好きだから、それだけだった。
*end*
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