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喧嘩ップル番外
特攻隊長×総長










「総長、俺、やっぱり総長のことが好きです。だから―――…」



ゆっくりと跨がってくるしなやかな体。
ずっと俺だけを見てほしいと願い続けた鋭い瞳。
望んでいた甘美な言葉を紡ぐ唇。

体の関係を持とうとも、決して回されることのなかった腕が首へとかかる。目を細め、ゆるりと近づいてくる顔。
ついに、やっと、手に入る。ずっとずっと欲しくて、腕のなかには決して残ってはくれなかった相手。恋焦がれていた想い人。
俺の唇に、その薄い唇がそっと触れた、瞬間―――…



「あんたのすべてを、俺にくれよ」
「―――っ!」



刹那、鋭い瞳は狂気じみた切れ長の瞳へと変わる。
にたりと大きく吊り上がる口端。カスカスに色の抜けた髪。

ぞっとするほどの、色気。



(――――喰われ、る…!)



本能が逃げろと告げる。頭のなかで警鐘が鳴り響く。
必死に足掻いて目の前の男を振り払い、死に物狂いで起き上がる――――と、視界を白が舞う。バサリ、音を立てて舞ったシーツ。


わけもわからず目を見開けども、そこにいるのは自分一人で。



「ゆ、め……?」



荒い息。
ぐっしょりとかいた汗。
部屋の中央に置かれたベッドに、一人。



「あ、はは…よかった、ゆめだ……」



ばくばくと心臓が暴れている。
かたかたと情けなく震えている体を膝を抱えて抱き込み、乾いた笑いを漏らした。

けれど――――…




(あぁ、違う……夢じゃない)




抱え込んだ脚が立てた音に現実に引き戻される。右足首に鈍く光る冷たい枷が、そこから伸びる鎖が、現実から逃避することさえ許してはくれなかった。
身に纏うものはなに一つなく、唯一足枷だけが、付属品として存在を主張する。

つ…と人差し指で冷たい金属を撫ぞる。
填められているそこは、何度も抵抗したせいで赤く擦りきれてしまっていた。





「起きたんだ?総長」
「っ!て、め…!」



ぼんやりと指を往復させていた頭上から、唐突に降ってきた声にびくりと大袈裟に体が反応した。

見上げれば、至近距離に先ほど夢に見た男。思わずざっと身を引けば、にたりと笑ってベッドに乗り上げてくる。
我が優秀な特攻隊長にとってみれば、気配を消すことなど造作もないことなのだ。



「ちか、よるな…」
「んなこと言わないでよ、俺興奮しちゃう」



あっという間に距離は詰められ、被さるように抱きすくめられる。すんすん、と首筋の匂いを嗅がれてぞくぞくと総毛立った。



「ふふ、愛してるよ総長」
「やめ、ろ…っ!」
「大丈夫、本当に愛してるから」
「うるさい!離せ…!」



耳尻を打つ低い囁きを聞きたくなくて。
もがいてその腕の中から逃げ出そうと抵抗する。しかし、緩く拘束されているはずの腕からは決して抜け出すことはできない。



俺がこいつに捕まったのは、長年想い続けてきた右腕にフラれた直後だった。
ふらりと少し足元が覚束なくなった途端に巧妙に絡み付いてきたこいつを振り払えるほどの気力を、俺は持っていなくて。甘い言葉を囁くこいつの手を振りほどけるほど、俺は強くはなかった。




「まったく、あの人もバカだねぇ」
「…!」
「俺なら、あんたみたいな極上の獲物、逃がしなんてしないのに」



口づけと共に落とされる囁きが、いつだったか自分が囁いたものと同じで。



「それにあんたのこと散々頼っといて自分だけ幸せになるなんて、勝手だと思わない?」
「そんなことない…!」
「そうかな。ねぇ、俺だったらあんたにそんな思いさせないよ」



やめてくれ。
拒めない、拒みきれないんだ。
愛せなんかしないくせに、愛されたくなってしまう。



「いやだ、俺は無理だ…!」
「なにが無理なんだよ?どうしちゃったのさ」
「違う、ごめん!ごめん…!」



あいつも、こんな気持ちだったのか。
返せないとわかっているのに、気持ちを利用したくなる。
好きでいてくれる人の側で、ぬるま湯に浸っていたいと思ってしまう。




「あはは、なに謝ってんの?ねぇ総長、俺はあんたが好きでこんなことしてんのよ、勝手に謝んないでくれるかな」



ぎらり、射抜かれる。
元々切れ長の瞳が更に細まり、獲物を狙う捕食者の瞳へと変わる。ニヤリと笑う男臭い笑みは、恐ろしいほどの色気を放った。



「はっ、俺総長のそういう意味わかんない優しさ好き。わかってんの?あんた俺に監禁されてるんだよ」



手首を取られ、口づけ舐められる。
逃げられない俺に、目も口も、三日月形を描く。



「大丈夫、愛してるから」
「っ、 」
「安心して俺の気持ちに漬け込めよ」



寂しさにつけ込み、気持ちにつけ込まれていた。
今度は気持ちにつけ込み、寂しさにつけ込まれるのか。




「今はまだ、それでいい。
逃げたくても逃げられない理由を作ってやるよ。俺に愛されるしかない状況を作ってあげる。全部俺のせいにしてくれて良い」
「お、まえ…」
「だから――――…」




いつかここまで、堕ちてこい。





深く重なる唇。
重たい鎖が、じゃらりと大きな音を立てた。





*end*





―――――
TwitLongerより



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