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奏さんへ
用務員受け







通い慣れてしまった道のり。
自然と足がこっちに向くようになった時間。
ほぼ毎日、部活帰りの同じ生徒にする挨拶。
いつも通りの道を通り、いつも通りの挨拶をし、いつも通りの時間に体育館の扉を開ける。そうすれば、やはりいつも通り開いている倉庫の扉。きっと中を覗けば、いつも通りあいつがボールの管理をしているんだ ろう。



「おい来たぞー!」



つなぎのポケットに片手を突っ込みながら呼び掛ける。どこかに不具合はないか見回しながら倉庫の方へと歩いていると、ひょこっと馴染みの生徒が顔を出した。さっきまで部活をしていたんだろう、首にはタオルがかかり、眼鏡は若干曇っている。
ここ最近俺を毎日毎日この時間に体育館へと呼びつける変わり者の彼は、バスケ部の部長だ。



「あーこっちっす。すみません毎日」
「いや構わねぇよ、仕事だし。今日はどしたー?」



そう問えば、精悍な顔が嬉しそうに目を細めて笑う。
ちょいちょいと手招きをして中へと消えた部長くん。昨日はボールの空気入れが壊れていた。一昨日は照明が1つ切れていた。そして一昨々日が最初の日で、あの時は窓が割れていた。さて、今日は何があったんだろうかね。



「今日はどうした部長くん」
「えーっと、あれなんですけど」
「ん?」
「あれあれ、あそこっす」
「あー確かに。ありゃ動かないだろ、扉」



指差された先には棚の歪んだ滑り戸。上側が歪んでるから脚立が必要だけど、まああれくらいなら俺でも直せるだろ。
持っていた工具箱を床に置き、肩に掛けていた脚立を下ろす。



「すんません、いっつもいっつも」
「いいよーお前が部長になってからだもんなぁこんな直すとこいっぱい見つかったの」
「え、うわ、すみません!」
「なんで謝るの。それだけお前がきちんと管理して確認してるってことでしょ」
「そ、そうすかね、へへ…」



頭をぽりぽりと掻く純情スポーツ少年。
いいねぇ、爽やかだねぇ。おじさんまで照れちゃうよ。

微笑ましい部長くんの頭をぽんぽんと撫でて、金槌片手に脚立に上る。んん、これならすぐ直せそうだ。



「よしよし、すぐ直っからちょっと待っててな」



こんこんと内側から打って少しずつ歪みを直していく。わかりました、と答えてから静かになった部長くん。集中させてくれてるんだろう、この会話のない静かな時間は実はお気に入りだったり、する。
後ろでごそごそ何かを弄る音がする。またこの真面目で几帳面な部長くんは、後輩に任せればいいのに自ら色々用意したりメンテナンスをするんだろう。

うん、こんなものか。 こつこつと歪みを直してガラガラとスライドさせて確かめる。



「おう、できたぞ」
「あ、本当ですか…」
「んんー?」



ぽつり、呟かれた少し寂しげな声に振り返ると、困ったような顔で部長くんがこっちを見ていた。どうしたどうした、いつものワンコのような君はどこいった?



「すみません、いっつも自分で直せるようなもんばっかで…」
「いやだからこれが俺の仕事だからな?」
「うん、そう…そうですよね」



脚立を下りる。工具箱に閉まって2つとも担ぎ上げる。
まだ湿気た顔をしてる部長くん。なにか言いたそうなのでとりあえず待ってやる。



「どうしたよ」
「いや…えっと、もう多分、直してもらうところないんで…」
「んん?」



もう直すところはない?そりゃいいことなんじゃないか?
首を傾げると、せっかくちょこちょこ呼んでたのに…と聞こえるちっさな声。なんだそれ、聞こえてるぞ。な んでそんな面倒なことしてるんだ君は。



「うーん?ごめんなぁ、おっちゃんよくわかんないからもうちっと説明してくれないかな?」
「って、もう…ぇないじゃないっすか」
「え?」
「…ぅ、もう会えないじゃないっすか!」



必死な顔でそんなことを宣う部長くん。
ぱちぱち、と瞬くと、はっと我に返って今度は顔が真っ赤に染まる。思わず笑うとすぐに泣きそうな表情になった。
ていうかなんだ、そんな事でそんなショボくれてるのか君は。



「じゃあ用務員室来ればいいんじゃないの?」
「え、」
「別名俺の部屋。知ってるっしょ?」
「や、え、知ってますけど!いいんすか!」
「え?いいよ、別に」



なかなか生徒諸君と関われない用務員さん的には嬉しいのよ、慕ってくれる生徒さんがいるのは。せっかく こんな仲良しになれたんだし、俺だってこれっきりは寂しいもの。



「いつでもおいで、待ってっから」



なんて、軽ーい気持ちで快諾した俺は、この後思わぬ事を経験することになる。
いやぁ恐いね、若いって。





―――――
TwitLongerより
Twitterでの2013年お年玉企画でリクエストして頂きました



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