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「悪い待たせた!ちょっと支度に時間がかかって…」
「あーまあ、別に俺も今来たとこだし。つーか今日も気合い入ってんなー」



まるでモデルのように決めたイケメンがお決まりの文句を言いながら、待ち合わせ場所に5分遅れて現れる。遅刻するとわかって急いだのか、そのバカみたいに端正な顔にはうっすらと汗が滲む。いつもはクールな男の上気した頬だとか、隠しきれない期待に満ちた顔だとかがかわいくて、俺の口も自然と綻ぶ。もちろん10分前に着いて待っていた俺は、門から凭れていた背を起こしてお決まりの文句でお出迎え。
お約束のやりとり。お出掛けが楽しみでたまらない恋人がかわいくてたまらない彼氏。ああ、なんて完璧なデートのはじまり。



「当たり前だろうが!なんたって今日はスイーツの日だからな!」
「あーはいはい。いーからとっとと行くぞ会長さん」
「あっ、おいちょっと待てよ!」



ーーーなんて、そう思ってるのは俺だけみたいなんだけど。



うちの学年の生徒会長は、全校生徒の憧れであり、誇りである。
説明するのもアホらしいくらい、完全無欠なただの超人。どんなことでも涼しい顔して完璧にこなすこの男は、おまけに顔まで一級品ときた。こんな男を周りの人間が放っておくわけがなく、当然百人単位の信者に崇められ讃えられ。
そんな、性別など関係なく誰もが惚れこむ生徒会長のたった一つの秘密ーーーそれは、無類のスイーツ好きだということだった。



「っあーーー…幸せだー…」
「それはよかったことで」



学園の信者共が見たら卒倒するほどに顔を緩めて心の底から幸せだと宣うイケメンに、俺はコーヒーを啜りながら目を細めた。この顔を見られるってだけで、今日一日を潰す価値は十分。まるで恋する乙女のようにうっとりとケーキを見つめ、宝石を扱うかのようにそっとフォークを滑らせる。幸せオーラを振りまきながら大切に噛み締める姿に、無意識に口角が上がった。



「んっとに幸せそうに食うよな…学園の奴らが見たら気絶すんぜ」
「仕方ねぇだろスイーツ様の前には俺は無力だ…」
「はいはい。スイーツ様ね、スイーツ様」



ほう、と悩ましげに息を吐く姿に苦笑する。
あーあー、そんな顔晒しちまって、店内が大変なことなってんじゃねぇか。俺にだってそんな顔したことないくせに。だがこいつの中の最高位はスイーツだとわかってるから、嫉妬する気も起きやしない。

生徒会長であるこいつと、風紀委員長である俺だけに、多忙な日々へのご褒美として許された特権。それは、月に一度、好きなときに街に下りていいというもので。
好きなときの外出許可のくせに、たまったま二人が選んだ日が被ってしまったあの日。俺はスイーツの有名店に並んでいるこいつをたまたま見つけてしまい、なぜかずっとずっとひた隠しにしてきたらしい無類のスイーツ好きという秘密を知ってしまったのだ。
あれからというもの、毎月こいつに誘われて俺はスイーツ専門店を巡り続けている。最初こそ死ぬほど口止めしようと圧力をかけてきたが、どうやら俺を味方につける方が早いと気づいたらしい。なぜ誘われるかって?こいつもさすがに、男一人でスイーツ専門店に入るのには勇気がいったし、その幸せを語れる相手が欲しかったから、らしい。おまけに奢ればこのことは黙っとくと俺が言ったから。まあ一人だろうと二人だろうと、厳つい俺が増えたところで店内で浮きまくるのは違いないんだが。



「まあ似合わねぇのは仕方ねぇんだが…」
「う、うるせえな!どうせ似合わねぇよ!でもいいだろうが、バカにすんなよ!」
「別にバカにゃしてねぇよ」



そわそわきゃっきゃと感じる数多の視線に辟易しつつ呟けば、目の前の綺麗な額にしわが寄る。ああ、でた、スイーツと自分のギャップに対する過剰反応。別に俺はそのことについて似合わないと言ったわけじゃない。俺とこの店について言ったつもりだったんだがな。
ぎりっとフォークを握り締める手。さっきまでの幸せそうな雰囲気から一転、鉛のように重くなった空気に頬をかいた。



「あー…お前さ、前から思ってたけどなんでスイーツ好きなの隠してんの?恥ずかしいの?」
「だっ…、……似合わねぇだろ、こんなん。俺がスイーツ好きとか気持ち悪ぃし」
「は?なんで?誰かにそう言われたの」



珍しくネガティブな発言をする男に眉を上げる。らしくねぇな。なんだよ、元カレとか言うなよ萎えるから。
俺がむっとしてそう言うと、しわが寄っていただけだったその顔が、一瞬でさらに歪んで最高に不機嫌な顔へと変わった。



「てめぇがついさっき言ったじゃねぇか!学園の奴らが見たら気絶するって!」
「あ?いやそれは、」
「チッ…わかってんだよ似合わねぇのはよ」



でも、好きなんだ…と悔しそうに呟かれたその言葉が、なぜ俺に向けてのものじゃないのかと一瞬本気で考えて、はっと我に返った。違う、ここはそうじゃなくて、えっとそう、フォローしなければ。



「おい、勘違いすんなよ?俺はお前の幸せそうな姿見たらみんな気絶すんだろうなって思っただけだ」
「えっ、」
「それに、他の奴らがどう思うかなんて関係ない。お前とスイーツの組み合わせ、俺は好きだぜ…そんな普段からは想像できないお前の一面も……」
「お、まえ…!」



微笑む俺、はっと切なそうな顔をするお前。
完璧なフォロー。計算されたかのような口説き文句。どんなお前でも受け止める包容力。俺だけがお前をわかってやれる特別感。
完璧だった。漫画だったら、周りに薔薇だったりキラキラだったりのトーンが貼られている胸キュンシーン。



「ーーーありがとう!お前、本っ当にスイーツに理解あるよな…!」
「あー…ははっ、まあな」
「これからも一緒にスイーツ巡りしような!」
「おう任しとけー…」



まあ、現実なんてこんなもんだ。
一点の曇りもない瞳に笑みを返しながら、周りのお姉様方の哀れみの眼差しを受け止めながら、俺はコーヒーを静かに啜る。

まあこれからも、スイーツ巡りという名のデートは続くのだ。二人だけの秘密もきっとこのまま。段々と距離を詰めて、こいつの特別になってやればいいんだ。
ーーーそう、スイーツの次くらいに。





*end*
リハビリ第二弾
フォロワーさんのリクエストでした



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