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不知火さんへ






「いつものとこでいいの?」
「ん、いいよ」
「了解」



いつものバーの目の前に車を止めてもらう。キッと音を立てて止まったオープンカーからひょいと降り、振り返りながらさんきゅとだけ言うと、ネクタイをぐいと引かれて唇が重なる。ふわりと香るセンスのいい香り。ちゅっと音をたてて離れた真っ赤な唇が、にこりと色気たっぷりに笑った。



「言葉だけだなんて冷たいのね」
「…だからキスしたろ」
「ふふっ、いってらっしゃい。あまりやんちゃしないようにね」



目を細めてうっそりと笑う美女に、敵わねぇなと思いながら背を向ける。スラックスのポケットに手を突っ込みながらトントンと階段を下りていけば、俺がポケットから手を抜く前に扉が勝手に開いて。カランカランと音をたてて動いた扉の向こうには馬鹿みたいに腰を低くする奴らがいて、思わずニヤリと笑みを浮かべた。
こいつら、見てたな。



「柴咲(シバサキ)さん、ちーっす!」
「ちーっす!」
「おう」



適当に答えながら中に入ったのも束の間、ホッとしたような様子のそいつらに僅かに悪戯心が刺激され、ちょっくらいじめてやるかと振り返ろうとした時だった。奥からやってくる我らが総長を見つけ、俺はひらりと手を上げた。



「よ、片倉(カタクラ)」
「見せつけてくれんじゃねぇの柴咲くん」
「イイ女だろ」



両脇に女を侍らしたお前がなに言ってやがると思いつつ、口角をつり上げて応えてやる。ここいらを絞める族の総長の女だということをプライドとしているような、そんないかにもな女。とても高校生だとは思えないその化粧とルックスには感心するが、同時に片倉とは趣味が合わないことも実感する。まあ、高校生に見えないってのは俺たちも人のこと言えたもんじゃないが。
なんて、そんなことを考えていたら、こいつも考えることは同じだったようで。



「ほんとてめぇとは趣味合わねぇな」
「ああいうさ、自分が絶対上だと思ってるようなプライドの高い女が俺の下で啼くんだぜ?最高じゃね」
「悪趣味」
「ヤれりゃいいだけのてめぇに言われたかねぇよ、俺は一途だ」
「うっせぇな。ほら、お前らももう帰れ」



俺に憎まれ口を叩きながら、片倉は散った散ったと用済みのセフレたちを追い払う。えーっと文句を言いながらこっちにもチラチラ視線を送ってくるそいつらに、うげっとなりながら気づかないふりして片倉と奥へと進んだ。
だから趣味合わないって言ってんだろ。それとも自分らが片倉の本命じゃないって自覚でもあんのか?



「っかし、自分が一途だとはよく言えたもんだな」
「なに言ってんの、俺は一途だろどう考えても」
「あーはいはい」
「自分が決めた奴だけにずっと付いてってるんだけど?」
「それは知ってる」



そんなことを言い合いつつ奥の幹部の部屋を開けようとしたその時、バンとでかい音を立てて乱暴に開かれたバーの扉。カランカランッと激しく音が響く。何事かと即座に振り向くと、ぜぇぜぇと肩で息をする仲間が、泣きそうに必死な顔で俺たちを見ていて。



「総長、副総長!あいつらが連れてかれました…!」



言われた途端、ぶわっと殺気だって立ち上がる面々。一気に上がるボルテージ。全員がこちらを向き、そしてそれに応えるように、隣の男が低く唸った。



「―――行くぞ、てめぇら」



目の端に猛る猛獣を捉えつつ、沸き上がる興奮に堪えきれずに唇を舐め上げる。
さあ、ショータイムだ。






***






「っあー疲れてないせいで疲れたー」
「久々だったなこういうの」
「しっかしまあ手応えのねぇ」
「ま、仕方ねぇわな」



久々に殴り込みにいった先にいた奴らは数が多いだけの腰抜け集団。うちに喧嘩をしかけたくせに、いざ戦闘開始すればとんでもなく手応えがなくて。あっという間に終わってしまったショーに、勇んで行った全員が全員、不完全燃焼で帰ってきたわけだ。
ブスくれる奴らをバーに置いて二人で幹部部屋に戻った途端、片倉はバサッとベッドへと倒れ込んだ。持て余す体の熱を処理するためかスマホでセフレを選び始めるのを横目に、俺は無造作に放ってあったエロ本なんぞを拾ってみたりして。自分で処理すんのは面倒くせぇけどあの人は今仕事だろうしなーとペラペラと捲っていく。



(んー、あいつらに混ぜてもらおうかな………あ、)



3Pか、はたまた4Pか…と考えながら上げた視線の先、片倉以下幹部の変態共がたまにプレイで使ってるらしい物が目に入り、思い付いてしまったことに笑みを溢した。
―――なんだ、混ぜてもらわなくたって、2Pだっていいじゃねぇか。



「おい片倉」
「んー?」
「ちょっとあっち向け」
「あっち?」



いつもだったら、喧嘩を前に高ぶった体と気分を発散しきってすっきりして終わり、で済むはずだった。だけど、残念ながら今日はそうじゃない。
なあ片倉、気が立って仕方ねぇ、その言葉は俺にも当てはまるって、気づいてるか。



「よっと、」
「ちょ、は!?てめなにしてっ」
「なにって、手錠?」
「はああ!!?」
「いつも使ってんだろ?」



カシャンと音がして後ろ手に拘束される手首。さすがプレイ用とでも言うべきか、大分頑丈にできているらしくガッチャガッチャと外そうともがく片倉を見事に拘束しているのに感心する。
子供の玩具かと思ってたが、イイモノ使ってやがるこいつら。



「んで、これをここに繋ぐのか?」
「ちょ、おいまじでふざけんな!いい加減にしろ!!」



驚いて反応に遅れてるうちに、誂えたようにその手錠に付いていた鎖をベッドヘットへと引っ掛ける。これで猛獣の捕獲完了。手を拘束されて身動きのとれなくなった状態に満足し、自分もベッドへと乗り上げる。その腹の上に跨がって金属チェーンを指でピンと弾けば、ギロリと鋭い視線が返ってきた。



「柴咲ぃ…てめぇ、なんのつもりだ…」
「発散してぇんだよ、ちょっと付き合え」
「っざけんじゃねぇ、誰が…っ!」
「てめぇも持て余してんだろ?」



だったら一石二鳥じゃねぇか。そう言って笑えば、勢いよくブッと頬に唾を吐きかけられた。抑える気もなくビリビリと向けられる鋭い殺気が心地いい。手の甲でぐいと唾を拭って舐めてやれば、ひくりと片倉の頬が引き攣った。
ああヤバイ、俺今、可笑しいくらいに高揚してる。その顔、最高にイイな。ぞくぞくするよ。



「ってめぇ、一途じゃねぇのかよ…!」
「一途だろうが。ずっとてめぇを支えてきたろ?」
「だったら俺に突っ込ませろ!」
「ははっ、嫌だね」



ギリッと歯を食い縛る片倉の頬を撫でる。大将として大切な存在だが、こいつのことを別に可愛いとか、愛しいとか思うわけじゃない。それなのに、鬱陶しそうに顔を背けるその仕草に、どうしてこんなに興奮させられるのか。
そんなの、理由はひとつに決まってる。



「はっ、こんなことしてまでこんなちっぽけな不良集団が欲しいかよ?ちっせぇ男だな」
「あ?なに言ってんだ」
「そんなに俺を引き摺り下ろしてトップになりたいのかよ、くだらねぇ」
「ははっ、ジョーダン」



見当違いもいいとこな言葉を、馬鹿にしたように笑って一蹴してやる。
ああほんと、馬鹿だなてめぇは。さっきも散々言っただろうが。すっかり忘れやがって、都合のいい頭だな。
カリッと首筋を引っ掻くようにチェーンへと指をかけ、ピンと思いきり引っ張りながらニヤリと笑った。



「―――俺より自分が絶対上だと思ってる奴を啼かすのって、最高だろ?」



増した殺気に、イきそうなほどぞくぞくする。
この悪趣味野郎、ぶっ殺してやるという睦言を聞きながら、その唇に噛みつくようにキスをした。






*end*





―――――
TwitLongerより



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