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公さんへ








一段と長引いた隊の集会を終え、最近の寝不足の積み重ねでふらふらな足を引き摺ってなんとか自分の部屋へと辿り着く。ずきずきと痛む頭に顔をしかめながら、ぐいと乱暴に扉を引いた。
くそう、全部全部あの宇宙人のせいだ。明日の隊長会議が今から憂鬱、なんて愚痴りつつ中に足を踏み入れた時だった。



「おっかえりー、遅かったね?」
「―――は?」



俺を迎えたのは、ソファの向こうから投げ掛けられた聞き慣れた声で。思わず間抜けな声を出せばふわふわした金髪がくるりとこちらを向いて、ソファの背に乗っかるように身を乗り出した垂れ目が色気たっぷりにニッと笑った。



「なぁに、ビビった?」
「なん…っ、なんで、貴方がここに、」
「来ちゃった、つって」
「ちょっ、鷹宮(タカミヤ)様!?」



語尾にハートがつく勢いで上機嫌に言われ、ぽかんとしたのも束の間。漂ってくる香りに俺が慌てて靴を脱いでばたばたと中に入ると、ソファの前のテーブルには見事な食事が並んでいて目眩がした。
ちょっと待ってくれ。いったいなにをしてるんだ、この方は。更に増したような頭痛にこめかみを押さえる。



「鷹宮様、貴方お仕事は、」
「もう終わらせてきた」
「だったら早く食事なんて終わらせて寝てください!」
「は?なんで?」



俺の心からの願いに不可解そうに眉を寄せる鷹宮様。だけど、その秀麗な顔に隠しきれない隈ができているのを、俺は知っている。
当然なのだ、あの転入生がやってきてからずっとこの人は一人で生徒会の仕事をこなしているのだから。会長も副会長も書記も庶務も、みんながみんな恋にうつつを抜かして仕事を放棄する中で、会計である鷹宮様だけが残って奮闘している現状。そんなの、一人ですべてこなすなんて無理に決まっているのに。



「なんでじゃないですよ!おわかりでしょう、いい加減お休みになってください!」
「そんなカリカリすんなよなー」
「誰のせいだと…!」
「んー…俺かな?」



どうしてそんな、疲れきった身で更になにかをしようとするのか。これが、この人と俺が恋人関係だから、とかならまだわかる。恋人不足だとか、そういう可愛い理由だったらどれだけいいか。だけど、この人はそうじゃないのだ。
今日たまたま選ばれたのが俺なだけであって、この下半身男、は。



「あはは、楽しいなー恋人ごっこ」
「本当に休んでいただかないとお体を壊しますよ」
「いーじゃん、俺がこういうので癒されるって知ってんでしょ?ぬくもりが欲しい寂しがりやなウサギさんだからさー」



色気がただ漏れな色男はそう言って、元々垂れている目尻を一際下げて笑った。寂しいと死んじゃうかも、と手を引いてくるその人に、俺は深くため息をつく。
この人がこういう質なのは、学園の誰もが知っている。けれど、こうやって恋人ごっこを求めてくるのは、暇で暇で仕方ない時か―――もしくは精神的に参ってる時なのだと、この人は自覚しているのだろうか。



「どうしたの、飯食う気にはならない?」
「いえ、そうではなくてですね、」
「なんでそんなイライラしてんのさ。あ、じゃあ先にヤっちゃう?」
「…は?」
「ストレス発散にさ。付き合ってあげるよ」



そう言ってニヤッと笑うその顔を、思わず思いきりぶん殴るところだった。そう言うこっちゃねぇよ、喉まで出掛けた言葉をなんとか飲み込む。
ああもう、信じられない。きっとこの人は今日の恋人役の俺のことを考えて、俺を思ってのこの発言なのだと思うけど。それでもイラついてしまう俺を許してほしい。素で、本気でどうしてそんな結論に至れるのか。

呆れ果てながらすっぱりきっぱり結構ですと答えると、俺の手を掴んでいた手がするりと離れた。そうして頭まで完全にソファの背に沿うように沈みこみ、顔を隠すように腕を上げる。



「ひっでーな。付き合ってくんないの。俺のこと好きなんじゃないのか親衛隊長のくせにー」
「鷹宮様、」
「あーもう、誰も必要としてくんなくてさーみーしーいー」
「………」



ほら、やっぱり堪えてるんじゃないか。
ずっと一人で、あの広い生徒会室にいるなんてキツいに決まってる。辛くないわけがないんだ。だから本当に一刻も早く寝てほしいけれど、でもそれじゃあ多分、この人的に一番キツい精神的な部分は回復しないんだろう。
じゃあどうすればいいのか―――ふと思い浮かんだ名案に、思わず笑みを浮かべそうになった。



「…いいですよ、ヤりましょう鷹宮様」
「えっ!じゃあ!」
「だけどその前に夕飯をいただきたいです。せっかく作っていただいたんですから…美味しそうですね」
「あっ食べる?オッケー温めてくるわ!」



了承を示した途端、ぱぁっと明るく笑顔になる正直な方。ばたばたと台所へ向かう背中を見つめながら、俺は我慢しきれずに笑みを溢した。
可愛いお方だ。きっと今は、どう俺を可愛がるのかで頭がいっぱいなんだろうけど。



(―――だけど今日は、俺が可愛がってさしあげますよ)



そうすれば人のぬくもりに触れることもできるし、終わった後は死んだように眠るだろう。今日は無理矢理にでも、精神的にも体力的にも回復していただこうじゃないか。
そんなことを考えつつ、俺はぺろりと唇を舐めたのだった。






*end*
実は会計の方も、恋人ごっことか言いつつ弱ったら無意識に隊長の部屋行ってたらかわいい






―――――
TwitLongerより



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