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「よぉデカいの。今日も今日とて気持ち悪いくらいデケーなぁ」
「お前こそ一段とちっちゃいんじゃねぇ?絶好調だなチビちゃんよ」



ドアを開けてやって開口一番言われた言葉にひくりと顔を引き攣らせつつ、俺の口からも勝手に言葉が飛び出した。
癖みたいなものだ。だってこれが、ずっと昔からの挨拶だったから。






***






こいつ、チビこと増田(マスダ)と俺、薄井(ウスイ)は、いわゆる腐れ縁というやつだ。家が隣同士で親の仲が良くて幼馴染み。幼稚園が同じなら小学校、中学校、さらには高校も大学も同じときた。なんならピアノ教室からスイミングスクールまで一緒だ。まあこれは住んでる場所が近いなら選択肢が絞られるが。
とにかく増田とは生まれてこの方所属先やらなんやらが全部一緒なのだ。帰り道も一緒だから憎まれ口を叩きつつ自然と一緒に帰ってしまう。顔見知りというか幼馴染みだから見かけるとなんとなく話しかけてしまう。ついでに忘れ物を隣の母ちゃんから受け取ってしまう。
そんなこんなでなにかと接触が増えるせいで俺たちの腐れ縁はすぐに周囲にはバラてしまう。そして俺たちが一緒にいる場面をよく見る奴らから付けられたあだ名、その名も“凸凹コンビ”。



「あーしっかし今日の課題まじめんどくさくなかったか?」
「はっうどの大木のお前と違ってあんなもん俺様の天才的な文章力でちゃっちゃと終わらせてやるぜ」
「はいはい小学生レベルの文章力な、さすがチビだ、体も頭も」



ビールを開けてぐいと流し込む。開始早々、缶ビールはもう何本も空いているが、こんなもんテニサーという名の飲みサーにいる俺たちにとっては朝飯前だ。ちなみに入ったあとでやっぱり同じサークルだったことに気づいたときは、もう二人とも驚きはしなかった。

俺たちが“凸凹コンビ”だなんて呼ばれている理由、それは俺たちの見た目にあった。190センチの俺と、160センチのこいつ。身長差はぴったり30センチ。うっかり隣並んじゃったりしたらもう、そのアンバランスさが甚だしい。数字は違えど、どちらが見下ろしてどちらが見上げるか、これはそれこそ物心ついた時からずっと変わらないバランス。だから絶対的、一般的にどうこうという話ではないのだ。
お前は俺よりも背が低い。俺はお前より背が高い。
必要な事実はそれだけ。20センチだろうと5センチだろうと、二人に差さえあれば、お前は俺をデカすぎだ、うどの大木だと罵る糧にする。だから俺も、チビだなんだと罵ってやる。



「あーまじねぇわーなんでこんなデカぶつと俺は飲んでんだー」
「そりゃお前が友達いないからだろー。彼女でも作れよはやく」
「うっせぇなー俺様は理想が高いんだ。150センチ以下のかわいい子しか認めねぇつってんだろバーカ」
「あーはいはい。ちっちゃい子がお似合いでかわいいでちゅねー」



呑んだくれて酔っぱらった増田のダル絡みはめんどくさい。さりげなくやつの手元にキープしてある缶をいくつか取り上げながら、適当に返事する。まともに取り合ってちゃやってられん。やつの恋愛話なんか聞いてられっか。
なんだか無性に飲みたくなって、プシッとタブを開けてビールを煽る。コールを受けたような勢いで煽る俺の手を、体温の高い手がそろりと触った。



「っおい、離せよ」
「いーいよなーてめぇは。女の子選り取りみどりじゃねぇか、このデカ」
「…てめぇの器が大きけりゃ済む問題だろ」
「うっせぇなーそれでも俺はちっちゃい子が好きなんだよーかわいいじゃねぇかちっちゃいの…ちっちゃい子じゃなきゃ俺ぁ認めん…」
「わかったからもう離せって、ほら」



もう逆に潰れてもらった方が楽かと手の代わりに缶を持たせてやったが、ぐでっと机の上に伸びた体を上げようとはしない。仕方ないからそのまま放って、俺は俺でさらにアルコールを取り込むことにする。
だってこんなの、飲まなきゃやってられん。


俺は、幼い頃からずっとこいつのことが好きだった。
勝ち気な性格にそこそこ整った顔、いちいち突っかかってくるマメさが俺にとってはそりゃもうかわいくてかわいくて。イケメンは背が低い人が多いらしいぞよかったなと言ったときには頬を見事に引っ掻かれたが、気づけばそんな暴力的な面も単純で直情的でかわいい、と思うほどにはベタ惚れだった。
ただ、自分の気持ちに気づいてからは地獄の日々だったけれど。なにしろ俺という存在は、なによりも増田のコンプレックスを刺激するものだったようで。



(好きなやつに会うたび会うたびデカイウザいと言われてれば、悲しくもなるってんだ)



まだちっちゃい子がちっちゃい子がとうわ言のように呟いている増田を横目に、不貞腐れたいのはこっちだと一人で飲み続ける。やってられねぇ。なんだって俺はこいつを好きなんだか。けれど好きなのだ。きっかけなんてわからないし、今さらどうにかしようとして変わるものでもない。
そんな俺の気持ちを全くもって知らないこいつは、まるで俺への当て付けのように(知らないからそんなわけないのだけど)自分より身長が低い女の子としか付き合ったことがない。背が高くて男の俺とは何もかもが違う女の子たち。当然だが俺は眼中にないわけだ。そうわかっていても、隣にいるせいで自然とちっちゃな女の子たちが目に入るのはキツいものがある。だから彼女がいるときのこいつには近づきたくない。しかも大抵近づくと、立端があって顔もそこそこな俺にみんなして流れてきてしまって増田に余計嫌われることになるから、なおさら。
好きなやつの彼女なんて興味ない。別れさせれば俺とあいつが付き合う可能性があるってんならいくらでも別れさせてやるが、別れたって結局次の相手も俺じゃないんなら意味ねぇじゃねぇか。



(ま、なんだかんだ隣のよしみでずっと付き合いがあるのはありがたいけど)



俺をデカイだなんだ罵り、大嫌いだとまで言うくせに、こうやって宅飲みに誘ってくれるんだからよくわからない。俺にとっては嬉しいことだけど。
ついに寝始めた増田。今日は随分ハイペースで飲んだなこいつ…とさらりとその髪をすく。いつもだったら嫌がれるから、こんな時しかこいつに触る機会はない。今がチャンスとさらさらとその髪を弄ってみるも、なぜか恥ずかしくなって手を引っ込める。
くそう俺のヘタレめ…と思いつつ、立ち上がるためにテーブルに手をつくと、またも増田の手に手首が捕まった。



「ん?おいどうした?」
「…どこ、いくんだ?」
「トイレだトイレ。勝手には出てかねぇから酔っぱらいは寝て待ってろ」
「んー…といれぇ?」



眠そうに瞬きながら、のそりと起き上がる増田。ぼんやりとした目が俺を捉えた。



「…しょんべんしてぇの?」
「だーもうてめぇの家では大はしねぇから安心しろ」
「へー…しょんべんかー」



舌足らずにむにゃむにゃと喋るのがかわいいのはいいが、いかんせん手を離してくれないのは、困る。しかし絡んでくる酔っぱらいの腕を振り払おうとするも、なぜか増田もむきになっているのかしがみついて離してくれない。
いい加減にしてくれ、気分に任せて飲み過ぎたせいかそろそろ膀胱が限界なんだが!



「おい増田!いい加減にしろ!」
「そーおこんなってぇ」
「お前な、って、うわっ!?」



無理矢理にでも立ち上がろうとした瞬間、気づかぬ間に回っていたらしいアルコールのせいでふらっと足元が覚束なくなる。そこで下方向への負荷。当然の如く、俺はすってんころりん尻餅をついた。



「ってぇなーったく、なにすんだよ」
「ちょーっとイイコトおもいついちったー」
「は?ちょ、どこ触って…!」
「ん?ちんこ?」



あらぬところをまさぐり出す手にビビって逃げ出そうとするも、足の上に乗っかられてしまえばそう簡単にはいかない。背が低いと言えど男だ。カチャカチャとベルトを外す恐ろしい音がするのが信じられなくて、増田のにやけた顔面を遠慮なく手で押しやる。しかし見えてくても関係ないのか手の動きは止まらない。押さえるべきは顔じゃなくて手だったかと慌ててそちらを押さえにかかるも、もうすでにズボンの前は寛げられていた。



「おーがらぱんかわいー」
「なっにがしたいんだお前は!」
「ちょっとじっけんしたくてさー」
「は?実験?」
「うん、しょんべんとしゃせいって、どっちがかつとおもう?」
「………は?」



まさか、そんな、ばかな。
信じられないことを言ってくる最悪の酔っ払いに愕然とする。そしてそのせいで一瞬掴む力が緩んだ隙に、ばっと抜け出した両手が俺の股間に襲いかかった。慌てた止めにかかるも時既に遅く、かわいいハートのパンツから、俺の息子がぼろんと無理矢理取り出されてしまった。



「ちょっおい!」
「おーさっすがデカ。ちんこもデカすぎんだろ、きもちわりー。こんなきょうあくなのいれられるほうがかわいそー」
「てっめぇ、うぃっ!?」



ケラケラと馬鹿にする増田にさすがに堪忍袋の緒が切れて、カッと怒鳴る。しかし同時に大事な息子を無遠慮に握られて、盛大に変な声が出た。
その瞬間俺の体を走り抜けたのは、興奮や快感だけでなく、下腹部から沸き上がる激しい尿意。びくっと跳ねた体とおかしな声に気を良くしたのか、俺の制止を無視して増田は手を動かし始めた。



「ちょっ、あ、やだ、やめろっ」
「おーたってきたたってきた」
「おい増田、やだって…!」
「ほんとでけぇな、はらたつわー」



酔ってるせいで制御が利かないのか、乱暴に擦られる俺のかわいい息子。しかし痛みさえ感じる強さだというのに、増田の手だという事実だけで勝手に興奮して勃起してしまうのは男の性か。うっかり気を抜けば出すよりも先に漏らしてしまいそうで必死になって拳を握って堪えるも、そんな俺の意思とは関係なしに先走りさえ流れてきてしまう始末で。滑りがよくなったせいで痛みまでも快感になってしまってどうしたらいいかわからない。正直泣きそうだ。



「うわすっげぇぬれてきた」
「も、やだ、やだって」
「だしたあとにもらすってきいたことあるけどほんとかな」
「ちょ、あ、ほんとに、うああっ!」



くちゅくちゅと先端を弄られて膨れ上がる射精感。目一杯だったはずの膀胱にまたさらに溜まった気がして、今にも溢れ出してきそうで、ぞわあと快感とも寒気ともつかないものが全身を駆け巡る。ブルブルと震える内腿。
だめ、だめだ、きっと一度決壊したら、もう止めることなんてできない。



「も、あ、あ、漏れ、るっ…!」
「いーよ、ここでもらせよ」
「ひぃうっ、あ、汚れるのにぃっ」
「おれがいーっていってんだろ」



そんな問題じゃない。部屋主の許可が出たところではいそうですかと漏らせるわけがない。
バカじゃないのか、この短小ヤロウ、クズ、ちび、死んじまえ。
頭の中で罵詈雑言を浴びせるも、口を開けば情けない声が飛び出しそうでそんなことはできない。ぬちゅぬちゅとしごかれ裏筋を撫でられる。もう今にも出してしまいそうで、それでも我慢しているせいで全身ががくがくと震える。もうこれ以上耐えるなんて無理だ。どうしようもなくて、目の前の体に縋りついた。



「あ、ひ、やば…っ」
「いーじゃん、ほら、イケよ」
「ちょ、や、ああああっ」



こんなにも耐えようと必死だというのに、無慈悲にも逆に出さと促すように早くなる手の動き。出したくて、漏らしたくて、今にもちんこが爆発しそうだ。気が狂いそうな刺激のなか、ぼろぼろと溢れ出した涙は止まらない。
そしてついに、ストッパーは決壊してしまった。



「あ、あ"ああああっ」
「おっでるでる」
「や、あ、とまらなっ…」



びゅくびゅくと狂ったように精液を吐き出すちんこは、まるで俺とは別の生き物のようで。限界まで我慢していたせいか、それとも他でもない増田の手コキのせいか、襲いくる射精感はトビそうになるくらい、いい。胸に飛び散る白濁がようやく出きった頃、射精感に隠れていた感覚が襲ってきて体が震えた。



「あ、あ、や、くる、」
「んーどしたー?」
「でる、で、あ、あああっ…」



一度決壊してしまったものは、当然止められるわけもなく。
ぷしゃあああ…という軽い音と共に出始めた小便に、さらに涙が溢れた。この年になって漏らすとか、本当に、信じられない。だけど排泄感が気持ちよすぎて情けない声が口から漏れる。
最初は勢いよく出ていた小便が最後にちろちろと勢いをなくすまで、目を離すことができなかった。灰色のカーペットに広がる黒い染み。むわりと広がる生暖かさとアンモニア臭。



「ひっ、う…」
「ははっ、くっせー…」



排泄したことで急に下がった体温と共に、頭も冷えて冷静になってくる。情けなくて、怖くて、染みを見つめたまま顔を上げられない。これは引かれた。完全に引かれた。さすがに向こうの酔いも冷めただろう。冷静になった今、完全にドン引かれて嫌われるしか選択肢が見つからなかった。
できるならば今の出来事と記憶を消し去って、なかったことにしてしまいたい。そうでなければとにかくここから自分が消え去りたい。



「も、やだ…」



この期に及んでまだ未練があるのか、涙も鼻水も止まらない。と、デカイ体を可能な限り縮こませて固まっていた俺の頭を掴む手。無理矢理ぐりっと仰向けさせられた。



「やっぱ小便より射精のが強かったなー薄井」
「っも、いいだろ…!」
「おーおー、すげぇぐちゃぐちゃな顔だお前」



呑気に実験結果を報告してくる増田を思いきり睨む。涙と鼻水でぐちゃぐちゃな顔。目があった増田が、にぃっと口角をつり上げた。



「ははっ、あー……燃えてきた」



そう言って顔を歪め、男臭く笑った増田に。
身長とは逆に信じられないほど大きく膨らんでいる増田の股間に。
ざっと血の気が消え失せた。






*end*
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