SS | ナノ




24時間以内に5RTされたらいは『俺様×鬼畜』で【年の差】のお題で小説を書きましょう。

と、いうわけで第1弾。







「佐藤くん、ちょっといいかな」
「はい」



名前を呼ばれて間髪入れずに返事をする。
声を掛けられた方を見ると、課長がデスクでこいこいと手招きをしていたから作業を中断して立ち上がった。早足でにこにこと笑う上司の元へと向かう。
おかしい、普通恋人からこうやって呼ばれれば嬉しいはずなのに。今までの経験からして嫌な予感しかしないんだが。



「なんでしょうか」
「はい、これよろしくね」
「…は?」



とんとん、と積まれた書類の束を指で指されて、瞬間フリーズする。嘘だろう、と目を見開いて課長を見るも、愉快げにこちらを見る目が嘘じゃないよと告げていた。仕方ない、この人はこうなったらどう足掻こうと引かない人だ。
課長が手渡ししようともしない量の書類をガサリと抱え、踵を返す。
と、くん、と引っ張られるスーツの裾。



「君ならできるよ、佐藤くん」
「…っ、知ってます」



振り返れば極上の笑み。
ウィンクされて喉が可笑しな音を立てようとするのを意地でなんとか抑え込んだ。勢いよく前を向けば、くつくつと笑う声が背中を追いかけてくる。
あぁもうまったく、この人は…!


つかつかと重くかさ張る書類を持って戻り、ドサッとそれをデスクに置いた。まだ処理途中の書類と、新しく増えた書類の両方を視界に入れて、とりあえず一本吸いてぇな、とポケットをまさぐる。



「また大量に任されたなぁ」
「相変わらず斎藤イビりすげぇな課長」



お、やっと見つけた、と喫煙所に行こうとすると掛けられた声。
顔を上げると前のデスクの先輩が俺を愉快そうな目で見ていた。こいつらが、同僚も後輩もいない、一番下っ端な俺に突っかかってくるのは恒例行事。周りの人間も聞き耳を立てているのがわかる。
あぁうぜぇな、優秀すぎて妬みを買うのには慣れてるが、鬱陶しいもんは鬱陶しい。



「俺たちが課長に言っといてやろうか?」
「結構です、このくらい俺ができないとでも?」



しらっと冷めた目を向ける。
ひくりとこめかみが引き攣るのがわかり、思わず頬が緩んだ。
毎度毎度懲りねぇなぁ、あんたらも。



「はっ、ははっかっわいくねぇなぁ、せっかく心配してやってんのに」
「あーよし、じゃあ素直になれないお前のために、優しい先輩が言っといてやるよ、お前がぴーぴー泣きながら弱音吐いてたってな」



なんとか矜持を保とうとして大袈裟になっていく言葉。
そのみっともなさに我慢できず、つい、下らねぇ、という言葉が口から出た。



「は?お前今なんて言ったよ」
「だいたいお前みたいな口と顔だけの新人、課長もよく使う気になんな」
「あの人も年食って判断力落ち、」
「下らねぇっつってんですよ、先輩」



吐き捨て、ゆらり、煙草を持って立ち上がる。



「俺のことを心配して頂くのも結構ですが、その口と顔だけの新人にばかり仕事が回って、一向に仕事が回ってこない自分のことを心配したらどうですか」
「このっ…!」
「課長が無能な俺ばかりを使わざるを得ない、この状況をね」



はっと鼻で笑って席を離れる。
そのまま煙草吸ってきますとだけ告げて喫煙所へと向かった。





いい大人がみっともねぇなぁ。
自分らが俺より仕事できないってことくらいわかってんだろうに。目ぇ背けたくとも背けられない会社にいるって自覚ないのか。
それにあの人は、課長は、誰より部下の能力を理解している。そして殊仕事に関しては厳しい人だから、あんなことして仕事せずにいたらすぐ期待されなくなることくらいわかるだろうに。せめて任された仕事くらいちゃんとこなせよ。



「…あーうぜぇ」
「あぁ佐藤くん、奇遇だね」
「っか、ちょう!」



がしがしと頭をかきながら喫煙室の扉を開ける――――と、思わぬ先客にどきりと心臓が跳ねた。



「ちょ、いつの間に!」
「うーん、君が絡まれてる一部始終を見届けてからかな」
「あー…」
「ふふ、相変わらず人気者だねぇ君は」



くすくすと笑う上司に頭を抱えたくなる。
どうしてあの先輩方は気づかないんだ、この人本当に怖いくらい見てるしなんでも知ってるんだぞ!?



「それにしても優しいよね、佐藤くんは」
「は?そう見えましたか?」
「そりゃあね、私だったらあんなこと言われたらあんな風に自分を省みろなんて言わないからなぁ」
「…そういうつもりじゃ」
「おやツンデレかな?私にしてみれば、君ほどの実力がありながら裏から手を回さないこと時点で優しいなと思うけどね」



そうだろう?と向けられた、にこっと邪気のない笑顔にぞっとする。
これだ、これだよ。みんなこの笑顔に騙されるんだ。



「っ、あんたその笑顔は詐欺ですよ」
「ん?ときめいてくれたかな?」
「んなわけないでしょう!ぞっとしてるんです!」
「おや、それは残念」



ならこれはどうかな、なんて両手を顔の横について決め顔をしてみるおっさん。所謂壁ドンてやつだが、俺は思わず両手を上げた。



「はいはい、降参です。ときめきません」
「ええっ!なんでだ佐藤くん!」
「なんで?そうですね、まず言っておきたいのは俺の名前は斎藤だってことですかね」



そう言えば、課長は目をぱちくりして俺を見る。ついで、ふはっと息を吐いて笑った。
おっと、今のはちょっとときめいたぞ。笑ったときに寄る、この人の目尻のシワ好きなんだ。



「そうかそうか、斎藤くんか、あははは」
「ちょっと、なに笑ってんですか」
「いやごめんね、拗ねないで。いつも家では名前で呼んでるからわかんなくなっちゃったよ」



ごめんね、勇人(ユウト)くん。
ちゅっと唇にキスが落ちてくる。そのまま離れようとする腰を、思わず掴んで引き寄せた。



「あんたここどこだと思ってんですか」
「君もね」
「いや二人だけならいいかなと」
「ならいいじゃないか」



見つめあって一瞬の沈黙。
すぐに課長は笑いだし、俺は呆れた溜め息を吐いた。



「あーもうなんで俺はこの人に惚れたんだろ」
「まったくだね。こんなおっさんの戯れ言は鬱陶しいだろうし萎びた体なんて魅力的でもなんでもないだろうに、んむっ」



思わず好き勝手しゃべる口をキスで塞いだ。
腰に回していた手を尻に回して柔く揉む。下半身をぐりぐりと押し付けるように突き出せば困惑したように眉が寄るのがわかる。
あぁもう、ほんとかわいいんだから。これだから堪んない。



「いいですか、いくらあんたでも俺の好きな人のことを悪く言うのは許しませんから」
「はっ、は、なんだい、私のことじゃないか。それに君だって今、なんで惚れたのかって、」
「俺だからいいんです。でもこの俺が惚れた人間を俺以外が貶すのは我慢ならないんで」



にこりと笑って手を離す。だがしかし、すぐ離れると思いきやその場を動かない課長。
お、もしかしてヤル気になってくれちゃったりするのかな、と期待した俺がバカだった。



「っ!ちょ、課長、なに、揉んで…!」
「いやぁほんとにね、君が私に惚れてることはよーくわかったよ」
「うぁっ、ほんと、っ、それ以上されるとやばいから!」
「私相手だとこんなすぐに勃ってきちゃうんだもんね」



にこにこと、我が息子を可愛がってくれる恋人。
壁に挟まれて逃げるに逃げられない。俺があんたを強く押せないって知ってて卑怯だぞ…!



「っ課長、最後まで、付き合ってくれるんっ、すか?」
「ははっまさか。こんなところで致すほど貞操観念は低くはないよ。それにそんなことしたら帰れなくなっちゃうだろう?」
「で、すよねぇー。あっははっ、くっ」



あーもうこの人無駄に上手いんだよ!俺の弱いところも熟知してっしどうすんだこれ!



「おっともうこんな時間か。大分休憩しちゃったね」
「はっ、くっそ…今夜は覚悟しといてくださいよ」
「はは、楽しみだ」



唐突にぱっと体を離される。やばいぞこれは、半勃ちどころの騒ぎじゃない…!
思わずきっと睨めば、にこにこと返される笑顔。するりと課長の手が俺のシャツを滑る。



「まあせいぜい頑張ってくれたまえよ、佐藤くん。ところで君はこんなに油を売っていていいのかな?」
「は?何を…」
「私は待つことが嫌いでね。帰り、私を待たせるなんてことがあったら―――…」



遊んでいた手がゆるりと止まる。
かりっとシャツの上から乳首を引っ掻かれてぞわりと悪寒が走った。



「お仕置きとして、私がここにピアスを開けてあげる、そういう約束だったよね?」



にこり、笑う姿に目眩がする。
確かにした、ベッドのなかでじゃれ合いながら、もっと甘い雰囲気だったけど。あの時は笑って、俺があんたを待たせるなんてあり得ませんとかなんとか答えた覚えがある。


だがもちろん、守れない約束はしない主義だし、勝てない賭けもしない主義。そしてなにより、売られた喧嘩は買う主義だ。



「はっ、この俺があのくらいこなせないとでも?」



ニヤリと笑って返せば、喫煙所の扉を開けた恋人が振り返る。



「いい返事だ。期待してるよ佐藤くん」



そう言って出ていく後ろ姿を見ながら当初の目的だった煙草を取り出す。
まああのくらい、俺にかかればきっとすぐ終わるさ。
深く吸い、白い煙を思いきり吐き出す。
とりあえず、目下の課題である息子をどうにかしなきゃなぁ、とぼんやり考えながら、しばらく紫煙を燻らしていた。





*end*
さっぱり違うものができた。
また今度トライできたらと思いつつ…
RTありがとうございました!!(土下座)





―――――
TwitLongerより



>>back
>>top
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -