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君の熱が私に染みついて離れない
 例えば、自分に触れた掌や唇が熱いだとか、目の端に映る赤色が眩しいとか、わけのわからないことで頭の中の容量がいっぱいになっていて、今起こっている状況について行けてなかったのだと思う。
 自分自身でした行為の癖に、自分でさえ意識というか自覚というか、とにかくそういうものがなかったのだろう、隼人はこっちが気の毒になるくらい顔を真っ赤にさせて数歩離れた。

 いつもの通り、ただくだらない話をだらだらとしながら(今週山本の試合の応援に行こう、とか、ディーノさんが明後日遊びに来るらしい、とか最近雲雀さんが3丁目に出没するらしいからうっかり行かないようにしよう、だとか)いつもどおり帰るために通学路を歩いていただけだ。いつもこのまま家について、ご飯食べてお風呂入ってテレビ見て宿題やって、寝るだけ。何もいつもと違ったことなんてなかった。そんなことを自分に言い聞かせる様に繰り返し頭の中でぐるぐると考えた。
 嗚呼、今自分は混乱してるんだ。そうどこか遠くで冷静に自分を見ている私がいることが不思議でならなかった。


 ……隼人にキスされた。


「……」
「………………」
「……耳、赤いよ…?」
「っるせぇ」


 今時こんなに純情な14歳がいるんだと感心するぐらい隼人は耳を真っ赤にさせていて、道端のコンクリートの段差に躓いた。自分でした癖に動揺しちゃってかっこ悪いぞ。ディーノさんと半分同じ国の血が流れてるとは思えない。いや、部下のいないディーノさんもしょっちゅう何かにつまづいて転んでいるけれど。

 何とも言えない不思議な空気が漂っていた。隼人が先に顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまったせいで、私がそれをするタイミングを失ってしまったのだ。そのまま歩き出した彼につられて歩きながら、さっきとは打って変わって二人とも一言もしゃべらない。気まずい雰囲気が何とも言えなくぐらい居心地が悪くて気持ち悪くて、そしてどうすればいいのか分からなくて私は歩く隼人の後をただついていくしかない。空はすっかり赤く染まっていた。私の歩幅では追いつかないぐらいの速度で歩く隼人にだんだんイライラしてきて、私は彼の影法師を追いかけてはただ八つ当たりのように踏み付ける。


「……ねぇ、」
「………………」


 沈黙が辛いのは私だけなんだろうか。照れ隠しなのは分かってるけれど、そっけない態度はされるのは好きじゃない。背中を向けられるのは嫌いだ。他の人にはどれだけされても平気だけれど、隼人にされると辛い。拒絶されてるみたいで。


「ねえってば」


 服の裾を掴んだ手を振り払われてなんだか無性に泣きたくなった。


「…今の、何?」









 禁煙なんてするもんじゃねぇ。人気のない道なんて歩くもんじゃねぇ。無防備なこいつが悪い。言い訳ばかり繰り返してももう起こった事をどうこうできやしない。赤い太陽に染められたように紅いそれは何かの果実に似ていると思った。山本がどうとか。雲雀がどうとか。するすると淀みなく働き続けるなまえのそこに気付いたら勝手に引き寄せられていた。一体何やってんだ、俺。思ったのは行動した後だった。
 何やってんだ、俺。腹でも減ってんのか?


「…なんだよ」
「そっちこそなんだよ」


 気の強い口調に振り返れば、声とは打って変わってなまえは今にも泣き出しそうな目で俺をにらんでいた。なんだよ、泣くほど嫌なのかよ。俺が他のヤツじゃなくて悪かったな。


「言わなくても分かんだろ」
「分かんない」
「………悪かった」
「そういうのが聞きたいんじゃない」


今のは何だと訊かれても俺だってわかんねぇよ。身体が勝手に動いてたんだよ。泣くんじゃねぇよ。一体どう答えればお前は満足なんだ?


「…ねぇ隼人」


 自分から、なまえがいつも塗ってるリップクリームの柑橘の匂いがした。


「すきだ」


 なまえと太陽に急かされて、俺はとうとう白状した。


「もう一回、して」

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