かけがえのない時間






『かけがえのないもの…って、何だと思いますか』


久しぶりに電話を掛けてみれば、小日向から突然掛けられた問い。
いきなり何を言うんだと聞き返せば、偶然耳にしたその言葉が耳から離れないらしい。


「"かけがえ"が変わりって意味だから、"かけがえのない"で変わりの無いって意味じゃないのか?よく言うじゃないか、かけがえのない命とか」


俺の返答に受話器からは「んー…」と悩むような声が響く。
本当に、なんで小日向はこんなこと気にしてるんだ。

しばらくの沈黙の後、小日向が言ったのは、またもや質問だった。


『たとえば?』


例えばってな…


「さっき言ったみたいに"かけがえのない命"とか"かけがえのない時間"とかだろう」

『かけがえのない時間…?』

「あぁ」




再び訪れる沈黙。

変なことは言ってないだろ?
受話器に耳をあてたまま返事を待てば、やがて聞こえたのは明るく弾むような声。




『そっか、じゃあ私が東金さんとこうして話している時間もかけがえのない時間なんだ』


明るい声でそう言う小日向に、思わず目を見開いた。

やがて熱くなる頬、これが電話で助かった。
あいつは時々、予想外の言葉や行動で俺を驚かせる。

本当に、俺までも虜にする最高の女だよ。






「小日向」

『はい』


受話器に語りかけながら、フッと笑みを浮かべた。


「俺もだ。おまえと話す時間、居る時間、おまえの事を考えている全てが…」






『かけがえのない時間』


(おまえとだけの、愛しい一時)




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