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Let's make a happiness


本編ネタバレ有

カーテンの隙間から溢れる日差しが、朝の訪れを伝える。
今日も良い天気らしい。
一人と一匹を起こさないように気をつけながら、そっとベッドから降りて、大きく伸びをした。
それから適当に髪を後ろに縛り、スリッパに足をつっかけてキッチンへと向かう。
さて、お弁当のおかずは何にしようか。
お弁当のおかずは朝ごはんにも出すものだから、いつも少し多めに作っている。
冷蔵庫を開けて、中を確認した。
うん、だし巻き卵と作り置きのきんぴらゴボウ、昨日の晩御飯の残りも詰めて、あとはトマトやキュウリを隙間に入れてしまおう。
前に一度だけ、甘い卵焼きをお弁当にいれたら遠回しに甘いのは好きじゃないと言われたことは覚えている。
それに、よい歳をして妙に好き嫌いが多いのだから困ったものだ。
これでも多少減った方ではあるが。
おかず類を詰めながらそんなことを思う。
残った方を二人分のお皿に取り分けてから、今度は炊飯器の蓋を開けた。
よし、ちゃんと炊けている。
ご飯は普通のおにぎりを二つと、小さなおにぎりをひとつ作るのだ。
当然、小さな方はハットリの分である。
ラップに包まれた三つのおにぎりは、なんだか可愛らしいなといつも思う。
あとはもう少し冷めるのを待ってから蓋をするだけでいい。
チラリと時計を見やれば、そろそろルッチさんが起きるはずの時間だった。
……どうやら今日は自力で起きてこないらしい。
たまに調子の良いときはスッと起きてくるけれど、だいたいは寝起きが悪い。
起こすべきかなと思い、寝室に戻ってからカーテンを開けた。

「ルッチさん、朝ですよ。そろそろ起きてくださいね」

ベッドサイドに立ち、声をかけた。
明るさに顔をしかめてはいるものの、目が開いていない。
対して、スッキリと目覚めたらしいハットリは高らかに鳴いている。
元気でよろしい。

「おはようございます」
「ん、あぁ……おはよう…」

のそりと体を起こしたものの、まだ少し寝惚けているのだろう。
大きなあくびをして、目をこすっている。
だが、ふと何かを思い出したのか顔を上げて私とハットリを見比べていた。
そして一言。

「おまえら、今日誕生日だろう」

それを聞いて、私とハットリは顔を見合わせたあと揃ってカレンダーの方を見た。
8月10日。

「クルッポ!」
「あら、本当ですね」

パタパタと、嬉しそうに部屋中を飛び回るハットリ。
いつだったか、自分の正確な誕生日が分からない私に「なら、同じ日にすればいい」と言ってくれたのがハットリだった。
ルッチさんも、そちらの方が何度も祝わなくて済むなと笑っていたことを覚えている。
まあ現に、毎年彼に言われるまでしっかり思い出せないのだけど。
自身の誕生日を祝う、という概念にあまり馴染みがないのだから仕方がない。
ガシガシと乱雑に頭をかいたルッチさんはおもむろに立ち上がると、ベッドサイドの引き出しを漁り始めた。
やがて小さな包みを二つ、探り当てる。

「来い、ハットリ」

主人に呼ばれた白鳩は、素直にその肩に止まった。
やけに可愛らしいラッピングを解くと、ハットリ用の新しいネクタイが入っていた。
どうやらお仕事用ではなく、オシャレ着用のネクタイらしい。
付け替えてもらったハットリは、幸せそうにふるりと羽を震わした。
それから、また羽を広げて楽しそうに飛んでいる。
なんて可愛い子なんだろう。
ハットリを見上げて、つい微笑んでいると今度は私に声がかかった。

「なまえには、これを」

そう言って手渡されたのは、シンプルだが高級感のある黒色のリボンで包装された、綺麗な長方形の箱だった。
開けても?という目線に、彼はニヤリと笑って応える。
するりとリボンを解いて、箱を開く。
そこには、羽ばたく鳩のモチーフのネックレスが鎮座していた。

「ーーありがとう、ございます」

うわぁ、どうしよう。
朝からこんなに嬉しいのって、本当にどうしたらいいんだろう。
きっと今とても締まりのない顔をしている。
だってその証拠に、ルッチさんがものすごくしたり顔をしているのだから。

「付けてやるから、後ろを向け」

箱ごとそっと奪われたので、素直に従う。
程なくして、私の胸元にはステキな白鳩のネックレスが輝いていた。

「似合いますか?」

くるりと彼の方を向けば、額にキスが降ってきた。
さらに頭上を飛び回っていたハットリも、彼の肩に止まって嬉しそうに鳴いている。
自分とお揃いだと、ちゃんと分かっているらしい。

「当然だ。誰が選んだと思っている」

彼はそう言って、自慢げに笑ってみせた。
そういうことを恥ずかしげもなく言ってのけるのだから、この人は本当に。
嬉しくって、恥ずかしくって、でもとても愛おしい。
しかも雰囲気に乗って抱きしめてくるのだから、逃げ場がなくなってしまった。
このまま流されても良いのだけれど、残念ながら今日は平日。
つまり、彼はガレーラの仕事があるわけで。

「ルッチさん。そろそろ準備をしないと、お仕事遅れますよ」
「……分かってるさ」
「分かってるのなら、ほら。離してくださいね」

帰ってきたら、存分にかまってあげますから。
ゆっくりとそう告げると、さも残念というようなため息を残して彼は離れていった。
いや、去り際に小さなキスをひとつしてから、ハットリを引き連れて洗面台の方へ向かっていった。


△▼△


朝ごはんを食べて、お弁当の包みを渡して、玄関までお見送りをする。

「帰りにケーキを買ってくるが、何がいい?」

いってきますの前にそのような話をした。
私はチョコレートのものが良いと言えば、彼は分かったと言って私の頭をひと撫でする。
子供扱いを受けているようだが、正直なところあまり嫌な気持ちにならないのだから悔しい。

「気をつけて、いってらっしゃい」

玄関前で手を振れば、決まって白鳩は羽を振り返してくれる。
その主人は後ろ手をヒラヒラさせ、仕事場に向かっていくのだ。
さて、私達の誕生日はまだ朝を迎えたばかりだというのに、今日はどれほどの幸せが待っていることだろう。





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