「みょうじ」
誰かに呼ばれた。
続いて肩を二度ほど叩かれる。
あぁ、どうやら私は机に伏せたまま眠っていたらしい。
連日の激務で疲れ切っていたのだろう。
パッと顔を上げれば、正面に黒服の男性が立っていた。
この人はマズイ。
「なん、でしょうか、アルバート」
そこにいたのはアルバート・ウェスカー。
昔に人間をやめたらしい彼は、私の上司(仮)だ。
サングラスの奥から伝わる厳しい視線。
チクチクと肌に刺さるそれは、一種の殺気かもしれない。
私が仕事中に寝てしまった事を怒っているんだ。
それは当然。
「すみませんアルバート、その...」
とにかく謝ろうとした時に、2つミスをしている事に気がついた。
1つは、彼は怒っているのではなく驚いているだけだという事。
驚きのあまり凝視されて、睨まれているように感じたのだ。
目つきが悪い故の誤解。
2つめは、彼の呼び方だった。
「申し訳ありませんウェスカー」
寝ぼけていた、で納得してくれるはずがない。
いや実際ボンヤリしていただけなのだが。
そこでようやく彼が動いた。
ちょっと挙動がおかしいのは、まだ本調子ではないからだと思う。
彼は一つ咳払いをして言った。
「気を付けてくれ、仕事中だ」
もう一度すみませんと呟く。
彼はこちらに背を向けて扉の方へ歩いていく。
と、数歩進んで止まった。
あぁそれと、なんて言いながら少し振り向く。
「...君にそう呼ばれるのは嫌いではないよ、なまえ」
それだけ残して悠然と去って行った。
扉が閉まるのと同時に、私はまた机に伏せってしまう事になった。
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