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Nothing Doing!


※若干の純黒ネタバレ有

たまたまつけていたテレビで見かけたのは、東都水族館新設のニュース。
大きな観覧車にイルカショーなどが目玉らしい。
行ってみたいなぁ、と何気なく呟いた。
それをたまたま隣に居たジンに鼻で笑われたのは記憶に新しい。
そりゃ私だってこんな仕事してなけりゃ今頃、とは思うが、辛くなるだけなので考えたくない。
ジンに笑われた事にも、腹立たしいと感じる。
それより、どうして隣に居るのか分からない。
私は、行ってみたいなどという軽々しい発言を撤回すべきであったと後に後悔する。

ー*ーー

ゆったりとソファに体を預けている。
そんな久しぶりの休日を満喫していたのは、数秒前までの事である。
私が所属する会社、もとい組織が超ブラックであることを忘れていた。
リンリンと鳴るスマホのディスプレイには、有名な蒸留酒の名前。
今日、この名前だけは見たく無かった。
気づかないフリも出来るが、あまり待たせると本格的に後が怖いので、仕方なく通話ボタンを押す。
すぐに、地を這うような低い声が聞こえた。

「俺だ」

『...オレオレ詐欺なら結構です』

「バラされてぇのか」

先ほどよりいっそう低くドスのきいた声。
あぁなんて物騒な人だろう。
見た目も視線も、声でさえも鋭利な刃物のよう。
いや、刃物を擬人化すると実際ああなるのかも。

『冗談。それより、私今日休みなんだけど』

「10分後そっちに着く。支度しろ」

彼はそれだけ言って、電話を切ってしまった。
反論の余地も無い、一方的な連絡ときた。
お休みだって言ったはずなのに。
何の用事だかさっぱり理解できないが、ヤツがこちらに来てしまうらしい。
これは急いで支度する他無いだろう。
横暴だと1人ボヤいてから、仕方なく身支度を始めた。

ー*ーー

いつものスーツに着替え、部屋を出た。
裏の階段を使い、マンションの住人専用の出入り口から外へ出る。
すると漆黒のポルシェ356Aが、うちのマンションの前に停まっていた。
どうやら、彼の方が少し早かったらしい。
機嫌を損ねていないかと一抹の不安を感じつつ、ポルシェに歩み寄る。
その後、滑るように助手席へ乗り込んだ。
彼は私が乗った事を確認すると、何も言わずに車を出した。
互いに無言の2人を乗せ、ポルシェは走る。
彼は、独特の香りを放つ煙草に火をつけていた。
これは本当に変わった匂いで、私も慣れるのに時間がかかった。
ただ、こんな発ガン性物質の塊を好む事に関して理解しがたい。
そんな事を思いながら、彼に問いかけた。

『ところで、何の用事よ』

突然呼び出しておいて何も言わないなんてやめてよねと、運転手に告げる。
しかし、彼の答えはこちらをチラリと見て薄く笑うだけである。
返事になってないじゃない!
ちょっと腹が立ったので、彼と反対方向の景色を眺めている。
はてさて、どこへ向かうのやら。

ー*ーー

しばらく走った後、ポルシェは静かに停車した。
もう陽が落ちている為、辺りは薄暗い。
しかし、目の前には信じられないものが見える。

『何、これ?』

真っ黒く塗られた、ヘリのような機体。
確かアメリカの軍隊がコレと似たようなものを持っていたぞ。
ジンはそのまま私の手を強引に引いて、あの機体に近づいていく。
もしかしてこれは危ないんじゃなかろうか。

『ねぇジン私帰るわお願い帰らせて』

悲鳴に似た叫びを彼にぶつけたが、聞き付けてもらえない。
黙ってろと言われる始末だ。
そうして、あれよあれよと言う間に乗り込んでいた。
既に中では、キャンティとコルンが操縦席に座り待機している。
この2人が操縦するなんて不安でしかない。
その後ろのウォッカは、小難しそうな機械をいじっていた。
こう見えて、意外と何でもソツなくこなすウォッカは凄いと常々思っている。
いや、いまはそれどころではない。

『嫌よもう降ろして頂戴!』

「キャンティ、出せ」

ジンの合図とともに、機体は浮上する。
結局、降りる事は叶わなかった。
だいたい、ジンがヘリや飛ぶ物に乗ると碌な目に合わないのを知っている。
ここは、腹を括らなければ。

『せめて何処へ行くかくらい教えて』

全てを諦めたようにそれだけ問うた。
すると彼は、またいつもの腹立たしい笑みを浮かべて言う。

「東都水族館」

行きたがってただろう、と。
それを聞いた途端に、全てを理解した。
勿論、悪い意味でだ。

『確かに行きたいとは言ったわ!けどそういう意味じゃないの!こんな物騒な乗り物でなんか行きたくないのよ!』

早口でまくし立ててから、再び諦めに似た溜息をついた。
もうどうにでもなれと、機体の壁に背を預ける。
キャンティは大笑いし、ウォッカは慰めの言葉をかけてくれた。

『私まだ死にたくない...』

このメンバーで心中なんてゴメンだ。
しかし、そんな願いも虚しく、この鉄のカラスはあるヒーロー達に呆気なく落とされる事となる。






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