(第16話「好きな人の髪の毛を・・・」後)



「やあ」

びっくりして、萎縮してしまった。
まさか気づかれるとは思ってなくて。
でも、ショウくんの勘の良さなら気づくのは当然かな。

私が今なにをしようとしたかなんて、ショウくんは疑ってない。
ただ声をかけようとしたところだと思われたのかな。
それなら安心だ。
私がショウくんの髪の毛を欲しがってるだなんて。
知られたくない。

「どうしたの?」
「どう、ってわけじゃないけど・・・」
「ふぅん」
「ショウくんが見えたから、来ただけ」
「そうなんだ」

なんとなく、しどろもどろな対応になってしまう。
ショウくんに不審に思われたり、してないよね?
まあ、私がこんな風になるのはよくあること。
いつものことだと思われてるかも。

髪の毛、欲しいな。
きっと他のみんなも、ショウくんのこと好きなんだろうと思う。
みんなが同じ人の髪の毛を持っていた場合どうなるんだろう?
先着順?
そんなことないかな。

ショウくんの髪の毛を、なんて難しい問題だ。
髪の毛を抜くなんてただでさえ難しい。
その上、相手はショウくん。
きっと気づかれちゃう。

・・・気づかれたら、変なヤツって思われちゃうよね。
どうしようかなぁ。

でも、わたし、ショウくんのこと好き。

だから、しょ、将来的には・・・結婚、とか。
考えてしまう。
考えるよね、女の子は。
誰だって、考えてしまうよね。


「あんこ」
「なに?」

ショウくんは立ち上がって、私の頭に手を伸ばした。

え?
な、なに?

「花びら、ついてる」

あ、は、花びらか。
なんだ。

ドキドキして、ばかみたい。

「ありがと・・・」
「来てすぐに花びらかぶるなんて、運悪いね」
「そんなことないよ」

ショウくんは花びらなんて、かぶってない。
かぶる方が珍しいか。
そんなに桜も散ってないし。

「もうすぐ休み時間も終わりだね」
「あ、ほんと」

校舎の時計を見上げると、あと5分を切ってる。
早く戻らなくちゃ。

「行こうか」
「うん」

あ、髪の毛。
やっぱり、無理かな。

ショウくんの後ろ姿を眺めてたら、そう思った。
こんなに鋭い人の髪の毛を抜こうなんて無理に決まってる。
諦めようかな。
他の人たちだって、きっと無理だろうな。
偶然髪の毛が落ちてたり、とかしか手段なさそう。

そんなおまじないに頼るより、ちょっとは自分で頑張ってみよう。
その方が、良いよね。

きっとそのおまじないは、最終手段。


「あんこ、早く」
「あっ、ちょっと待って」


私はしらない。

ショウくんの指に、自然に抜けた私の髪の毛が絡まってることを。


その髪の毛をどうしたかなんて、知る術もない。










おまじないのススメ
(まじないの類を、僕が知らないはずがない)









2010/04/13
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