プロローグ


蒼い空が広がって白い雲がのんびりと流れている。風が優しく木々を、頬を撫ぜていく。

「(やっぱりここは居心地が良い。現世に居た時よりも…)」

そこで俺は思考を止めた。現世に居た時よりも?俺は生前の記憶があった?目を閉じて記憶を辿る。確かに尸魂界に来たばかりのころは毎日夢を見ていた気がする。グッと眉間にシワを寄せて思い出そうとするけれど、なかなか思い出せない。

「そないに怖い顔して何してるん?」
「たっ、隊長っ!?」

目を開けると俺の顔を覗き込んでいる市丸隊長の顔がどアップに映った。ビックリして仰け反って倒れそうになるところを隊長に笑われる。

「なんや気持ち良さそうな顔してたんに、いきなり険しい顔し出すんやもん。おもろいなぁ」
「あ、ははは…、心臓に悪いです隊長。せめて霊圧くらい分かりやすく…」
「あ、せやった。ほら、休憩終わり。なかなか呼んでも来ぉへんし、さっさと支度して任務に戻るで」

隊長のマイペースさに呆れながら急いで準備をする。今日の虚討伐任務は副隊長、席官抜きで引率が隊長のみという珍しい任務だ。さっきみたいなボケっとしている俺を注意するのは普通副隊長や席官の仕事なのに、上が隊長しかいないから市丸隊長に注意された。

「一応、三番隊のリーダーは櫻井なんやけどなぁ」

市丸隊長の後ろについて行くと隊長が独り言のように零した。先ほど失態を晒してしまった俺の心に突き刺さる。

「そ、そうですね。すみません…」

「まぁ、ええわ。虚さえ倒せれば」と軽く流す隊長につい笑んでしまう。

「五番隊のリーダーとはもう連絡取ってん?」
「はい。そろそろ虚の目撃情報があった場所なので、前衛と後衛の配置や連携を多少」
「ほー、なんや本格的やなぁ」
「本格的って、被害が多いですし、なにより魂魄を多く摂取している可能性が」

会話しやすいように一歩下がった状態で横に並ぶと市丸隊長の表情が窺える。面倒臭そうに顔を歪めていて真面目に話していたこっちがバカみたいだ。

「でも、市丸隊長と愛染隊長がいらっしゃいますもんね」

笑いかけると市丸隊長はうんざりした顔をして「イヅルみたいになるんは勘弁してや」っと愚痴った。






「バカッ!!相手は尾も使うんだぞ!攻撃パターンを見極めろ!!」

吹き飛ばされた三番隊の隊員を受け止めたと同時に五番隊のリーダー、扇が叫んだ。俺は剣術よりも鬼道に長けているため前線から下がっていたが、もう数人が前線から下がっている。俺も前線に出た方が良いかもしれない。

「鬼道は直接当てるだけではなく、虚の注意を惹き付ける用途もある!使い方を考えて援護を!俺は前線にまわる!」

みんなと一緒に後衛にいる隊長二人を一瞥するけれど動く気配はない。つまり、これは自分たちで対処できる範囲内と判断された訳だ。
とりあえず、厄介な尾を斬り落とした方が良さそうだ。斬魄刀を構え瞬歩で虚の背後に回り込む。虚と正面から向かい合っていた扇と目が合い、アイコンタクトを取って刀を振り下ろした。

「っ、きれなーーぐぅっ」

刃が半分ほど沈んだが、どうやら硬化出来る能力があるようだ。怒った虚の尾を腹に食らい吹っ飛ばされて木にぶつかる。一瞬意識がホワイトアウトする。扇の声で意識が戻ったものの俺が虚を視界に入れた頃にはすでに俺に向かって拳を打とうしているところだった。間に合わないと諦めて歯を食いしばった。

「破道の三十一 赤火砲!!」

俺が吹っ飛ばされた瞬間に詠唱を始めていたらしい後衛の柏木が虚へと鬼道を打ったようだ。俺は苦しむ虚の尻尾の切れ目に同様に詠唱破棄で赤火砲を放った。

「今だっ!!!」

僕の声に扇が尾を斬り落とす。が、

「尾が!」

尾を斬り落とした同時に虚へと斬りかかろうと走り掛かっていた僕に切り落とされた尾が飛んできた。どうやら尾はとかげのように切り離しても動くらしい。咄嗟に斬魄刀で庇ったが刀が弾き飛ばされてしまう。「しまった」と思う前に虚の動く霊圧に気付くと姿が目に入った。

「櫻井っ!」

いろんな声が聞こえてきたけれど、冷静に縛道を頭の中で羅列する。

「縛道の八 斥」

縛道で相殺したものの、相手は硬化をしていたようで反動で飛ばされてしまった。

「破道の四 白雷」

吹き飛ばされたまま、体勢もうまく整わないうちに鬼道を打ったがどうもうまく右腕を貫いたらしい。叫び声を上げる虚に数人が斬りかかる。俺も着地して斬魄刀と回収して虚に走り掛かるが、やはり硬化で刀も鬼道も通らないようだ。

「退け!破道の十一 綴雷電っ」

白雷で空けた穴に刀を差し体内に直接電気を通す。

「よくやった、櫻井!」

気を失い硬化の弱まった虚に扇が首を斬り落とす。斬魄刀をしまってホッと一息を吐くと鬼道を連発して疲れた身体がグラリと傾いた。それを扇が支える。

「ありがとうございまーす」
「どーいたしまして。詠唱破棄をバカスコ打つとかバカじゃねぇの?」
「耳が痛いお話で…」

支えられながら後衛と合流すると愛染隊長と市丸隊長が満足そうに頷いた。

「いやぁ、まさかあそこから巻き返すとは思わへんかったわ」
「櫻井くんと扇くんの連携が良かったね。しかも櫻井くんは三十番台までの詠唱破棄が使えるとは」
「ありがとうございます。何度か死にかけましたけどね」

誰かさんたちが助けてくれなかったから、と心の中で付け足して隊長たちに言葉を返す。しかしそのあとは俺と扇の指揮官としてのあり方について後で話があると言われて互いに顔を合わせた。

「これって怒られるやつ?」
「やっぱり?いや、まぁ…確かに鬼道隊はあんまり機能してなかったけど…?」
「それなら扇の方だって!」

扇と2人で帰り道にこそこそと話しながら責任を押し付けあっていたが、結局は2人とも怒られたのだった。




「今回は当たりやったんとちゃいます?」
「そうだね。彼らの代は優秀だと聞いていたが期待以上だよ。いい研究結果が出そうだ」





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