機械鎧

夜が明け、リオンはヒューズに第五研究所についての報告をしに昼前に会いに行った。

「ヒューズ、昨晩の第五研究所だがな、当たりみたいだぞ」
「おまっ……行ったのか!?あの瓦礫の山をか!?」
「しょうがないだろ。最近は面倒事が多いんだ、さっさと片付けられるもんだったらそっちの方がいいし」
「んなこと言ったって……無茶すんなよ」

はぁとヒューズが溜め息を溢すと同時にノック音の後に扉が開いた。アームストロングが顔を見せる。

「む、バーンズ殿も居られましたか。左腕の加減はよろしいのですか?」

アームストロングの言葉にヒューズはリオンに視線を戻した。本人は面倒臭そうに肩を竦める。

「左腕って……どうしたんだよ」
「ちょっと、な。それより、少佐は何の用だ」
「あぁ、お二人の耳に入れておこうと思いまして…エドワード・エルリックが入院致しました」
「ったく、あいつらは元気だなぁ。――そういや、あいつらが行きたいとこが先回りされてるみてぇになくなるな」
「……お前の口振りからするとまだ被害があったようだが…」
「あー、お前はまだ来てなかったからなー。――エド達が資料を探しに第一分館に行こうとした矢先に不審火でパァだ。あそこにはいろいろと大切な資料があったのによぉ…」

あ゛ー、と頭を掻いているヒューズを横目にリオンは思案に耽る。

「(国家錬金術師殺しと関連してるのだろうか……。いや、早計すぎるか…。あの鋼の兄弟が求めている資料の内容が分からんが、第五研究所の資料はあいつらにとって不味いもの、か…。確か第五研究所は以前…)」


『――った、あった。燃やし損ねた資料。残ってちゃ不味い資料が残っちゃうなんて、運が悪いよねぇ』

あのときの声が脳裏に甦る。

「(そういや、機械鎧をあんな簡単に抉った武器はなんなんだ…?刀や剣だったらかなりの強度が無い限りあっちが負けるはず。……いや、近付かれた気配はないから飛び道具、か)」
「――ぃ、リオン」

自分の名前に反応して顔をあげる。そこには呆れ顔のヒューズと心配した顔のアームストロングがいた。

「え、あぁ、悪い。何の話だ?」
「やっぱり聞いてなかったか…。エドの見舞いに行くって話になってんだよ。お前に拒否権はないけどな」
「はぁ?俺は東方司令部に戻る。ただでさえ仕事が多いんだ。俺がサボれるわけ―――って、おい!少佐、離せって!ヒューズ!」

部屋を出ようとアームストロングの横を通り過ぎようとしたら、アームストロングに俵担ぎの要領で持ち上げられる。ヒューズに助けを求めても知らん顔で、挙句「さぁー、行くぞー」と呑気に歩き出してしまった。












「よう!病室に女連れ込んで色ボケてるって?」

病室に入って早々軽口を叩くヒューズに後ろで溜め息を吐くリオン(ちなみに病院に着く前に恥ずかしいと言ってアームストロングに降ろさせた)。

「あれ?大佐弟じゃん」
「弟じゃないって言ってるだろ」
「あのあとなんも聞けなかったから俺達のなかでは大佐の弟なの」
「まぁ、似たようなもんじゃないのか?」

ヒューズが横から口を挟んできたので取り敢えず蹴りを入れておいた。

「っテテ……。あ、整備士いるんならお前の左腕も見てもらったらどうだ?動かないんだろ」

ヒューズの言葉に驚いて見上げるとヒューズは笑って、

「少佐に担がれてたとき左腕だけ動いてなかったからな」

ヒューズに鋭い指摘にリオンは渋面を作るが、ちょうどいいと金髪の少女に頼んだ。

「構いませんけど、機械鎧の技師が違うんで応急処置程度しかできませんよ?」
「いや、それだけでも助かる」

少女が座っている椅子と別のもうひとつの椅子を少女の近くに引き寄せて座り、上着と下のカッターシャツを脱いだ。
着崩した姿を見たことがない(まずほとんど会ったことがない)エド達はその姿に驚いた。
両腕の機械鎧に鳩尾の辺りに下がっているペンダントを中心に広がる生々しくも酷い無数の傷跡。

「……早くしてもらえるか?仕事が溜まってんだ」

固まっていた少女がハッとして左腕の機械鎧の整備に取り掛かった。

「おー、また傷増えたんじゃないのか?」
「ジロジロ見るな、気持ち悪い…」
「―――ちょっと!なんですか、これ!!」

ヒューズがニヤニヤしながら傷跡を見ていたら、少女が怒鳴った。

「機械鎧をなんだと思ってるんですか!それに…外だけじゃなくて中の配線もかなり傷んでます!これ…エドよりも酷い……」

少女の言葉に病室中の視線がリオンへと集中する。その居心地の悪さにリオンは目をさ迷わす。

「……仕事、忙しくて…なかなか整備にいけないんだよ」

たどたどしくも事実の半分を織り交ぜる。しかし、ヒューズにガシガシと頭を撫でられ暴露される。

「コイツ、月一くらいの割合で機械鎧ダメにしてるから整備士に来る回数減らせって怒られてやがんだよ。―――なぁ?」
「………お前は次から次へと…」

リオンははぁと溜め息を溢して右手で顔を覆った。ヒューズが頭を撫でていた手で優しくポンポンと叩く。

「まぁ、コイツの錬金術柄しょうがない部分はあるんだけどな」
「だからお前は必要なこと以外喋りすぎだ。俺はプライバシーもないのか」
「そういや、アンタの二つ名ってなんなんだ?聞いたことない」
「ん、あー、…お前ほど有名じゃないからな」
「『疾風の錬金術師』。名前の通り大気中の空気を使うんだよ」
「………だからお前は…」

エドの問いに本人が答える前に答えたヒューズと何度目かの応酬をしていると、少女から出来たと声が上がった。

「けど、配線は傷付きにくいように纏めただけなんで気を付けてください。これ以上傷付けると神経を繋いでる部分まで損傷しますので…」
「あぁ、悪いな。ありがとう。金はこれくらいでいいか?」

手持ちにあった札を抜き取って渡す。少女がこんなにいらないと言うが押し付け、身支度をしながらヒューズとエドにそれぞれ声を掛ける。そして、身支度を終えるやいなや東部行きの汽車を捕まえに病室を後にした。





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