『少し昔の話をしよう』 2/4

「………誰だよ」

突然現れた男をリオンは睨み付ける。
男は怯んだ様子もなくリオンに近付いて行った。

「最年少ってほんとだったんだなー。まだ子供じゃないか」

頭を無理やりぐしゃぐしゃに撫でる男の手を振り払って距離をとると、ペンダントに手をかける。

「子供であろうとガキであろうと俺は錬金術を使えるんだ。お前の身体なんてすぐにバラバラに――って」
「つまらんことでいちいち怒るな」

ロイに頭を叩かれて止められる。目の前の男は苦笑しながら手を差し出した。

「悪い悪い。俺はマース・ヒューズだ。よろしくな」

リオンは差し出された手をじっと見詰め、不意にロイに視線を移す。ロイはその視線に呆れた笑みで答えた。
渋々といった形でリオンは差し出された手を握る。

「『疾風の錬金術師』―リオン・バーンズ…」
「……もしかして…機械鎧、か?」

手を握った感触に違和感を感じたヒューズは手袋に覆われたリオンの手を見る。
しかし居心地の悪さにすぐ手を離し、顔を背ける。

「…ちょっと事故って失くしただけだ」


リオンの反応にヒューズは疑念を抱きながらも納得した様子を見せた。
リオンはヒューズの横を通り抜けてテントを出ようとしたが、ロイがそれを許さない。

「待て。お前はここで上官の指示を仰げ。前線に行くことは俺が許さん」
「…俺は命令を受けてここに来てるんだ。だから前線に行く」

キッとロイとヒューズ睨んでテントを後にしたリオンにロイとヒューズは何も言えないまま、リオンの背中を見送った。

「ロイ、あの子は…?」

ロイは少し考える素振りを見せた。そして、眉間に皺を寄せて首を横に小さく振る。

「あいつの兄が俺と幼馴染みでな。俺も弟のように思っていたんだが……どうやらそれは俺だけだったみたいだ」

肩を竦めてやりきれなさがロイを襲う。ヒューズがそれを見て渋い顔をした。

「まぁ、リオンって子もお前さんの気持ちを分かってないわけじゃないだろ。―――あー、あれだ。親離れならぬ兄離れだ」

その言葉になんとも言えない表情を浮かべて唸るロイにヒューズは肩を軽く叩いてやる。

「お前さんがいろいろ考えてもしょうがないだろう。兄のような存在でいたいんだったら年上らしくドンと構えてろよ」
「……そう、だな…」

腕を組み、渋々頷く。
ふと、ヒューズが真剣な顔をしてロイに向き合った。

「守ってやれよ。――あんな子が戦場で死んでいいわけない」
「ああ。当たり前だ。―――死なせるものか」

ヒューズの言葉にロイはぐっとリオンが出て行ったテントの出入り口を睨み付ける。
もうこれ以上リオンに辛い思いはさせない。
#ソラ#を亡くして日に日に弱っていくリオンを見てそう決心した。ロイはその思いを胸にリオンの後を追い掛けた。















「どこに行ってらしたんですか?」
「……マスタングさんとの話が長引いてしまいまして」

先程の最前線のテントに戻ると、偶然出てきたキンブリーが不思議そうに問い掛けてきた。その問いにリオンは小さく苦笑を溢し、誤魔化す。
しかしキンブリーはその様子に疑問を抱くことなく、淡々とリオンに告げる。

「ちょうど良かった。先程、私に受け持ち地区の殲滅の催促をされましてね。それならば、貴方の実力を見るのにちょうどいいと思ったんですよ」
「分かりました。まだよく分からないので細かく指示してもらえると助かります」
「えぇ、もちろんです」

笑みを浮かべるキンブリーにリオンは安堵する。どうやらキンブリーは部下を蔑ろにしない者のようだ。
受け持ちの地区に行くというキンブリーについていく。











行き着いた場所はイシュヴァール人の住居区だった。もちろん、非戦闘員が住んでいる場所だ。
そのことにリオンの顔は曇る。

「どうかなさいましたか?」
「い、いや…なにも……。――で、どうするんですか?」

リオンの問いにキンブリーはぐっと口角を上げて笑った。その笑みを見てリオンの背筋に悪寒が走る。

「簡単ですよ。家に隠れている方もいますからね。―――ここにある家屋全て爆発します。バーンズさんは爆煙を払ってください」
「……は、はい」

頷いたリオンに満足して間髪入れずにキンブリーは錬金術を使う。リオンは爆風に押されながらも踏み留まり、収まったところで風を錬成した。そして爆煙に隠されていた避難民をさらけ出した。

「おや、爆発から逃れたようですね。バーンズさん、頼んでもよろしいですか?」
「頼むって……まさか…」

キンブリーは青い顔をして聞き返すリオンを小さく鼻で笑う。

「貴方はなんのためにここに来たんですか?―――イシュヴァール人を一人残らず殺すためでしょう」

狂気を含んだキンブリーの目に震えながら水晶に手を翳す。錬成時特有の光がリオンを取り巻いて発生した風を素早く飛ばし、刃のように鋭い風がイシュヴァール人を襲った。
悲鳴を――血飛沫を上げながらイシュヴァール人はゆっくりと身体が傾き絶命した。
リオンは込み上げる吐き気をグッと飲み込み、青い顔のままキンブリーに向き直る。

「キンブリーさん。―――次の指示を」






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