対峙、そして――

ロイへの怒りも冷め仕事が定時で帰ることができ、少し浮わついた気分で1日を終えた。
が、しかし――これは嵐の前の静けさ、というものかもしれない。












昨日と同じ時間に通勤していると額に×を描くように傷の跡が残る褐色の肌をした男がリオンの前に立ちはだかる。

「……アンタ、その傷…どうしたんだよ…」

腹部から血を流し見るからに立っているので精一杯のようだ。しかし目の前の男はリオンの言葉を気にした風もない。

「『疾風の錬金術師』だな?」

ほとんど呼ばれることのない己の二つ名を最近言われているようでリオンの顔は不機嫌に歪む。

「…取り敢えずアンタは自分の心配した方がいいと思うけど」

無視しよう。
そう決め込んでリオンは男の横を通り過ぎようとした。その瞬間、男がリオンの横腹に手を翳す。咄嗟に機械鎧で庇うとガンと嫌な音を立て、攻撃を直で喰らうことはなかったが、横腹を大きく裂かれた。

「お前も機械鎧か……」
「……なに、すんだよ」
「貴様は軍の人間で、その上国家錬金術師であるのに己れを知らぬか」

男の言葉に目を細める。中央でよく話題に上がっていた国家錬金術師殺しか。距離を取り、銃を構えて男の動きを待った。

「ショウ・タッカーを殺し、その他一連の国家錬金術師殺しは己れの行いだ」

リオンはやはり、と目を鋭くする。
ならばと、軍服の内側に下げている錬成陣の刻まれた水晶のペンダントを取り出して両手でそれを囲むように翳す。

「……ちょうどいい…。お互い手負いだから全力を出しても文句もないだろ」
「面白い。どこまでその威勢がもつか」

数刻の間、破壊音が轟いた。

















「バーンズは休みか?」

ロイの問いに皆は首を傾げる。その様子に疑問をもちながらも、まだ分からないため遅刻と記入しようとしたとき、扉がけたたましく開いた。

「…はっ、……はっ……。たい、さ、国家、錬金術師、殺し…が…」

腹部から血を流し、顔を真っ青にしながら息を切らしたリオンが報告する。呆気にとられていた東方司令部の面々もリオンの言葉に我に帰り、騒々しく動き始めた。ロイもリオンに詳しく話を聞こうと近付くと、ロイが口を開かないうちにリオンが胸ぐらを掴んだ。

「…アイツの、ことが…分かった、のは……いつだ…?」
「…今は関係ない」
「言わない、なら…俺も、アイツのこ、とを言わな、い」

ギロリと睨むリオンに仕方ないと観念して話す。

「……タッカーが殺された時点で既にヒューズが掴んでいた」
「ヒューズが……?――ク、ソッ、アイツ嘘吐いてっ…」

リオンが痛みが増し顔を歪めたのにハッとしてロイはリオンを床に座らせた。

「お前はここにいろ。『傷の男』の捜索は私達でする。それで奴は?」
「…逃げるのが、せいいっぱいでっ……アイツを、水路に落として、きたっ……」
「本当か!?」

エドとアームストロングでさえ苦戦した『傷の男』を退かしたという。ロイが驚いていると、リオンがあ、と声を洩らした。

「でも、アイツも、けが、し…てた…から、はやくみがら、を…」

場所を聞いてロイは直ぐ様皆に出動準備を掛けた。

「中尉、バーンズを頼む。医務室に運び次第、後を追ってくれ」

ロイはそう言って部下を引き連れ出ていってしまった。
また、リザもリオンに肩を貸して医務室に連れていくとすぐに姿を消した。
リオンはそこで処置を受けると、大人しくベッドに横になる。


「…大人しく…なんて、出来るかっての。ヒューズのやつを一発殴ってやんなきゃ、気がすまねぇ」

輸血をしてある程度回復するまで待つと、人目を盗んで医務室から抜け出し中央行きの汽車に乗った。






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