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 その手をとって



吐く息が白くなり、冬の到来を告げつつあった。

「ミー?おうちに帰るよ、ミー?」

普段はあまり家から出ないミー。今日は姿を見せないかと思えば、なぜか夕方になっても帰って来なかった。ミーの足を拭くためのタオルを片手に、ミーの名前を呼ぶ。

「どこ行ったの、ミー…」

犬ではなく、猫なのだから気にする事はない。それは分かっているけど、やはり心配だ。田舎とはいえ、全く車が通らないわけじゃない。

「先におうちに帰っちゃうよ、ミー?」

「それは"ドコの"おうちかなぁ?」

後ろから聞こえてきたのはミーの鳴き声ではなく、人間の、男性の、しかも懐かしい声だった。

「―――…いざ、や」

ゆっくり、スローモーションのように振り返る私。ニコニコと笑顔を作る彼の腕の中には、大人しく抱かれるミーが見えた。

「やぁ。久しぶりだね慧里」
「何で、ここ、に」
「情報屋を舐めてもらっちゃ困るなぁ。ま、確かに最初は見当違いなトコ調べちゃってたけど?」

スッと臨也の腕から下りたミーが、今度は私の足元へ擦り寄る。しゃがみ込んで抱きしめると、懐かしい臨也の匂いがしたような気がしたが。それもそうか、さっきまで彼の腕の中にいたんだもの。

「で?慧里の家は、ドコだっけ?」
「ッあの人達には何もしないで!!謝るし、お金はちゃんと返すし、臨也の言う事なんでも聞くから…っ」
「……え、何?なんか勘違いしてない?」

思わず叫んだ私を、臨也はキョトンとした顔で見ていた。

「俺が怒ってると思った?あんなはした金で?」
「っ、だって、」
「ま、確かに怒ってるけどね?あんな意味分からない手紙残されて、勝手に消えられて。"好きでした、さようなら"って何?意味分かんないよねー」
「……っ」

そりゃあ、臨也からしたら意味分からないだろうし、いい迷惑だろう。けど、分かっていたにしてもそれを直接本人に言われて平気なほど、私は強くない。

「俺だって好きだし、愛してる。なのに消えちゃうってどういう事?両想いでハッピーエンドじゃないわけ?」
「……、え?」

臨也の言葉に、今度は私がキョトン、としてしまう。だって、今、彼は何て……?

「慧里が俺といるせいで危険な目に合わないようにいろいろ手配して、動き回って。世間一般的な給料三ヶ月のアレ見に行って買ったりして。俺バカみたいに頑張ってたんだけど?」

何で、だって。

「慧里の様子が気になって手配したタクシーを問い詰めれば、俺が誰かといるのを見たって?アレ俺の妹だから。ちなみに妹は双子ね」
「妹なんて、聞いた事な、」
「俺だって一生隠し通したかったよ。でもあの日は指輪買うの見られて、二人に追いかけられたんだよ。九瑠璃を撒いたら舞流が待ち伏せしてるんだし」
「く、くるりちゃんと、まいる、ちゃん?」
「ま。それはともかく……」

私の方へと近づきながらしゃべり通す臨也に、なかなかついていけない私。ようやく臨也が一息ついたかと思うと立ち止まり、私に手を差し伸べた。

「――帰るよ慧里。"俺達"のおうちに」


あなたのその手をとって


まるで空気を読んだかのように私の腕からミーが下り、気づけば私は臨也へと手を伸ばしていた。