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 大好きなあなた



あの後臨也が出ていったのを確認して、最低限の荷物をまとめた。最後まで申し訳ないながらも臨也の置いていってくれたお金を頂いて一つの手紙を残して。

情報屋である臨也にも見つからないようなド田舎へきてもうすぐ一ヶ月。

「慧里ちゃん、手伝ってくれるかい?」
「はいっ!今行きます」

短いようで、とても長い一ヶ月だった。それはきっと臨也がいないからで、寂しくなった時は誰にも知られずひっそりと涙を零した。

「いっぱいジャガイモとれたから、今日は煮物を作ろうね」
「私おばあちゃんの煮物大好きです」
「ありがとうねぇ」

身分証明出来るものもなければ所持金もあまりない、なんとも怪しい私を拾ってくれたのは優しい老夫婦だった。私を助けてくれただけでなくミーの事も可愛がってくれて、家の中で飼わせてくれている。

"ミー"

おかげで子猫だったミーはこの一ヶ月で随分大きくなった。

「ミーもお腹空いた?ふふふっ」

畑仕事や家事を手伝いつつ、今はのんびりとした日々を送っている。臨也と過ごしていた時は時々家事をしていたくらいで楽な生活だったから、やっぱり畑仕事はキツイ。でも、いつかはまた働いたりしなくちゃだから、弱音は言ってられない。無職状態が長いこんな私を雇ってくれる所があるかは心配だけど、資格でも取ればもしかしたら働けるかもしれないし。

「おーい、ちょっと来てくれ」
「おや。何かね?」
「あっ!私行ってきますっ」

というか何より、おじいちゃんとおばあちゃんにしっかり恩返ししたい。

「おかえりなさい、おじいちゃん」
「ただいま。いやー、思いのほか貰い物しちゃってね。手伝ってくれるかい、慧里ちゃん」
「はいっ」

施設育ちの私は、家族というものを知らない。そう話した私の頭を優しく撫でながら、本物のおじいちゃんとおばあちゃんと思ってくれていいよ、と二人は笑った。二人には子供も孫もいるけど、こんな田舎には滅多に帰って来ないんだ、と言っていた。

「見てごらん、こんな洒落たお菓子があるよ」
「わぁ!入れ物も可愛いですね!」
「あらあら。また何かお礼にいかないとねぇ」

ミーだけでなく、この二人がいてくれるからこそ、私は今こうして笑顔でいられる。


拝見、大好きなあなた


あなたも今、笑っていますか?