私も笑った
ファミレスのお釣りはたくさんある。コンビニに行き、とりあえず牛乳を買ってみる。本当は子猫用のミルクがいいけど、そんなもの置いてないし…。
「えーと、鍵は…」
ポストの中に手を入れ、裏側に隠された合鍵を探す。一人で出かける事もなくあまり使う機会はないけれど、これは一応私用の合鍵なのだ。
"ミー"
「もう少し待ってね」
子猫を抱き抱えながら鍵を開けて中に入る。まず洗面台へ行き、柔らかいタオルを取り出し子猫を包む。
「おとなしくしててね?」
ソファーに子猫を下ろし、今度はキッチンへと向かう。鍋を出し火にかけ、少し温まったところで買ってきた牛乳を火にかける。
「これくらい、かなぁ…」
人肌に温めたところで火を止めて小さなお皿に入れる。ソファーへ行くと、少し子猫は移動していた。
「ミルク、飲める?」
"ミー"
お皿を机に置いて子猫も移動させてみる。子猫はクンクンと匂いを嗅いだあと、少しずつちびちびと飲み始めた。
「ふふ、可愛い…」
しばらくそんな子猫をソファーに座り眺めていると、ドアが開く音がした。
「よかった、帰ってたね」
「おかえりなさい、臨也」
「うん、ただいま。…ソレは?」
近づいてきた臨也が机の上にいる子猫に気づいた。
「子猫。捨てられてたの」
「へぇ、それで思わず拾ってきちゃったって?慧里らしいね」
「…飼っちゃ、ダメ?」
お腹がいっぱいになったのか、手をペロペロと舐める子猫。そんな子猫を臨也が首根っこを掴み持ち上げた。
「いや?かまわないよ」
「…よかったぁ」
"ミー"
いつまでも目の前にぶら下げ抱こうとしない臨也。子猫がジタバタと抵抗を始める。
「臨也、ちゃんと抱いてあげないと痛いって」
「じゃあ慧里にあげる」
「…何それ」
私に向かって子猫を差し出してくる臨也。子猫を受け取り、タオルを敷いて膝に乗せる。しばらくすると子猫は小さく丸まって寝始めた。
「ふふ、可愛い」
「…さてと」
黙って見ていた臨也がデスクへと移動し、パソコンを起動させた。…お仕事かな?
「コーヒーでも淹れる?」
「いや。ソイツが起きちゃうだろ?それに仕事じゃないしね」
「…違うの?」
「子猫のトイレとか必要だろ?それに予防注射も手配しないとね」
…臨也、ちゃんと考えてくれてるんだ。なんか私より飼い主らしいかも。元からだけど、やっぱりしっかりしてるなぁ。
「あ、名前は?」
「え?」
「もしかして決めてないの?」
「…忘れてた」
クスクス笑う臨也に少しだけムッとしてしまった。
そんなあなたにつられて私も笑った
でも、そんな風に笑ってくれる臨也に私は少し安心したのだ。