どうやら、テツヤは影が薄いらしい。ずっと一緒にいた私にはイマイチそれはピンとこないけれど、生徒はおろか先生までもテツヤの存在を見落として欠席扱いにしたり順番を飛ばしたりするものだからびっくりだ。本人はそれを気にする事なく、授業中眠っていてもバレないとむしろ利用するくらいだからいいんだけど。
「灯っちー!黒子っちどこっスか!?」
「…私を頼りにしないで。ていうか話かけないで」
「そんな事言わないでほしいっスー!」
一緒にバスケをするチームメイトが見つけられないってどういう事なの。
「トイレでも探してくれば」
「えー!赤司っちに今すぐ呼んで来いって言われたんスよー!なんとかしてよ灯っち!」
「だからその呼び方やめて」
そそくさとお昼ご飯の用意をする私の机をバンバンと黄瀬が叩く。ああ、うざい。
「何してるんですか黄瀬君。灯が迷惑がっています」
「おお!黒子っち!!」
見つけた!と騒ぐ黄瀬がテツヤの腕をぐいぐい引いて教室を出て行こうとする。
「赤司っちが呼んでるんスよ!今すぐ集合って!」
「僕これから灯とご飯なんですけど」
「いいからいいから」
はぁ、とため息をついてテツヤが黄瀬と共に歩き出した。一度振り返って、少し待っててくださいね、と言うテツヤに私は頷いた。大変だなぁ、テツヤ。私はその赤司君とやらには会った事がないけど、テツヤがそのままの方がいいって言っていたのを思い出す。
「佐藤さんってなんで黄瀬君と仲いいのー?」
「ねー、名前で呼ばれてるし」
「…別に、仲良くない」
テツヤと黄瀬が去ったところに、同じクラスの子が話しかけてきた。
「いいなー、私も名前で呼ばれたーい」
「佐藤さんだって嬉しいんでしょー?」
「嬉しくない、全然」
むしろ迷惑だというのに、私の言葉は聞こえていないのか、二人は会話を続ける。
「佐藤さんツンデレってやつ?」
「心の中ではキャーってなるでしょ?」
「イヤ、ありえない」
「もー!素直じゃなーい!」
なぜそうなるんだ。
「佐藤さんって先生の頼みも断ったりしないし、いい子だもんねー。だから黄瀬君に好かれるのかなー?」
別に断らないんじゃなくて、断れないだけだ。先生は佐藤は嫌な顔せずに手伝ってくれるとかいうけど、先生が気付いてくれないだけ。
「クラスの面倒事も引き受けるのは佐藤さんだしねー。私そんないい子ちゃんなれないや」
押し付けるのは、みんなでしょ。いい子なんかじゃないよ私。
「でも佐藤さんってあまり表情変わらないから、ちょっと怖いなぁって思ってたんだよねー」
「あはは!ハッキリ言い過ぎー!」
そーいうの、本人目の前にして話す事じゃないと思うけど。
「てかさ!黄瀬君と仲いいんだからもうちょっと笑えばいいのにねー?何でずっと無表情なの?」
「私ならちょー笑顔になれるよ!」
無表情のつもりはない。思いっきり不快にしている。なのに、やっぱりテツヤ以外には分からないんだ。今だってこんなにも不快にしているはずなのに。彼女達はニコニコと話し続けている。
「・・・・・・私、ご飯食べるから」
私はテツヤに言われた事を忘れ、席を立ってお弁当を持ち教室を出た。
「灯」
テツヤといつも一緒に食べている場所で座って待っていると、テツヤがやって来た。
「いなくなっていたから、少しびっくりしました」
「……ごめんね」
「いえ。その顔はまた、黄瀬君の事で何か言われましたか?」
「……」
勝手にいなくなった私に文句一つ言わず、テツヤは言葉にしなくても察してくれる。
「図星ですね」
「仲良くないし、名前で呼ばれても嬉しくないって言ったもん。否定しても、聞いてくれない」
「黄瀬君が好きな女の子は元気がいいですからね。灯の些細な抵抗じゃ聞くわけないですよ」
「……嫌な顔、した」
「はい。今もすごく不快な顔してます」
ほら、やっぱりテツヤだけは分かってくれている。
≪ ≫