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コツン



頭に何か軽く当たるのがわかった。当たったところを押さえ、教壇で教科書を広げ話している先生に見つからないよう控え目にキョロキョロ辺りを見回すと一人の男と目が合う。


その男は私と目が合うと嬉しそうにニコニコして下を指さす。よくわからないまま席の周りを見るとそこには小さく丸まった紙があった。


それを拾い上げ、彼の方へ見せるとうんうんと満足そうに頷く。そして口パクで「読んで」と言った。


怪訝な顔を彼に向け溜め息をつく。そして丸まった紙をゆっくり開ける。



「今日練習試合があるよ。」



そう一言書いてあった。


確かに今日の放課後、青城に練習試合をしに来ることは青城バレー部のマネージャーの私は知っている。知っていて当然だ。何故そのようなことをわざわざ紙に書いて、しかも授業中に伝えたのだろう?


よくわからないままルーズリーフの端を千切り「知ってるよ。○○高校でしょ。」とさっさと書き、頬杖をついて授業を聞いている主将にぶん投げた。



「!!」



気づいた彼はまるで餌をもらった犬のようにそれを取り、机の下でそれを広げた。その様子を確認してから私は再び前を向く。


それにしてもこの授業は眠たい。お昼を食べ終わってすぐで、しかも興味ないのもあるが何より先生の話し方がお経にしか聞こえず心地よいリズムで右耳から左耳に流れていく。風もカーテンを揺らして教室の中を通り過ぎていく。


うとうとと夢の中を行き来していた。



コツン



再び頭に当たる何かに現実世界に引き戻される。まさかと思い席の周りを見渡すとそこにはまた同じような丸まった紙が転がっていた。


それを拾い上げ彼のほうを見る。私の視線に気づいた彼はニカッと笑った。再び溜め息が漏れる。


今度はなんだろう、丸まった紙を広げた。



「また及川さんのカッコイイ所見れるよ。乃亜ちゃんラッキーだね。」



その言葉の横には及川であろう人物がキラキラ輝いていてその横に女の子が目をハートにして及川であろう人物を見ていた。なんて絵心のない絵なんだろう。


その絵心の無さに机に伏せる。笑っているのが皆にバレないよう声を殺して肩を震わせる。その下手くそな絵に目を向けては声を殺して笑った。


少し落ち着いてからまたルーズリーフを千切って「絵が下手な及川のカッコイイ所、楽しみにしてる」と書いてその横に少し馬鹿にしたような女の子の絵も書いて彼の方へ再び投げた。



「…………?!」



ちらっと彼の方を見ると少しは不貞腐れたように頬を膨らませていた。その姿に再び笑いが出る。


なんて精神年齢の低い人なんだろう。バレーをしている時はとても頼りがいのある主将なのにこういうのは子供っぽくてそこがいい。


タイミングよくチャイムが鳴り、ありがとうございましたと号令をかける。教室が騒がしくなったと同時に私は再び机に伏せ肩を震わせた。



「ちょっとちょっと乃亜ちゃん!」



そう声をかけてくる方に顔を向ける。そこには私の方を向いて椅子に座って膨れる及川がいた。



「俺の絵を見て爆笑ってひどくない?!」

「だって及川、これはないわ……っ!!」



笑いすぎて呼吸するのが辛くなりながらもさっきの紙を広げようと手を伸ばした。


しかしその手は及川の皮の厚いゴツゴツとした手で覆われる。笑っていた私は突然のことにびっくりして「えっ」と声を漏らした。



「広げちゃだーめ。これは及川さんと乃亜ちゃんとの秘密。」



そう言って人差し指を立て少し照れて笑う及川に不覚にもときめいてしまい、目線を下に下げた。そして呟くように「仕方ないな」と漏らす。



「じゃあ今日の練習試合でカッコイイ所見せてくれなかったら、これ皆に晒すね。」

「それは任せて!俺はいつもかっこいいからね!」

「……とりあえず岩ちゃん辺りにこれ見せてくるわ。」

「あー!ごめんごめん!嘘とは言わないけどごめん!」

「そこは嘘って言おうよ。」



そんなやりとりをしている時でさえ、彼は私から手を離そうとはしない。


緊張で手汗かいてきた。そろそろこの緊張が顔にも出そうだから離して欲しい。しかしその願いは叶わず手は覆われたまま。


右手がいつもよりも、熱っぽい。



「おい、及川!岩泉が呼んでるぞ!」

「岩ちゃんが?」



その言葉で覆われていた手は離れ、及川はその場から離れた。


私はその瞬間、緊張状態が解かれ溜め息が出た。


覆われていた右手は未だ熱っぽい。手汗もものすごくかいてる。それを自覚し始めたら次第に体も熱くなってきた。



「及川如きにー……。」



こんなにときめくなんて。やっぱりイケメンはずるい。


悔しい思いをしながら机の上を片付けていく。すると及川と授業中やり取りしていた丸まった紙が目に付く。それがやけにキラキラしているように見えた。


目を擦り、再びそれを見るがその丸まった紙だけが輝いて見える。



「???」

「乃亜ー、次移動教室だよー。」

「あ、う、うん。今行く!」



キラキラと輝くそれを筆箱の中に入れ、移動教室の準備をして友達のところへ駆け寄った。



「どうしたの、乃亜?」

「ううん、なんでもない。」



きっと気の所為だったに違いない。


廊下から聞こえる及川と岩泉の話し声を背に私は歩き出した。







君にかかれば千切った紙も星の屑



「……どこみてんだ?」

「ん?ああ、ちょっとね。」

「また桐谷のことか。」

「だって乃亜ちゃん揶揄いがいがあって面白いんだもん!」

「……へぇー。そうですか。」

「でもまさかアレにツボるとは想定外だったなぁ…。」

「……はあ。クズ及川。」




title:さよならの惑星様より


 
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