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ズダンッ ダンッ キュッキュッ



「ナイサー!」

「もう一本ーー!!」

「あっ、スマン!カバー!」



体育館に響くのは床に叩きつけられたボールの音とシューズの底が擦れる音。それと声を掛け合う男子高校生の声。


私はそれを体育館の入口から見ていた。


見ていたのはバレーの練習をしている全体の風景ではなく、いつになく真剣な顔をして取り組む男の横の姿。いつも私が見ている横顔とは違うものがそこにあった。



「これが、噂のギャップ萌えってやつなのかな…。」



ほんの少し前までは下らないって吐き捨てていたかもしれないけど今は納得ができる。ギャップってすごいな。


顎に手を当て考え込んでいると声が掛かった。



「そこの人あぶなーい!!!!」

「えっ。」



気がつくとバンッという音と共に額にボールが当たり、勢いを殺したボールはその場にコロコロと転がった。私はあまりの痛さにその場にしゃがみ込んだ。


「……っ!!」

「うわああごめんなさい大丈夫ですか!!??」

「だ、大丈夫です。石頭ですから。」

「本当に本当にごめんなさい!!」



そう言って涙目で謝ってくるのはオレンジ色の頭をした小さな男の子。うわ、小さいと思ったのは内緒。


体育館の入口から「日向ボゲェ!!」と怒鳴り声と共に今度は目つきの悪い背の高い奴が現れた。そしてゾロゾロと人が集まってくる。


そこには見知った顔もいた。



「だ、大丈夫ですから。ね?」

「えええ、でも……!」

「あれ、桐谷じゃないか。」

「あ、本当だ。桐谷さんじゃねぇっすか。」

「え、知り合いなんですか?」

「知り合いも何もこの人は、」



あ、やばい。面倒臭いことになってきた。これはこれでちょっと困るかも。



「あのー、じゃ、じゃあ私はこれで……。皆さんは気にせず練習を続けてください。」

「あ、ちょ、おい。」



私は冷や汗を流しながらその場を退散しようとしたその時だった。



「何事何事?」



ひょこっとアホ毛を揺らしながら出てきたセンター分けの男を見て私はぴしりと体が固まる。そして私の姿を見てあ、と声を漏らした。



「乃亜、何してるの?」

「あ、いや、別に…。たまたま通りかかっただけで…。」

「課題は?終わったの?」

「え、えっと……。」



冷や汗はさらに溢れ出してくる。私は今話しかけてくれる彼の目を見ることはできない。きっと口は弧を描いているが目が笑ってないと思うと恐ろしいから。



「大地さん、あのふたり……?」

「ああ、あのふたりはああ見えて実は」

「付き合ってるんだよねー。」



澤村と東峰がのんびり話している目の前で私はスガに無言の圧力をかけられていた。私は恐ろしくてガタガタ震えている。



「あの課題しないと大変な事ぐらい自分でもわかってるよね?」

「は、はい!!」

「じゃあ今は何してたの?」

「ちょ、ちょっと休憩がてらにお散歩を。」

「なるほどー。じゃあそろそろ休憩終わりかな?」

「ももももも、勿論でございます!」

「あれ、本当に付き合ってるんっすか。」

「一応ね。」



スガ、そう澤村に声を掛けられた(一応)彼氏さんはそして何かを話しこちらにまた来たので無意識に身構えてしまった。



「さあ、戻れー。練習すっぞー。」



澤村のその声にバレー部のみんなはゾロゾロと中へ戻っていった。ただひとりスガを残して。



「あれ、スガ中に行かなくていいの。」

「後で行くよ。それより日向の速攻で跳ね返ったボールに当たったんだって?」

「あ、うん。そうみたい。」

「そうみたいって。もう。どこ打ったの?」

「おでこ。」

「おでこ?」



すらっと伸びた長い指が私の前髪を上げる。それが心地良くてつい目を閉じた。



「……あーあー、赤くなって。」

「そのうち放っておいたら治るよ。」

「そんなわけにはいかねーべ。保健室で保冷剤貰おう。」

「えー、わざわざいいよ。」

「今冷やさないとまた後で痛くなるから!ほら行くよ!」



立ち上がって困った顔をして笑うスガが手を差し延べる。私も何故かつられて笑ってしまい、手をしっかり握った。



「バレーしてるスガも好きだけど、心配症のスガも結構好きだな。」



立ち上がりながら私は一人ボソッと呟いた。



「……乃亜ってそれ無意識なの?」

「ん?無意識って何が?」



不思議に思って顔を横に向けると、横顔が見えていたスガの顔がいつの間にかドアップになっていて頬に暖かい感触がした。


私はその出来事があまりにも一瞬のこと過ぎてただ呆然とスガを見つめていた。



「俺も結構恥ずかしいからあんまり見ないで。ほら、行くよ。」

「う、うっす。」

「なにその返事の仕方。」



変なの、て笑うスガの顔はいつも通りだったけど耳だけが真っ赤だった。







おまえが好きとかそんなふうなこと言うたび
オレ実はちょっと感動してんの

(俺の気も知らないでそういうことサラッと言わないでよ)



「……大地さん、あれなんっすか。」

「リア充ってやつだよ。さ、練習練習。」

「俺も潔子さんとーー!!!!」

「影山ー!俺初めてチュ「日向やるぞ!!」お、おう!」

「スガが戻ってきたらここ荒れそうだなー。」




title:さよならの惑星様


 
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