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ポロン


軽い響きのある音が静寂な空間に流れる。それを耳だけで確かめるようと静かに目を閉じる。そしてもう一度指を動かす。


ポロンッ


窓から差し込む月の明かりがわたしの目の前にあるピアノを美しく輝かせる。


ここは全国で有名なある音楽高等学校。そこの1年生、わたし姫路野凛華は全国で有名な演奏者の父と母を持つものである。


父はジャズの方を母はクラシックの方をしていて全国で、世界で有名な演奏者だ。


その間に生まれたわたしはどういうわけかピアノの才能があり、ここへと入学してきた。


ピアノは好きだ。両手違うリズムと音を重ねた時の楽しさは病み付きになるぐらい。


しかしここでの授業は全て型にはめたようなものばかり。自由主義なわたしは到底満足できるものではなかった。


「......よし。」


自分にあった高さ、鍵盤からの距離を確かめるように椅子に座る。


完全寮制のこの学校。わたしは夜な夜な抜け出しピアノがあるこの部屋に来て真夜中弾く。


ちなみに部屋は防音室なため外にはあまり響かない。


楽譜なんていらない。わたしは自分がやりたいようにやる、そんな音楽をしたい。


鍵盤に静かに手を置く。そして、


「ーーーーーーー♪♪♪」


始めは小さくちょろちょろと鍵盤の上を歩くように弾く。


次第に音もリズムも大きくなりテンポが早くなる。思わずスキップしたくなる、そんな音楽。


「ーーー♪ーー♪♪」


あぁ、楽しい。やっぱりピアノは自由に弾けるからこそ楽しい!


と、その刹那。


「楽しそうに弾くねィ。」


「え、」


誰の声もするはずがないのに。そう思って扉の方を見ると、壁に寄りかかる人がいた。


「だ、誰ですか。」


「俺のこと、知らねーのかィ?」


コツコツと靴音を立てながらこちらにくるひとつの黒い影。月明かりが徐々に姿を照らす。


「1年の沖田総悟でさァ。」


「え、沖田総悟ってあのトランペット奏者の祖父を持つ、」


「おーおー。よくご存じで。」


月明かりが照らした彼の顔は意地悪そうに微笑んでいた。


沖田総悟、わたしの父の尊敬人である祖父の孫。見事に遺伝と意思を継いだと噂で聞いた。


昔からよくそのトランペット奏者について話を聞かされていた。そしてその孫、沖田総悟も素晴らしい人材だと。


学校でもかなり有名だ。有名トランペット奏者の孫、もあるが何より容姿がいいのでちやほやされる。


よく廊下で彼が女の子を適当にあしらっているのを見る。


「......怒られますよ?帰らないと。」


「こっちの台詞なんですがねィ。」


たしかに、その通りだ。


何も言えないままうつ向いていると、ガタガタと何かを取り出す音が聞こえた。


それが月明かりを反射して綺麗に光る。


「トランペット...。」


「祖父が吹いてたやつでィ。」


楽器ケースから金色に輝くトランペットを取り出す。その姿すら絵になる。


「実は夜な夜なあんたが弾いてるの、聞こえてやしてねィ。」


マウスピースに口をあてながら語り出す。


「聞いたこともねェ、でも不思議と楽しく自由な曲に興味を持ったんでさァ。」


「そ、そうなんだ。」


全てを見抜かれた感じでなんだか恥ずかしい。


その時、


プァーッ


部屋に響く甲高い音。さすが有名トランペット奏者の孫、そこらのトランペット奏者とは桁が違う。


しばらく音出しをする彼を見つめていた。ある程度すると優しい笑みを浮かべ、言った。


「最近、型にはまる授業に飽きやしてねィ。」


わざとらしい大きな溜め息をつく。


「あんたが夜な夜な弾いていた自由な曲をやりてんだが、演奏は一人より二人の方が楽しいだろィ。」


「......そうだね。」


すると彼はトランペット片手に手を差しのべてきた。


「よかったら、ご一曲お相手してくれやせんか?」


「よ、喜んで!」


わたしは自分の手彼の手に添えた。







流れ行く星の光の如く







ものすごく短い演奏だったけど、今まで弾いていたきた中で一番輝いている気がした。

途中、指が縺れたのは隣で吹いている彼に見とれていたからとかそんなこと絶対言えない。



 
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