( 1/1 ) 「ていやっ。」 「ゴフゥッ!!!?」 ガラガラガシャァァァンッ 大きな音と共に私の幼馴染みであり彼氏でもある、坂田銀時は壁へとめり込んだ。勿論勝手に彼が壁にめり込んだわけではない。私のスーパー跳び膝蹴りによってである。ここまでの威力とは私の足も中々のモノよ。褒めて遣わそう。 私は姫路野凛華。坂田銀時とは幼馴染みであり戦友でもある。そして雰囲気で始まった恋人関係。あの攘夷戦争に参加していた女攘夷の一人だ。歌舞伎町に住んでいる私は時折万事屋に来ては銀時と話をしにやってくる。今日も暇なので遊びに来てやったのだ。 「ゴホッ!!ゲホッ!!急に何すんだ凛華!!」 「いや、なんか蹴りたい衝動に陥っちゃって...。」 「それ理由になんねーからな!!?」 「正当な理由さ、ジョニー。」 「誰だジョニーって。」 額に青筋を立てながら壁を見て「あーあー。やられちまった。」みたいな顔をして落ちたジャンプを拾い、再び社長席に座った。鼻をほじりながら少年の心を掴むジャンプを読む銀時を見つめる。 「神楽ちゃんはー?」 「よっちゃんとこ。」 「新八くんはー?」 「お妙の買い物に付き合ってる。」 「凛華ちゃんはー?」 「そこで俺のこと見つめてる。」 「まじか。」 「何をそんなに驚いてんだ。アホか。」 こうして話している間も銀時はジャンプから目を離そうとしない。あ、また鼻ほじった。汚いな。 暇になった私はソファにゴロンと寝転がる。お日様もあたりちょうどよく暖かい。意識がぼんやりとしてきて視界も次第に狭くなり、瞼は私が気付かないうちに落ちていった。 完全に瞼が閉じたと同時に、意識も落ちた。 「ここは潔く、腹を切ろう。」 「ばーか言ってんじゃねェよ、立て。」 あぁ、知っている。この声。周りの音。匂い。気配。空気。全て全てあの時のものだった。澱んだ、霞んだようなこの空気はとても心地悪く吐き気がする。 私は赤い液体がついた刀を持っていた。刀を持つ手はカタカタと奮え呼吸も荒く視界もぼやける。そうしてボーッとしているうちにも次々奴さんはやってくる。 そんな時ボソリと呟いた仲間の声を拾った彼。私は声の主の方を見た。 綺麗な銀髪、白い装束には赤い液体が媚びりついていた。対照的な色が混ざりあっているそれは美しいものだ。 「美しく最後を飾りつける暇があるなら最後まで、美しく生きよーじゃねェか。」 「ぎ、銀時...。」 「それが俺の生き方ってやつだ。」 パタパタと揺れる血のついた羽織、大きな背中。白い生き物、白夜叉。私はただその背中を見つめることしかできなかった。 大きい、大きい背中。きっとその背中には自分のモノだけではなくてたくさんのものが背負い込まれていて凄く重たくて降ろしたら楽になるのに、降ろさない逞しい背中。 私はその背中に伸びるだけ、手を伸ばした。 「......。」 「.....ん?」 「凛華!」 「うえっ!!?」 ガバッと起きあがれば突然額に何かがぶつかる。あまりの痛さに額を抑え蹲ると、ソファの近くで銀時も額を抑え呻きながらゴロゴロ転がっていた。 「え、え、え?何してんの.....。」 「お前に頭突きされたんだよ!この、石頭!」 「銀時の頭が柔らかすぎるんだよ。」 「ふにゃふにゃってか!俺の頭は豆腐並みの柔らかさってか!」 「誰もそこまで言ってない。銀時の頭はヨーグルト並みの柔らかさだよ。」 「どっちもどっちじゃねーか!」 「あー、今日は災難だった。」そう呟いて私は気づいた。窓から外を見ると既に夕焼けでオレンジ色の日差しが差していた。外からは夕焼けこやけが聞こえる。そろそろ子供は帰る時間だ。 ふあっ、と1つ欠伸。そして固まった背骨を伸ばすために背伸びをする。骨ひとつひとつが小さな音を鳴らしていく。 その時冷蔵庫を漁っている銀時がふと目に入る。オレンジ色の日差しが銀髪にあたり、キラキラと宝石のように輝く。そして立派な大きな背中。 「ていやっ。」 「うおっ!!」 居ても立ってもいられなくなり、私はその背中に飛びついた。 大きな背中、そして暖かかった。この背中が色々な荷物を背負い、護っていく背中。護っていく存在。 「今度はなんだよ。いちご牛乳あげねーぞ。」 「いらないよ、そんなの。」 「そんなのって、お前なァ。」 ぎゅうっと首に巻き付けた腕の力を強める。そして首の方にぐりぐりと顔を埋め、息をした。甘い匂い、これが彼の匂いか。暖かい、これが彼の温もりか。 「おいおい、急にどうした?」 冷蔵庫をパタンと閉めて、向きを変え私と向き合う。そして今度は正面から抱きしめてくれた。彼の温もりに包まれた私は再び彼の首に腕を巻き付ける。 「私、銀時が好きだよ。」 「おお、知ってる。」 「でもね、それ以上に後ろ姿が好き。」 「なんだそりゃ。」 でも、そう言葉にした時埋めていた顔を上げ彼を見る。優しい瞳をしていた。 「俺も凛華の後ろ姿好き。」 「なんで。なんもないじゃん。」 「そのちっさな背中で抱え込もうとする姿がいんじゃねーか。」 そう言って、彼は私の背中に唇を落とした。 後ろ姿が一番好き。 「え、なに。今日全然構ってくれなかったのに。」 「いやー、凛華が久しぶりに甘えてきてくれたから嬉しくなっちゃって。」 「調子のんな。また壁めり込ませるよ。」 「え、まさかのツンデレキャラなのお前。」 title : 魔女がいる様より |