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末っ子は小さい頃愛情を一番多く受け取るので甘えん坊になると思う。上からの愛情をすんなりと受け取り大切にし、自分は愛されていると自覚できる。やがて大人になるに連れて甘える自分から徐々に独立し、甘え方を忘れる。


甘えを忘れて自分に厳しく、もいい事だが時と場合によって悪い事にもなり得る。たまには息抜きという甘えも大切なのではないだろうか。


あいつにそんな器用な生き方ができるものか。器用そうに生きていて実は不器用を隠しているあの男にとってこんなにも難しいことはないだろう。


そんなことを考えた今日は雪がシンシンと降る12月25日だった。



「遅せェ。」

「ご、ごめんって。」



街の中にある噴水近くでマフラーに顔を埋めた男は鼻を真っ赤にしてただボソリと呟いた。私はその男に息を切らしながら近づいていく。



「ちょっと雪のせいでバスが遅れちゃってね、それでね。」

「寒い。」

「は、はい。暖かいお店の中にでも入りましょうか...。」



私の言い訳を聞かず大股で歩いていく男に私も必死についていく。息はまだ整えられておらず白い息がふわふわと私の視界を曇らせていく。


隣に並んだとき男はふと私の手を握った。



「お前の手ェ、でけーな。」

「そうかな?総悟の方がでかいよ。」

「当たり前でィ。俺ァ男なんだから。」

「そっか。比べじゃダメだよね。」

「でもこれぐれェの大きさなら俺と互角....」

「んなわけないでしょ。」



フッと総悟が鼻で笑うとふわふわと出てくる白い息。それが面白可笑しくてつい大声で笑ってしまった。


手は自然と繋がっていた。














「お待たせ致しました。ブレンドココアとミルクティーでございます。」



近くのカフェに入り注文したものが私達のテーブルへとやってくる。私の前にはミルクティー、総悟の前には湯気の立ったココアが置かれた。「ごゆっくり」そう言って店員さんは立ち去っていった。



「さて、これからどうしようかねィ。」



ズズズッと湯気の立つココアに口をつけていく総悟。外を見て飲んでいたので私も暖かいミルクティーに口をつけ外を見た。外には腕を組んで雪の降る寒い中を歩いていくカップルや家族ばかりだった。



「クリスマスに会う約束したから、特別なことするかと思った。」

「俺がそんなやつに見えるかィ?」

「......ごめん、どんなに頑張ってもそんなロマンチストには見えない。」

「俺も自分の事そんなやつだと思ってねェ。」



ズズズッ。再び音を立てて暖かいものを飲む。私も口寂しく思いミルクティーに口をつける。喉を通り胃に入っていく感じがしてとても心地がいい。



「今日、どうしよっかー。」

「あー、映画でも見るか。」

「映画かー。それならペドロ観たい。」

「ペドロー??またあの訳のわかんないやつかィ。」

「訳のわかんなくないよー。すっごく感動するんだから。しかも今回はクリスマス編って言うしね。ちょうどいいじゃん。」

「.....はいはい。んじゃ行くか。」

「あ、待って待って。」



コップの中にあるミルクティーを火傷しないよう慎重に飲んで、置く。総悟はそんな私を待たずにさっさとお会計を済ましていた。


「ありがとうございましたー」と言う店員さんの声を背に私は総悟を追いかける。相変わらず大股で隣で並んで歩くのも精一杯。



「あれくらいならお金出せたのに...。」

「凛華が来るのが遅いのが悪いんでさァ。」

「もう。でもありがとう。」

「....お礼考えときまさァ。」

「えー。」



クスクスと笑いやっと掴めた総悟の右手の小指をちょんっと掴むと、少しだけきゅっと握り返してくれた。それが幸せとか感じる私は相当コイツに溺れている。


徒歩20分程度の場所にある映画館に入り「ペドロ サンタを捕まえてクリスマス独り占め編 」が上演するところへと入る。


ブーーッとブザーの音の数秒後に始まる映画に私は目が釘付け。上映中のペドロへと夢中になっていると突然右側が重たくなる。見てみると総悟の綺麗な蜂蜜色の頭が私の肩に置かれていた。隣からは寝息。あー、寝てしまったのね。



『ペドロォォォ!!早まるなァァァ!!』



映画の中のその声に驚き、何事かと私は再び目をスクリーンの方へと戻した。数秒後、ペドロの行動に感動し涙するのは後のお話。















「あー、楽しかったー。」

「うーん、よく寝たー。」

「あれを見ないなんて本当総悟は勿体無いことしたよ。」

「あの時間を睡眠時間として利用しなかった凛華の方が勿体無ェ。」

「そんなことないのにー。本当に感動したんだから。」



映画館を出て行く宛もなくフラフラと街を彷徨う。別にイルミネーションが見たいわけでもなく、周りにいるようなベタベタと引っ付くカップルみたいにするわけでもなくただフラフラとしていた。


さあ、これからどうしよう。ぼうっとそんなことを考えていると隣からボソリと呟いた言葉を私は拾い上げた。



「え?」

「......いや、なんでもない。」

「お腹すいたの?」

「聞こえてんじゃねーか。」

「いや、でも確認のために。そうかぁ、お腹すいたのか。どっかのお店寄る?」

「考えてみろィ、今日はクリスマスだぜィ?そこら中予約でいっぱいだ。」

「あ、そっか。それなら.....。」



コンビニかなんかでちょこっと買って食べてから帰ろうか、そう言葉に出そうとした瞬間あっちから言葉が出ていた。



「俺の家が近い。」

「え?あ、あぁ、そっか。」

「俺の家が近い。」

「.....もー、はいはい。」



困ったように私は笑って、彼の袖を引っ張ってスーパーの方へと歩いていった。


姉を持つ男は甘えん坊。やがて大人になるに連れ甘え方を忘れる。そう思っていたが小さい頃甘えん坊だった人は大人になってもやっぱり甘えん坊で、ただそれが表にはちょっと出にくいようになっている。


大人になっても小さい頃の時と同じようにたっくさんの愛情を受け取りたいらしい。その愛情を受け取るべく甘える。小さな行動から彼らの甘えというのは見えるらしい。


いい例がコイツだ。この甘えん坊め。


でも、まあ、こんな素直じゃない甘えられ方も悪くないかもしれない。と思ってしまった聖なる夜のこと。







愛されたがり



「はい、どうぞー。姫路野家特別クリスマス料理ー。」

「おー、凛華にしてはよくできてんな。」

「どーも。偶にはこんなクリスマスも悪くないね。」

「おう、悪かねェな。こんな質素なクリスマスも。」

「もう、またそんなこと言って。ふふ。メリークリスマス。」

「メリークリスマスー。」



 
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