( 1/1 ) 私達が空の下でなんやかんやとしている頃、きらきらと瞬く空ほど憎らしいものはない。別にこっちは忙しいのにとかこんな苦労してるのにのんびりとしやがってとかそんな嫉妬交じりのことは思っていない。空も空で何かしらお仕事はしているのだ。 ただ、それは私が落ち込んでいるって時にふと見上げるときらきらと瞬いてあの人を思い出させる。決してこの空みたいに綺麗とは言い難い人だったが綺麗な人だった。血に汚れてもなお自分の精神を貫こうとするその姿は美しい、ただその言葉しか出てこない。 もう一度空を見上げる。そこには相変わらずの瞬く光。きらきらちかちか。最近空を見上げることが多くなった気がする。そのせいか首が少し痛い。 「またこんなとこで見てんのか。」 「副長。」 頭をガシガシとタオルで乱暴に拭き縁側を歩いてきたのは鬼の副長こと土方十四郎だ。お風呂上りなのだろうか、頬がピンク色に火照りいつもの怖い感じが少しは和らいで見える。 私は副長にニコリと笑みで返す。彼はそれに対して何も言わずそっと隣に座った。なんとなく隣に来ることがわかっていた私は隣を少し空けて座れるスペースを作った。 「何年だ。」 「え、何がですか。」 「お前がここに来て何年だ。」 「ああ、ちょうどこんな寒い日だったから...3年くらいですかね。」 「まだ、3年か。」 「もう3年ですよ。」 そう言ってニコリと微笑めば哀しそうな笑みを向けられ頭を乱暴に撫でられた。それすらも愛おしく感じる私はなんて罪深い野郎なのだろうか。 こうやって他人の心の隅に入り込み深い深い傷をつけていく。そしてその傷と共に他人の永遠となっていくのだ。私は欲深い卑怯な女、誰もがそう思う。 でもわかるでしょう?他人に忘れられるのがどれだけ怖いことか。 臆病者の私は少し口調が早くなりながらも落ち着いたトーンで話す。 「私、副長のこと尊敬してますよ。」 「はは、まさか尊敬という言葉をお前の口から聞けるとはな。」 「それ失礼ですよ。でも本当なんです。副長を後ろから見ていて思いました。茨の道厳しいけど案外楽しかったです。」 「案外楽しいもんだろ、バラガキの道も。そうそう体験できるもんじゃねーぞ。」 「その経験、この胸に刻んでおきます。」 とん、とこぶしを作った右手で心臓部分を軽く叩く。それを見てまた悲しい顔。私はその顔に負けないぐらい自分でもわかるくらい引きつった笑顔を見せた。 再び空を見上げた。きらきらちかちか。今にも弱りそうな光の星やギンギンと弾けるような星、星にもどうやら個性かあるらしい。 その星が今私の掌で掴めないかと手を伸ばしてみるが空振りばかり。当たり前だ。星というのは何億キロと離れたところにあるのだから。しかしそれは科学的根拠。その科学的根拠を捨てて星を拾おうとしたら私は周りから見たらどれだけ哀れな人間なのだろうか。 そう思うと悲しく、馬鹿らしく思えてきた。 拳を握り太股のところに置く。何も掴めない哀れなそれは少し震えていた。怖い、そう叫んでいた。 「楽しかった。ここ真撰組での暮らしは今まで私の経験したことのないものばかりだった。」 「男所帯だしな。」 「それもですけど、ひとりひとりの温かい心を一番身近に感じられる素敵な場所でした。」 「.....そうさなァ。」 すくっと立ち上がり、私は庭の真ん中の方まで歩き副長を振り返った。ニコリと再び笑う。彼は悲しい笑顔なんか見せない。ああ、いつものあの鬼の目だ。その目を見てゾクゾクする。 そして頬をツーと伝う暖かい何か。視界がぼやける。だけど拭いはしない。 カチャッ 私は手元にある刀を抜き、副長のほうへと向けた。 彼は驚きはしない。わかっていたのだ。わかっていたからこそこんなに冷静に相手のことを見れるのだ。そんな彼に対しても頬を伝うものは止まらない。 「真撰組副長、土方十四郎とお見受けする。」 「いかにも。俺が土方十四郎だ。」 ゆっくりと立ち上がりゆっくりと刀を抜く。まるでこの時間を惜しんでいるようなそんなゆっくりとした動作。でももうそんなことをしても遅い。運命の歯車は刻一刻と進んでいく。所詮運命には逆らえないのだ。 「私は、鬼兵隊幹部姫路野凛華である。土方十四郎、お、お命頂戴、」 「......。」 嗚咽が混じり最後まで言えない。言いたくない。刀下ろしたい。貴方になんか向けたくない。私に向けたい子の醜い刀。 泣いて悲しむ資格なんてない私はボロボロと頬に涙が伝う。私自ら裏切ったのにこんなに悲しむなんて阿呆な話だ。 本当はこんなに感情を入れるつもりもなかった。上辺だけの付き合いのつもりだった。そうしたつもりなのに、いつの間にか入り込み私を包んでいく。 ああ、愛おしい人達よ。 「鬼兵隊幹部姫路野凛華。」 ああ、愛おしい貴方よ。 「この土方十四郎が粛清する。」 もう少し違うところで出会いたかったな、なんてそんな叶わないこと口にしても虚しいだけだから何も言わない。言う資格もない私はただ思っておくだけ。 心の隅に本当の気持ちに蓋をした。 きらきらはじけて瞬いて こんな悲しく辛く苦しく、今にも崩れそうな私を 瞬く星空は見下ろしていた。 title : Largo様より |