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生暖かい風が頬を優しく撫でるように吹いていく。俺は目に見えない風を目で追っていた。


季節は寒い寒い冬を越し冬眠していたものが起き出す春へと変わっていった。


春といえばすぐ思い浮かぶであろうピンク色の景色、桜。日本を代表する春の花である。


ぺたぺた、と地味な音を出しながら長い廊下を歩いていく。廊下を歩いたら階段をのぼり歩いてのぼりの繰り返し。


何回か繰り返したら屋上へと続く扉が目の前に現れる。普段は錠とかなんとかで固く閉じられているが、最近は少し緩めらしい。


そこを無理矢理こじ開けたら屋上の扉が開かれる。


俺は迷いなく進んでいった。


「銀ちゃん、またサボり?」


いつも当たり前のように聞いていたその声は今は聞けない。


内ポケットからタバコを取り出し火をつける。肺いっぱいに吸い込んで空に向かってはく。


数年前、俺は先生としてやってはいけないことをしていた。それは学校的にも悪いことだが社会的ダメージが一番大きいこと。


言わば禁断の恋、てやつ。


んなこたァ頭で充分承知してたし、寧ろこれ以上か関わらないようわざと冷たい態度もとった。


けどな、我慢の限界だった。


「ありがとう、銀ちゃん。」


「は?」


「わたしを守ってくれてたのでしょう?」


「......んなわけねーよ。」


「そう言うならそうでいいや。」


「......。」


「わたしね、これ以上銀ちゃんに迷惑掛けたくないからこの恋は終わりにする。」


「終わりに、するのか?」


「うん、もうわたしも大人だよ。他人に迷惑掛けちゃいけないことが悪いことだって知ってる。」


「......まだまだ餓鬼じゃねーか。」


「大人だよ、中途半端だけど。」


そう言って笑うお前すげー綺麗で儚くて悲しくてさ。


「ありがとう、ばいばい。」


いつも怠くて重たくて命令聞かねー体が思わずあいつを


抱き締めた。



あれから俺たちは別に付き合った、わけではない。


ただなんとなく先生以上恋人未満の関係がずっと続いていた。それも卒業するまで。


そしてついにあいつは卒業していった。卒業前から夢だった英語の先生になるために今どっかの国へ出掛けてる。


海外に行く前にそういえば言ってたな。


「必ず銀ちゃんのところに戻ってくるから。その時は笑顔でおかえりって言ってね。」


そう言われて2回目の春がやってきた今日この頃。


屋上から見る空と桜の景色は相変わらず綺麗で儚くて悲しくて。あいつのあの頃の顔にそっくりでよ。


短くなったタバコをポケット灰皿に捨て、同じ空の下にいるあいつに呼びかけてみた。


「......ずっと待ってっからなー。」







君を思い出す







校舎に咲く花で花見をしながら「おかえり」て言ってやるよ。

ついでにひとつ伝えなきゃいけねーこともある。ついでがてらに教えてやらァ。




お題:君と僕の言霊様


 
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