( 1/1 ) ねえ、面白い昔話をしよっか。 昔々、小さな森に住むひとりの少年がいました。少年にはお母さんもお父さんもいません。物心がついた頃にはひとりきりでした。 男の子はお腹が空けば木の実を食べ喉が乾いたら川へ行き、水を飲みに行く。そんな生活を毎日繰り返していました。 ある日男の子が川へ向かっている途中でした。そこにひとりの女の子が倒れていました。見た感じでは外傷はないその女の子を男の子は目が覚めるまで側にいました。 数時間すると、女の子は目を覚まし男の子と目が合いました。お互い前にもあったことあるような、そんな懐かしい気持ちが蘇ってきていたのです。 それが恋の始まり。 「それから、どうなったと思う?」 「......その男と女がかィ?」 「うん。」 きらきらと星が輝く空の下。わたしは総悟の隣で空を眺めながら質問した。 いつもなら「知らねェ」の一言で終わるのだが今回はなぜか真剣に考えてくれてるらしい。顔をしかめっ面にしながら唸った。 「......知らねェ。」 「結局それじゃん。」 「知らねェもんは知らねェ。」 「まあ、そりゃあそうだよね。」 一息溜め息をつき、肩に凭れ掛かる。彼なりの優しさなのか肩を低くしてわたしが楽になるように調整してくれた。そして彼もわたしの頭にぽんっと... ゴンッ 「いった...!!!」 甘い展開にはならず思い切り頭を降り下ろされた。あまりの痛さにわたしは動くこともできずその体制のまま痛いところを押さえた。 「......で。」 「え??」 「続き、早く話せィ。」 「え、気になるの。」 「......もう一回振り落とすぞ。」 そう言って頭を高くあげるのでわたしは慌てて話した。 男の子と女の子が仲良くなるのにそんな時間も掛かりませんでした。次第に彼らはお互いを男と女で見るようになり、深い間柄になりました。やがて男の子と女の子は男性と女性と成長していくのでした。 次第に彼らは自分達が一体何者なのか知りたがり始めました。そしてそれは直感的に空にあると思ったのです。 彼らが一晩中空を見上げていると、空に大きくて美しいきらきらと輝く川が流れたのです。彼はその川に見とれていました。 「わたし、思い出した。」 そう呟いて彼女は天の川を指差しました。彼はなんのことだかさっぱりわかりません。 「帰らなきゃ、帰らないと。」 その時思い出したのです。自分達が何者なのか、そしてどこから来たのか、何しに来たのか。全てが思い出された瞬間でした。 彼らは天の川から落ちた織姫と彦星だったのです。 「で、彼らは一日遅れでやってきた天の遣いに連れられ天の川に帰っていきましたとさ。」 「一日遅れ?」 「そう、一日遅れ。」 ふーん、そう呟き再び空を見上げた。空には天の川みたいな立派な川は流れていなかったが綺麗な星屑が散らばっていた。 「でもなんで織姫と彦星は帰ったんでィ。帰ったらまた1年会えねーんだろィ?」 「...さあ?昔話だからよくわかんないや。」 適当、胡散臭いと文句をつけられながらも話を最後まで聞いてくれた総悟は本当に優しい人だと思う。 「なんか、まるでわたし達みたいだね。」 「......なんで?」 「いちゃいちゃしてて。」 「ハッ、確かにねィ。」 でも、そう付け加えてわたしの方向を向いた。わたしは彼の肩から頭を離し、見つめた。 「俺は、天の川なんかに帰らねーから。」 優しく顎を掴み、にやりと笑った。その無邪気な笑顔が可愛らしい。 「そんなにわたしといたいの?」 「ペットは近くに置きたい主義でねィ。」 「え、わたしペットなの?」 「え、今頃?」 「ちょ、わたし一応彼女なんだよね。」 「彼女=ペット。よく覚えとけィ。」 「そんな方式今すぐ潰してやる。」 カチカチカチ、時計が鳴る音にハッとなる。置時計を見ると既に時刻は過ぎていた。 「あ、やばっ!!」 すぐに総悟の方を向き、頬を両手で包み込む。唇が出る顔になった彼は眉間にシワを寄せてわたしを見た。 「...にゃんでィ。」 「目、瞑ってて。」 何かを悟ったのか彼はそっと目を瞑る。わたしもそっと目を閉じて、彼に近づいた。 「お誕生日、おめでとう。彦星。」 「どーも、織姫。」 初めて自分から重ねた唇はいつもより熱かった。 一日遅れの彦星様 天の川なんてロマンチックなものはなかったけど なんでだかわかんないけどやっと、重なった気がした。 沖田総悟happybirthday! 生まれてきてくれてありがとう! |