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「はぁっ、はぁ...っ!」



大きく息する度に焼けそうな喉元、縺れそうな足を立て直しわたしは行く先もわからぬまま足を大きく動かして走っている。


時々後ろを見ては廊下でわたしを追いかけている姿を確認して、それを見て見ぬふりして走り出す。先程よりも早く、前へ前へと体を足を動かす。


わたしの腿の辺りでひらひらと舞うスカートはそんなわたしの気持ちなんか知らず呑気に舞っている。実に腹立たしい。



「おい!ちょ、待てェェ!!!!」

「わあああ!!!?」



然程運動神経もよくないわたしの走りは彼からしてみれば遅いわけでいとも簡単に追い付く。


ちょうど現れた角へ曲がりわたしの行方を眩ませようとした。



「てめっ...!!」

「へっへーん、だ!!!」



階段を何段か上がり、上から彼を見上げる。銀髪の彼は膝に手をあて肩で息をしながらわたしを睨みあげる。その彼にあっかんべーをする。


そんな彼が大声を張り上げた。



「告白の途中で逃げるたァ、いい度胸だコノヤロー!!!」

「ちょ、大声で言うなァァァァァ!!!!!」



わたしは極々一般の女子高生、姫路野凛華。普通の家庭に生まれて普通の生活を送り続け、そして普通の幼馴染みもいる。


彼は世にも珍しい銀髪の持ち主、坂田銀時という。昔っからわたしに悪戯ばかりされて苦労してきたわたしの幼馴染み。


その幼馴染みが、今日、突然...。



「俺さ、凛華のこと好きなんだけど。」



とかなんとかほざきまして。いや、嬉しかったよ。嬉しかったけれども、けれども...。なんか、こう。悪戯精神が出てしまいまして。



「じゃ、じゃあ......、」

「......おう。」

「わたしを、」

「お前を?」

「捕まえてごらんなさい!!おほほほほ!!」

「...は、はあ!?っておい!ちょ!!!」




で、軽く鬼ごっこになっております。


そりゃあ捕まったら絶対に焼かれ煮られ食べられてしまうんじゃないかってくらい怖い形相で追いかけてくる銀髪を見ると、楽しくなってしまいまして。



「はぁ、はぁ......っ!」



階段を全力疾走で上がり、校舎の一番上にある屋上の扉に手をかける。そしてゆっくりとドアを開いた。



「はぁ、はぁ....。ははっ。あー、疲れたー!」



ほんのりと汗ばむこの季節。背中になにかが垂れるのを感じながらぺたんっとその場に座った。


後ろを振り向いても音もしなければ扉も開く様子がない。そのことに少し不安を感じながらも前を向いて、大人しく待っていた。



「......。」



しかし、もう十分であろう時間を過ぎても銀時は来ない。その時には不安がわたしを包み込んでいた。体操座りをして待っていたわたしの頭の中には「反省」しか残っていなかった。



「......馬鹿ァ。」



自分も、そして銀時も。その意味を込めて呟いた。


見上げた空は徐々にぼやけていく。雨は降っていない。自分の視界に何かがたまっているだけだった。


その時だった。



「ったく、泣くぐらいなら最初っからやんなよ。」

「えっ...!!?」



青かった視界に突如入り込んできた銀色。そして暖かみのある低い声。


わたしの幼馴染みだった。



「な、なんで...っ!扉開く音しなかったのに!」

「扉開くどころか隙間あったから気づかれねーよう入ってきた。」

「なっ...!!うそ!!!」



彼はしてやったりの顔で笑う。なにか反論しようかと口を開くが言葉がうまく出てこない。かわりに嗚咽が漏れ始めた。



「ひ、く。うぅ。」

「......で、なんで逃げたんだよ。」



彼は後ろからぎゅっとわたしを包み込むように抱き締める。昔からこんなことはやってきたから慣れているはずだが、今は顔が真っ赤になるくらい恥ずかしい。



「い、悪戯精神が、働いて.....。」

「またかよ。懲りねーな凛華も。」

「銀時見てたら苛めたくなる。」

「俺、MじゃなくてSなんだけど。」

「根っからのMじゃないの?」

「腐った根っからのSだっつーの。」



それでお嬢さん、耳にかかる言葉が脳にまで浸透する。くすぐったくて心地がいい。


あぁ、わたしの方がMなんじゃないかと疑ってしまう。



「俺は凛華が愛しくて愛しくて、今すぐにでも俺のモンにしてーわけ。」

「......。」

「だからよ、返事、聞きてーんだけど。」



後ろからは「やべー、今のは俺じゃねー。誰か変なやつが乗り移ったんだ。それもそれで嫌だわ。」などとぶつぶつ聞こえる。


その時いつの間にか止まった嗚咽を今この瞬間、不思議に思ってしまった。あんなにひくひくと喉が鳴っていたのに。それに、嗚咽が止まるこの感じ。そうか、これが


安心というやつか。



「銀時。」

「......おー。」

「馬鹿。」

「は?」

「マヌケ馬鹿阿呆鈍感カス屑。」

「え?なにこいつ?人の心抉って...。」

「でも、」

「......でも?」

「好き。」



その瞬間、握った彼の手は少し汗ばんでいた。







逃走ロマンティック



「銀時、手汗、すごい。」

「当たり前ェだろ。走ったんだから。」

「......てか暑いよ。いい加減離して。」

「もー少し、幸せを味わいてェな。」

「......あ、あと5分だけね!」




BGM:鏡音リン「逃走ロマンティック」


 
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