( 1/1 ) 「守る」と「護る」は違いがあると俺は思う。 勿論見たように漢字の違いというのもあるが、辞書的にいえば意味は同じなのだ。ある辞書にはこう書かれていた。 大切な物が失われたり,侵されたりしないように防ぐこと。 それが「守る、護る」の意味だ。だけどこのふたつは違うのだと俺は思う。 自分が思うに「守る」というのはそいつを覆い、自分が犠牲になって守る一時的なこと。そしてもうひとつの「護る」は己の魂に誓った護るべきものを護り通すこと。 こんなことを考えたのは、俺自身にその「護るべきもの」ができたからだ。 「土方さん...?」 風が通りすぎる音と共に隣から聞こえたやんわりとした声。それを聞いて我に返った。時刻は既に月の光が部屋を照らす頃だ。 「土方さん?」 「あ、あぁ、凛華か。」 「もう、さっきから何回も呼んでいますのに。」 「悪ィ悪ィ、ボーとしてた。」 「...仕事ばっかしてるから。」 「それは仕事を増やしてる総悟に文句を言え。」 ぷくっとハムスターみたいに頬を膨らませ凛華は俺の方向とは逆の方向を向いた。 やべ、怒らせたかも。慌てて宥めようとしたがそんなことはなかったらしい。ポスッと華奢な体が俺の片腕に寄り掛かる。 どうやら彼女の精一杯の甘えらしい。耳まで真っ赤になっていた。その姿が可愛くて愛らしくてつい口角が上がる。 「......仕事、いつ終わるんですか。」 「あー...、あとはこれらに目を通すだけ、だな。」 これらといっても気が遠くなるほど山積みされた書類である。嘘であってほしいと書類に目を再びやると、やはり量は変わらない。どうやら現実逃避はできないらしい。 「なんですか、この量...。」 「先週の攘夷志士検挙報告書とかあとは総悟による破損物の請求書一覧とか...。」 「沖田さんどんだけ物壊してるんですか。」 「凛華が想像している量よりもかなり多くの物。」 「......あの人、サディスティック星の王子よりも破壊王子の方が似合ってますよ。」 「まあ、確かにな。」 サディスティック星の王子ならぬ破壊王子は今頃ぐっすりと寝ている頃合いだろう。なにも知らず寝ていると思うと可笑しくて笑いが出てしまう。 「あ、そういえば!わたし土方さんに渡したいものがあるのです。」 そういうと彼女は横に置いてある袋を割れ物を扱うように大事そうに持ち、俺の目の前に出した。 「お誕生日、おめでとうございます。」 「......あ。」 そういえば今日は5日。最近忙しくて日にちもまともに数えていなかったが確かに今日は5月5日だ。そうか、今日は俺の誕生日か。 「あ、ありがとな。」 凛華が持っていた袋を受け取り早速中を覗いてみた。 「......は?」 それは俺が想像していたものとは違うものだった。月の光によって照らされたそれは美しく白い色に輝き、鈴のような花を左右に揺らしていた。 「鈴蘭です。」 なんだこれ、の言葉を予想していたかのように凛華は答える。 「知っていますか?5月5日の誕生日花はアルストロメリア、オジギソウなどありますが鈴蘭もそのひとつです。」 わけのわからない単語が飛び交う中、たった唯一聞こえたのは「鈴蘭」だった。 そういえばこの前近藤さんが女っていうのはこういうこだわりが好きだと言ってた。これもこだわりのひとつか。 「土方さん、鈴蘭の花言葉知ってますか?」 「......知らねェ。」 花に詳しくない俺にはさっぱりわかんねェ。そんな俺を見て凛華はくすりと幸せそうに笑い、言った。 「鈴蘭の花言葉は、幸福です。」 月に照らされ、白い肌が更に白く見える。俺はそっと彼女の頬に手を添えた。 「土方さん、わたし今この上なく幸せです。」 「あぁ、俺も幸せだ。」 「これからも、幸せであり続けますように。その願いを込めて」 ニコリと微笑む彼女を俺は幸せいっぱいの胸へと引き寄せた。 「あなたに捧げます。」 君影草に誓いませう この先いつまでも、俺は お前を護り続けることも鈴蘭に誓おう。 ――――――― あとがき ――――――― 土方さんhappybirthday 鈴蘭 = 君影草 → 幸福、繊細、幸福が戻ってくる、純潔、清らかな愛 |