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※ お客様は何様です? 番外編





俺は「恋」「愛」なんてものは知らない。そんなものなくってもこの先生きていけるわけだし。とくに必要だと思ったこともない。所詮俺にとっても相手とっても暇潰しにしか過ぎない。


今日も相変わらず化粧が濃い女共が札束をちらつかせ、ここ「Silver Host」へとやってくる。ちなみに省略して「SH」とも呼ばれている。


いつもだるだると働いている(休憩室で)俺は一応ここのオーナー、つまり店長という役柄。


本当はこんな肩苦しい役柄背負いたくないが無理矢理押し付けられたため仕方なくオーナーとして働いている。別に投げ出してもいいがそれは俺自身許せないんで。


店の金を管理している金庫に近づき、鍵を開け大量の札束を取り出す。それを掌でペチペチと遊びながら見つめた。


金も大量に手に入れた、名誉も手に入れた、そしてたくさんの仲間も手に入れ、たくさんの女共と遊んだ。正直今の人生に悔いはないと同時につまらない。何か夢中になれる、そんなものがあればいいのに。


「あれ、旦那じゃねーですかィ。」


手に持っていた札束を金庫に戻した時だった。カツカツと音と共に近づいてきたのはあの「彼女」に夢中な総一郎くんだった。


「何やってんですかィ。」


「管理ノート置きに来たんだよ。」


「......へー。」


キィ、パタン。虚しい音を響かせて金庫の扉はしまった。


「総一郎くんこそ、何か用?」


「総悟でさァ、旦那。...あ、ザキが旦那探してたらしいぜ。」


「まじか。きっと指名だろーな。」


はああ、また仕事だよ。本当にかったるいな。


総一郎くんに背を向けて俺はジミーがいるであろう場所に歩いていった。その時俺はふと思った疑問を口に出した。


「総一郎くんさー、今幸せ?」


そう言うと彼は満面の笑みを返した。言葉には出していないがそれが質問の答えのように感じた。


「旦那も見つかりまさァ。夢中になれるモン。」


「さぁな。」


「いや、実はもう見つかってたりして。」


「......は?」


総一郎くんの言葉に疑問を持つ俺はただただ立ち尽くしていた。


「最近旦那がつきっきりの客。」


「......あれはなー、いろいろ理由があってだなァ。」


「旦那気づいてやす?そいつに構う時の旦那、幸せそうですぜィ。」


「......なんだなんだ総一郎くーん。そんなに俺のことを見つめて観察してたわけー?変態やろーめー。」


「馬鹿ですねィ。旦那の元客が騒いでんのを前聞いたんでさァ。「わたしの銀ちゃんが!」「かっこよかったのに!」だそーで。」


「...ふーん。」


結局あいつら俺のこと上っ面しか好きじゃないんだな。前から冷めてたけど今かなり冷めてきたわ。


再び総一郎くんに背を向けて歩き出した。


それにしても「幸せそう」か。


確かにここ最近来ている客に構っている。勿論指名されたからだ。こいつもまた上っ面しか見ていない女。そう、思っていた。


「あ、はじめまして。」


「はじめまして、凛華ちゃん。ご指名ありがとう。」


「ご、指名というか、なんていうか。」


彼女は他の女と身なりは違かった。派手な服装で来る女共とは違いスーツ姿というなんともシンプルな服装だった。正直「この女ないわ」とか思っていた。


そんなことも知らずに彼女は鞄から長く黒い財布を取り出して、俺に差し出した。


「これ、あなたのですよね?」


「は?」


「お店の近くに落ちてました。本当は誰かお店の人に渡そうと思ったんですけど指名と間違われて...。」


頬を掻きながら苦笑いする彼女に呆気を取られていた。わざわざ他人の財布のためにここまで来てしまったのか。


「そ、そうか。なんか悪ィことしちまったな。」


「いえいえ。渡せただけでもよかったです。」


それじゃあ、と立ち上がる彼女の腕を俺はいつの間にか掴んでいた。


「え...?」


「もう、帰るのか?」


「え、えぇ。やるべきことはしたので。」


「酒、飲まねーの?」


「......すみません。見た目通りただの会社員でして、そんな高級なもの手に届かないんです。」


すみません、また苦笑いする彼女の腕を更に強く掴んだ。帰したくない、なぜかそう思った。


「...財布拾ってくれたお礼、してーんだけど。」



あの日から俺は連絡先を交換した彼女を店の前まで呼んでは俺の奢りで来ている。


そーいえば昨日ジミーに言われた。彼女に「執着」してますね、と。それは俺が彼女に夢中になっているとでも言いたいのだろうか。きっと言いたいのだろうな。


「ジミー。」


「あ、旦那。指名ですよ。」


「で、客は?」


「10分も店の前で待ってますよ。」


「たった10分じゃねーか。」


「もう10分です。」


ジミーの小言を聞き流しながら俺は店の前まで軽い足取りで歩く。


「お待たせ、凛華。」


「ぎ、銀さんっ!」


満面の笑みで俺の方へ駆け寄ってくる凛華。あぁ、もう可愛いなこんちくしょー。


「遅れて悪ィな。」


「いえいえ、いつものことなので。」


「...そーやって聞くと俺ダメ男じゃねーか。」


「あ、いや!別に深い意味があっていたわけでは!」


「わかってるわかってる。」


ポンポンと頭を撫でて肩を引き寄せて歩く。彼女の肩が強ばったのは得意の気づかないフリ。


「あ、あの!今日は少しお金を持ってきたので!今日は奢られなくても、」


「......馬ー鹿。」


「うむっ!?」


人差し指で馬鹿なことを言った口を塞ぐ。彼女は顔を暗闇でもわかるくらい真っ赤にさせていた。


「これは俺の勝手。お前さんは気にしなくていーの。」


「へも(でも)...。」


「銀さんを舐めんなよー。お金持ちなんだからな。」


そう言ってちらりと彼女を見ると、彼女は今まで見たことのない優しい笑みで「ありがとう」と言った。


その時、ほかほかと暖かくなる胸らへん。暖かく、くすぐったい。でも不思議と幸せ。


「いや、実はもう見つかってたりして。」


......なるほど、これがあの噂の







恋ってやつですか







「凛華、これさ新しく店に出そうと思うやつなんだけどよ...。」

「なにこれ!?すごく美味しそう!銀さんが作ったの!?」

「あ、あぁ、まあな。」

「すごいね!銀さんなんでもできるんだね!」

「...(あぁ、ちくしょー。この顔、心臓に悪いわァ。)」



 
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