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桜の花びらが咲き始める少し前の時期、わたしはその景色を下から眺めていた。


「......ふぅ。」


溜め息が零れる。それはいいものなのか悪いものかわからない。ただただ体の中の何かが溜め息となって出た。それはよくわからないがまだ咲き誇らない桜色をしていたように見えた。


「凛華。」


後ろから投げ掛けられる言葉に振り向く。


「......坂田。」


「よっ。」


そこにいたのは同じクラスだった坂田。彼とは3年生の時同じクラスになった。わたしはあまり目立つタイプではなく友達といえる友達もいなかった。そんな時期、たまたま坂田と話す機会がありそれから気が合って仲良くなった初めてのお友達。


そんなお友達の坂田は卒業証書を片手に軽く手を上げたらわたしの方へと歩いてきた。


「あれ?ボタン全然ないね。」


「あぁ、コレか。嵐のように盗られた。」


ったく女って怖ェよな、そう呟く坂田に笑いが出る。


「んだよ、なんかあんのか。」


「い、いや別に...。ふふっ。」


「んだよコノヤロー。」


「ちょ、ちょっとやめてよォ。髪がぐちゃぐちゃになるー。」


そんなのお構いなしにぐしゃぐしゃと掻き回すように髪を撫でる坂田。そしてふと思う。こんな悪ふざけも今日で最後。


そう、私たちは今日卒業をする。


あの楽しかった日々や悲しく泣いて辛かった日々、いつ吐き出そうかと悩んでいたあの日も全部全部今日で終わり。青春時代は返ってこない。


「......坂田はみんなのところ行かなくていいの?」


「あ?お前がここにいるだろ。」


「?」


意味がよくわからないがとりあえず坂田はここにいたいらしい。もう追求しないことにした。そしてまた蕾の桜の木を眺める。


「なんでこれ見てんだよ。」


「ん?なんとなーく、桜咲かないかなとか。」


「咲かねーだろ。まだ3月入ったばっかだぜ。」


「......そーだね。」


「......。」


「......。」


黙ってしまったのがスイッチなのか急に瞳からポロポロと涙が零れ落ちてきた。


「さ、さか、た。」


「......ん?」


「あ、りがとう、この1年間、仲良く、してくれて。」


「おう。」


「坂田、がいて、くれて、よかった、ぁ。」


「......俺も凛華がいてよかった。凛華と過ごせてよかった。」


「う、ぅん。あ、ありがと、ぉ。」


わたしは手を差し出した。最後友達らしく握手で終わろうと思ったから。


そしたら坂田はそれを裏切るように手を引っ張って自分のところへ引き寄せた。わたしはそのまま坂田の胸の中へと飛び込んだ。


「さ、坂田?」


「......俺さ、凛華と過ごせて本当楽しかった。凛華は笑った顔とか怒った顔とか泣いた顔、俺にしか見せてくれなかった。信用されてる感じが本当に嬉しかった。」


「う、ぅん、坂田は、本当にわたしの大事なと「だけど」」


最後まで台詞を言わさない坂田は初めてだった。驚いて顔を上げる。意外に顔が近かった。


そこで知った。坂田は男の人だ。シュッとした鼻筋にゴツゴツの骨格、そして力強い男の人の力。


そうだ、坂田は男の人だ。


「......俺はお前を友達と思ったことはねェ。」


「え。」


その言葉にショックを受ける。友達と思っていたのはわたしだけだった?


顔が青白いわたしに坂田は優しく言葉を続ける。


「俺は今までずっと、凛華のこと、女としてしか見れなかった。」


「お、おん、な?」


友達と何が違うのだろうか?そう考えていた時に耳に響く坂田の心臓音。それはドクドクとスピードを早めていた。


「......悪ィ、俺、ずっとさ、」


その時相馬が駆けるが如く甦る今までの日々。今まで坂田はわたしを女として見ていた?


「凛華のこと、好きだった。」


サアッと風が吹き抜ける。坂田は強い風が吹いても目を閉じず真剣な顔でわたしを見ていた。


「わたしのこと......?」


「あぁ、ずっとずっと好きだった。」


「......わたしだよ?」


「お前だからだよ。」


「う、そ。」


「本当。」


「............わ、ぁ。」


そしてまたポロポロと流れる涙。その涙を押し付けるように坂田に引っ付いた。


「そんなに引っ付いたら承認したと見なすぞー。」


「......さ、坂田となら、やってけそう。」


「え?」


今までは本当に仲のいい大好きな友達だった。それは昔も今もそしてこれからも変わりはない。しかし違う視点で坂田を見てみるのも面白いかもしれない、そう思った。


「わたし、まだ、坂田のこと、友達、いや親友だと思ってるけど、なんかよくわからないけど、坂田となら、やってけそう、って思ったの。」


「......友達、親友かァ。」


そしてギュッと強くなる抱き締める力。わたしも負けじとギュッと背中に精一杯手を回した。


「じゃあ今からは友達親友として俺を見るんじゃなくて、男として、俺を見て。」


そう微笑んだ坂田に友達とは違う坂田の雰囲気を感じた。







その歩みを、僕は止めないよ







卒業は別れではない。

卒業とは新たなスタートを踏むための第一歩。

わたしたちはその第一歩を今ふたりで踏みしめた。




お題:ache


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