( 1/1 ) 今日も一日疲れた。風呂に入りさあ寝ようと縁側を歩いていた時だった。 「お返し致します。」 そう言って俺に大量の書類(大半始末書)を差し出す一番隊副隊長姫路野凛華。 彼女はここ真撰組の中での赤一点でありかなりの実力者でもある。そこらにいる平隊士じゃァ準備運動の相手にもならない程剣が達者である。 だからだろう、最も戦場で使われるここ一番隊に所属された。俺も新しいおもちゃができたから反対などしなかった。 彼女はポーカー・フェース、顔の表情を崩したことがない。ずっとどこか遠くを見つめてる、そんな瞳をしていた。 そんなところに惹かれたのか面白かったのか俺はずっと彼女のポーカー・フェースを崩そうと数々の嫌がらせをした。勿論これも嫌がらせの一種。 「なんの嫌がらせですかコレ。沖田隊長の始末書でしょう?」 「その隊長の補佐をするのが副隊長の役目じゃねェのかィ。」 「これは補佐ではありません、押し付けです。」 ばさっと俺に押し付ける大量の始末書。凛華の方を見ると相変わらずのポーカー・フェースで。仕方ねェ、後で土方コノヤローの机の上に置いとくか。 「では失礼致します。」 くるっと踵を返し俺とは反対方向の縁側を歩く凛華。俺はその小さな背中を消えるまで眺めようとした。 「待ちなせェ。」 「!」 このまま返すのは何かが惜しい気がする。思わず腕を掴み呼び止める。 「......なんですか。」 「凛華。」 ぐっと縮まる凛華との距離。 ちゅっ 頬にキスを落とした。 「え、」 「おやすみなせェ。」 顔が真っ赤なのが気づかれないよう踵を返す。どうして自分がこんなことをしたかわからない。ただこれが奴のポーカー・フェースを崩す最終手段だと思った。 あ、でも凛華の表情見るの忘れた。まあまた明日覗けばいっか。 俺の心は何故かスッキリしていた。 ーーーーーーーーー...... 「......ぷはぁ。」 角を曲がり今まで止めていた呼吸を繰り返す。体の中に大量の酸素を取り入れては二酸化炭素にして吐き出す、これの繰り返し。 「き、緊張したァァ。」 わたし姫路野凛華は真撰組唯一の女隊士である。勿論それを自覚して入った。 しかし「女隊士」のため敵の男共に随分と嘗められることが多い。だからいつも表情を崩さないようポーカー・フェースを気取っている。 しかしここは真撰組屯所、少しでも表情を崩してもいいはずなんだがあるひとりの人限定でずっとポーカー・フェースなのだ。 それがさっきのわたしの上司、沖田総悟隊長。年齢はわたしと然程変わらない。 彼とは戦場でも背中を預けれるくらいの信頼感がある。信頼感があるにも関わらずポーカー・フェースは崩せない。 理由は多々ある。隊長に急に笑顔を見せたらドン引きするのではないか、実は甘えたがりなわたしが猫みたいに引っ付いたら気持ち悪いとか様々。まあ要するに嫌われたくないから。 「......はぁ。」 とにかくわたしは今日もポーカー・フェースを気取る、嫌われないために。 しかし先程呼び止められたと思ったらやられたキス、というやつ。今思い出しただけでも顔が真っ赤だ。 「これじゃぁ、もう、誤魔化せないよォ。」 どうしよう、明日からはポーカー・フェースのわたしがいなくなるかもしれない。鏡の前で練習をしなくては。 わたしは月の光が照らす縁側をドダドダと走って部屋へ戻っていった。 嗜虐的な悪戯 「(あーどうしよう!にやけ顔が直んない!!)」 「明日が楽しみでさァ。」 |