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廊下を歩く度にすれちがう奴がいる。奴はこの学校では若い方。大学を出てすぐに教員免許をとったらしい。要はエリート様。


しかもルックスがいいときたから、これは学校の女子共が黙ってはいない。すぐさま学校の(大半女子)人気者。


しかし奴はあまりいい気分はしていないらしい。休憩時間の度に来る女子共を眉間に皺を寄せながら追い払う。


「沖田せんせーいっ!」


「先生!今日お昼一緒にどうですか?」


「あ、抜け駆けずるいわ!」


「先生ーっ!お弁当頑張って作ってきたのぉ。」


「......あー、いい。」


奴の腕にまとわりつく女子を振り払いながら廊下を歩いていく。


わたしは今日もその現場を目撃する。


「相変わらず騒がしいアル。」


隣にいるはわたしの友達、神楽はどうも奴とはソリが合わないらしい。見つける度に嫌な顔をする。それもここ最近もう見慣れた。


「......凛華?」


「...あ、うん、本当騒がしいね。」


視線を神楽に戻しにこりと微笑む。


「腹の中真っ黒のあいつのどこがいいヨ。」


廊下側のわたしの席に集まりお弁当を広げる。神楽のお弁当は相変わらずでかく豪快な弁当だった。それを口の中へとドンドン放り込んでいく。


「わたし、あいつ嫌いネ。」


「うん、見てたらわかるよ。」


「わたし正直者だからすぐ顔に出るヨ。」


「神楽の場合露骨すぎるから。」


えーっ、と何か言いたげな顔をしたがもごもごとわたしに聞こえないくらい呟いただけだった。そんな神楽が可愛くてつい頬が緩む。


「お、卵焼きかィ。」


頭上の方で声がした。上を向くとさらさらとした密色の髪の人がいた。噂の「奴」だ。


「沖田、先生。」


「げっ!サド!」


沖田先生は神楽をひと睨みしわたしのお弁当に手を伸ばした。


「あ、」


「いただき。」


沖田先生はわたしの大好物「卵焼き」を手に取り、そのまま口に放り込む。その光景にクラスにいた女子が歓喜の声で叫ぶ。


「甘っ。」


卵焼きを掴んだ指を舐めながら、そう呟く。


「わたしの、卵焼き...。」


「サドォォォ!!凛華の弁当に手を出すとはいい度胸ネ!!」


「うっせーチャイナ。」


あーあー、また始まった。毎度の喧嘩をぼぅっと見つめる。相変わらず騒がしいふたりだ。


「あ、姫路野。後で化学準備室来なせェ。」


「......はい。」


そう言って奴は廊下を怠そうに歩いて消えていった。


実はこの人、意外にも化学の先生。この先生になってからわたし達生徒は時々危ない実験をさせられる時もある。


「凛華最近呼び出し多いネ。どうしたアルカ?」


「ほら、わたし化学の点数ひどかったからそれの追試とか?」


「......あー。」


なにを隠そう(隠してないけど)わたしは「理科」そのものが異常なほどできない。あの神楽がわたしを白い目で見るくらいだ。他の教科は素晴らしくいいのに。


「......はぁ。」


「元気出すヨロシ。人間死ぬ気出せば大丈夫ヨ。」


「あー、うん。」


わたしは別の意味で、またため息をついた。


 
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