( 1/2 ) 「はあっ、はあ......っ!」 体が酸素を求めて呼吸を繰り返す。わたしは肩で息をしながらマイクスタンドから手を離した。 ワアァァッ 歓声が止まない。地響きがする。そんな中の中央に私たちTINKER'Sは立っていて息をしていた。 これが、小さい頃から憧れていたステージの中央。 「わだしもあの中央さ立つ!」 小さい頃はそんなこと軽々しく言えた。簡単だと思っていた夢を叶えること。大人になるにつれてそれはただの「夢」であって現実にできないことを思い知らされた。 だけど歌手の夢から逃れることができなかったわたしはストリートシンガーとして毎日の鬱憤を処理していた。そんな時に出会った。 後ろを振り替えると汗だくでキラキラと輝く笑顔を振り撒くわたしの大好きな人達。わたしはその人達のところまで行き手を繋いだ。 「ありがとうございましたァァ!!!」 ワアアァァァッ 歓声が更に高まった。それを合図に私たちは頭を深々と下げた。嬉しすぎて楽しすぎてしばらく顔を上げることができなかった。 ワイワイ ガヤガヤ Mステの2時間生放送も無事終わりを迎えて出演者は楽屋へスタッフは片付けとお客さんの帰り道誘導へと行った。 わたしも出演者の方と一緒に楽屋へ戻ろうと足を進めた時だった。 「リノーーーっ!!!」 「え?」 そこにはスタッフによって帰り道を誘導されているお客さんのひとりであった。空耳でなければ確かにわたしの名前を呼んだ。振り替えるとキャー!と女の子が叫ぶ声が聞こえた。 「歌よかったよ!惚れちゃった!」 「かっこよかった!応援してるね!」 「感動をありがとう!」 様々なお客さんが声を掛けてきてくれた。お礼を言おうと近づこうとしたがいつの間にか後ろにいた銀時に肩を掴まれ止められた。 「ぎ、銀時。」 「ダメだぞ行ったら。」 ギャァア!今度は歓喜というより悲鳴に近い声が聞こえた。スタッフはその人達を懸命に歩かせようと誘導する。 「どうして?」 「お前考えてみろよ。俺らはそこら辺で適当にバンド組んでファン抱えてるやつらじゃねェ。もう芸能人だ。」 「げ、芸能人!」 「そんなやつがあそこに行ってみろ。今ならもれなくおしくらまんじゅう状態だぞ。」 忘れていた、わたしは今日から本格的にTINKER'Sの一員としてデビューした。ということは芸能界に足を踏み入れたということだ。芸能界に入ったということはつまりみんなに見られる聞かれる仕事となる。そこら辺の仕事とはひと味違う。 「やるんなら手ェ振るぐらいにしとけ。」 「......うん!」 わたしはひらひらとその人達に手を振りその場から去った。そのあと後ろが大変なことになっていたとは知らなかった。 「ありがとう銀時。」 「......次から気を付けろよ。怪我でもしたら大変だからな。」 「うんっ!」 今日初めてあんな多い人前で歌を披露してそのうえこれからも応援してると声を掛けられ今の気分は上々。 「あー、疲れたァ。早く風呂入りてェ。」 「本当ー。でも楽しかった!」 「よかったな。あ、帰ったら絶対手洗いうがい忘れんなよ。」 「え?」 「歌手は喉が命だ。万が一でも喉潰したら大変なことになるぞ。」 「や、やばいね!......明日マスクとのど飴買おうかな。」 「おうおうそうしろ。」 「でもここら辺よくわかんないから付き合ってよ。」 「仕方ねーな。」 いつの間にかTINKER'Sの楽屋に着いていた。銀時がドアノブに手を掛け、捻る。 ガチャ |