「あら、先生」

透き通った声が背後で鳴る

「こんなところに居らしたのね」

声の持ち主は可憐な笑顔を浮かべて、後ろ手で扉を閉めた

『先生』と呼ばれた緑髪の男は、窓の外から少女に視線を移す

そして、教師らしからぬ悪人のような笑顔を見せた

「嘘つけ。 ここに居ると確信して来ただろ」

少女は何も言わず、ただ水色のポニーテールを揺らしながら、より一層目を細めた


「ねぇ先生」

少女は壁にもたれ掛かって、地面に座り込む

そして子供のように、その白い指を様々な角度に組み合わせ、手遊びをしていた

教師は、少女の登場前と同じように、窓の外を見つめる

「私、あと1ヶ月で卒業よ」

その言葉と同じタイミングに、校庭の桜の葉が風に揺られた

まるで自分の存在を見せ付けるかのように 今の季節を知らせるかのように

「あぁ、そうだな」

教師は少しだけ口元を緩めて返事をする

「卒業したら、もう隠さなくてよくなるかな?」

『何を』とはあえて口に出さなかった

だが、教師には十分伝わっている

「あぁ・・・」

「本当? 先生に迷惑かかったりしない?」

「しない 逆に羨ましがられるだろうな」

少女の不安そうな視線を感じた教師は、窓枠に預けていた体を起こし、少女を見る

その不安そうな、それでいて大きな輝きを持った瞳は、目の前の教師だけを映していた

「それじゃ、あと1ヶ月の辛抱ね」

「不満か?」

「いいえ この1年耐えてきたんですもの 我慢するわ」

『それに時々、ここで会えるし』と、少女は物置きと化した資料室をぐるりと見渡す


「1ヶ月後・・・」

少女が申し訳程度の小さな声で、ぽつりと呟く

少女が頼みごとをしたいときの癖だ 

それに気付いた教師は、今度は体ごと少女に向ける

「海に連れて行ってほしいな まだ春だけど」

少し頬を染めて、笑顔を見せる

「貴方と一番最初に出掛けるなら、海がいいの」

そのとき教師の脳裏には、綺麗な海で同じく綺麗な水色髪をなびかせ、満面の笑みを見せる少女の姿が浮かんだ

「あぁ 連れて行ってやる」

「本当? 約束よ」

少女は小首を傾げて、また嬉しそうに笑う

それを合図にするかのように、2人の影が静かに重なった




素敵な昼休み

(あなたと一緒なら)
(こんな資料室だって)

(私にとっては素敵な舞台)

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