「はぁ〜・・・」

ナミは船に設置されたみかん畑で盛大な溜め息をついていた

彼女の溜め息には理由がある

原因は小さなことだが、その相手が悪かった


つい2日前、ナミと、同じ船に乗っているゾロが大喧嘩をした

始めは酒の取り合いだったはず

だが、次第に言い合いは酒の話だけでは留まらなくなり、しまいには・・・

「マリモのくせに!! ゾロなんて早く踏み潰されちゃえばいいのよ!!」

と叫んで、逃げ出す始末

後ろでゾロの呼び止める声が聞こえたが、それを強引に振り切ってナミは女部屋へ戻った

それだけなら、まだいい

数日すれば、いつの間にか元に戻っているものだ

だが、今回はこれまたタイミングが悪かった

ゾロと大喧嘩をした次の日、別の海賊船が襲ってきた

少々名のある海賊らしいが、この一味の敵ではない

ナミも戦闘に加わり、天候棒を振るっていたのだが・・・

自分の周りを取り囲んでいた敵を全員倒して、気を抜いたのがいけなかった

「ナミ!!」

聞きなれた声が、自分の名前を呼んでいる

声のするほうを振り返ろうとすると、勢いよく押し倒された

「きゃあ!!」

そしてパンッという銃発音

「いたたた・・・」

ナミは打ち付けた頭を抑えながら、目を開く

視界に真っ先に飛び込んできたのは、ゾロの背中

彼は、先ほど発砲したと思われる敵襲に斬撃を飛ばしていた

「ぼさっとすんな!!!」

ゾロは一瞬ナミを見て一喝すると、また敵襲の中心地へと走っていった

さっきの男の銃口は、明らかに自分に向いていた

押し倒されたから打たれることは無かったが、位置的に考えると・・・

「ゾロが・・・」

助けてくれた?

ナミは敵を一瞬でなぎ払っているゾロを見つめる

そして異変に気付いた

ゾロの右肩が血で赤くなっている

あいつが、こんな敵相手に傷を負うわけがない

まさか・・・っ!!

「私のせいだ」

私を押し倒して助けた代わりに、ゾロの肩に弾が当たってしまったんだ

いつもなら「何で倒すのよ!! 痛いじゃない!!」と言い返せるが・・・

何せ昨日大喧嘩したばかりで、妙に気まずい

そうして、ナミはゾロに何も言えずに次の日を迎えてしまったのだった

「はぁ〜」

思い返すほど溜め息が出る

知っている 謝らなくちゃいけないって、お礼を言わなくちゃいけないって・・・

だが、妙なプライドのせいで、ナミは行動に移せずにいた


「それで何回目だよ」


突然、背後からかけられた言葉にナミはビクリと跳ね上がる

振り返らずとも分かる、この低い声は・・・

「・・・ゾロ」

「朝から溜め息つき過ぎなんだよ お前」

そう言って、ナミの隣に腰を下ろすゾロ

「気配消してたの? 趣味悪いわね」

「バーカ 別に消してやしねーよ お前が気付かなかっただけだ」

その会話を最後に、2人の間には無言の空気が流れた

ナミは心の中で言い聞かせる

チャンスは今しかない 言ってしまえ 

だが、唇は小さく震えるばかりで一向に声が出てこない

そうして、どれくらい時間が経っただろうか

「お前なぁ・・・」

先に口を割ったのはゾロだった

ナミはゆっくりと視線をゾロの横顔に向ける

「普段妙に強気の癖に、なんでこんなちっせぇことで落ち込んでるんだよ」

気付いてる?

ナミが先日の出来事を気にしているということを?

あの天然バカのゾロが?

「・・・うるさい」

ナミは反論するが、出てきた声は小さく、威勢の欠片もなかった

「喧嘩すんのはいつものことだろ お前を助けるのだっていつものことじゃねぇか」

違う 私が気にしているのはそこじゃない

ナミは奥歯を強く噛み締めた

「違う・・・わよ」

「何が違うんだよ」

「私が気にしているのは・・・そこじゃない」

ナミの言葉にゾロの視線がこちらに向く

ナミは視線を合わせないように注意を払いながら、ポツポツと言葉を漏らした

「あんたが、私を庇って怪我したことよ」

その回答にどうもピンと来ていない様子のゾロだったが、「あぁ」と思い出したように右肩に手をやった

「これのことか?」

ナミは頷いて無言の返答をする

「別に怪我くらいいつもしてるじゃねぇか」

「そうじゃなくて・・・喧嘩したのに、あんたが私を庇って怪我したから・・・合わせる顔がないと思っただけよ」

ナミは膝を抱え込んで、顔を疼くめる

「へぇ〜・・・お前もそんなこと考えるのか」

「失礼ね」

感心したような声を上げるゾロに、ナミは怪訝な表情を見せる

「まいったな、こりゃ」

ゾロが頭を掻く

「何よ」

「いや、お前が気にしてくれてるとは思わなかった」

その言葉が気になり、ナミは恐る恐るゾロを見上げる

ゾロの口元はわずかながら綻んでいた

「・・・喜んでんの?」

「ん?あぁ・・・まぁな」

何で? ナミの不思議そうな表情を見て、ゾロは、片膝を立てて肘をつく

「何でってか?」

「えぇ」

ゾロは視線をナミと合わせずに言った


「そりゃ、好きな奴に気にされたら喜ぶだろ」


は?

ナミが聞き返そうとした瞬間、頭に感じた違和感

いつの間にか伸びてきたゾロの手は、頭の後ろに添えられて、強引に引き寄せられる

聞き返そうとしたナミの言葉は、そのままゾロに飲み込まれた

ゾロはナミから顔を離すと、目を見開くナミの耳元に口を寄せる

「最近、お前が視界にチラついてっから、どうも困ってたんだよ」

その囁きにナミの体がビクリと跳ねる

いつの間にか体に回されていた腕は、どうやらナミを解放する気はさらさら無いらしい

「ゾロ」

ゾロの腕の中で、ナミはくぐもった声を出した

その声に、少し拘束を緩めたゾロは、ナミを覗き込む

すると・・・

チュッ

ナミはゾロの頬にキスをした

驚きで目を見開くゾロに、ナミは目線を逸らしながら言う

「喧嘩の『ごめん』と、怪我させて『ごめん』と、庇ってくれて『ありがとう』の意味で・・・」

どんどん声の小さくなっていくナミに、ゾロは腕の力をまた強くした

「3つあるじゃねぇか まだ返し1回だぞ?」

その言葉に、ナミは膨れっ面を浮かべる

「贅沢者 マリモのくせに」

「正当な答えだろうが ほら・・・」

そう言って顔を近づけるゾロ

そして一言

「次は外すんじゃねぇぞ?」

ナミは小さく溜め息をつきながらも、わずかに口元を緩めて、また顔を寄せた



言いたい言葉を、

(口で言わなくても、私たちには)
(伝えられる方法がある)



* * * * * * * * * *

ユラさんのキリリク
ゾロの低音ボイスで耳元で囁かれたら、ナミさんもビクってなっちゃうよね☆


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