例えば食事中

「おいビビ これやるよ」

「くれるんですか? ありがとうございます」

大好物の肉を、彼女に少し分けていたり

「何やってんだ? ビビ」

「カルーの毛繕いを手伝ってるんです」

「ふ〜ん じゃ、俺もやろ」

彼女の愛鳥の毛繕いを手伝ったり

「なぁビビ 次の島、冒険の匂いがするんだ!! 一緒に行こうぜ」

彼女を冒険に誘ってみたり

彼女が『ルフィさん』と呼び慕う船長は近頃、何かと水色髪の王女様がお気に入りらしい

船長本人と王女様は無自覚なのだろうが、他のクルーは嫌でも分かる

あ、こいつは彼女にホレたんだろうな

と・・・


例えば夜の甲板で

「おい、冷えるから早く中入れよ」

「あ、はい ありがとうございます」

彼女が入ってくるまで、一緒に外で待っていたり

「これか? ほら」

「ありがとうございます 届かなくて困ってて」

高い所にあるものを取ってあげたり

「あとアラバスタまでどれくらいなんだ?」

彼女の祖国のことを心配したり

彼女が『ミスター武士道』と呼び慕う剣士も、近頃彼女が気になっている様子

彼はもちろん自覚済み「自分は彼女が好きなんだ」と

そして、もちろん船長と王女は知る由もない

それは、ある夜のこと

少し肌寒い風がマストをはためかせていたとき

見張り台で大きなあくびをしながら、今日の見張り当番であるゾロは海を見つめていた

そうしてボーっとしていると、ギシギシと縄を伝う音が聞こえてきた

そして・・・

「ミスター武士道」

そう言ってひょっこり顔を見せたのは、無自覚な可愛い王女様

「ビビ どうしたんだ?」

驚きの声をあげるゾロを他所に、ビビは台の上に足をつける

「いえ、なんだか眠れなかったので」

そう言う笑顔は、少女らしく華やかで明るかった

「風邪ひくぞ?」

「大丈夫ですよ 少しだけですから」

ビビはそう言いながらゾロのすぐ傍に腰を下ろす

風邪をひかせたくないから帰ってほしいという思いと、一緒にいたくて帰ってほしくない思いとが混ざり合って、
ゾロの心の中はなんとも言えない色に染まっていた

するとそこへ

「ビビ〜 ゾロ〜」

陽気な声が聞こえたかと思うと、ものすごい勢いでルフィがやってきた

どうやら下から腕を伸ばして、跳んできたらしい

「ルフィさん!? どうして・・・」

「ん? いや、ビビが上がるのが見えたから、なんとなくだ」

平然と言って、ルフィはビビの隣りに座り込んだ

本当に無自覚にも程があるだろう

とゾロは毒づく 

せっかくビビと2人だったのに。と・・・

「あ!!」

ビビの声で、俯いていた顔を上げた

「どうした?」

「あの星座、見たことがあります」

そう言って天を指すビビ

だが、2人にはどれを指しているのかよく分からなかった

「全部、同じに見えるが?」

「ちゃんと違いはあるんですよ」

「ビビ星座が分かるのか すっげぇな!!」

3人が揃って空を見上げる

「昔、天体に興味があって勉強してたんです」

上を見上げるビビの表情をチラリと盗み見るゾロ

だが、その視界の隅には見慣れた麦わら帽子

まぁ、こんなのもいいか

ゾロは薄く笑うと、また星で埋め尽くされた空を見上げた

「ねぇ、ビビって誰が好きなの?」

そんな会話をゾロ聞いてしまったのは、3人で星を見た次の日の昼

水を飲み終わり、またトレーニングに戻るかと思い、キッチンの扉に手をかけた時

外から聞こえた声に、思わず動きを止めた

ガラス越しに覗くと、外にはナミとビビの姿

「え、なんですか急に」

驚いた顔でナミを振り返るビビ

ナミはというと、ニヤついた表情で顎に手を乗せていた


「何となくよ ねぇ、誰が好きなの?」

その会話をルフィは、蜜柑畑のところで聞いていた

いつものようにビビに話しかけに行こうとしたのだが、何だかその話が気になり、飛び出さずにいる

「そんなの決まってるじゃないですか」

ビビの声に、2人の男は顔を上げた

決まっている? 

思わず生唾を飲み込んだゾロと、身を乗り出すルフィ

ビビは少し顔を赤く染めながら言った


「そんなの・・・みんな大好きに決まってるじゃないですか」


えっ?

ルフィとゾロだけでなく、ナミもおそらく思ったことだろう

「いや、そうじゃなくて・・・」

「私はルフィさんも、ミスター武士道も、ウソップさんも、サンジさんも、トニー君も、もちろんナミさんも大好きですよ」

聞いてる内容が違うのだが・・・

「私、この船に乗れて本当によかったです」

何だか丸く治められた気がした

「いや、私が聞いてるのはそうじゃなくって・・・」

と、再び口にしたナミだったが、

不思議そうに首を傾げるビビに、それ以上を聞くのはいけない気がした

何だか自分が悪い奴のように思えてならない

「いや、やっぱりいいわ あんたにはまだ分からないみたいだから」

「?」

頭をかかえるナミに、ビビはまた首をかしげた



『みんな好きって・・・』

ゾロはキッチンの扉にもたれ掛かりながら座り込む

期待していた答えとも、恐れていた答えとも違った返答

でも、なぜだが心は明るかった

「ビビ俺のことも好きなのか」

ルフィは胡坐をかいてニシシと笑う

「俺もビビ大好きだからな 嬉しいなぁ」

ルフィは麦わら帽子を深く被りなおし、ビビのところへ跳んで行った



王女様は天然水色

(本当はあのヒトが気になってるってことは)
(もう少し後で、ナミさんに教えようっと)



* * * * * * * * * *

零さんのキリリク
さてさて、『あのヒト』とは…?

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