まいった
本当にまいった

ナミの頬を冷や汗が伝った


ここは新世界にあるとある島

ルフィ率いる麦わらの一味は、昨日の夜にこの島に到着した

海軍基地があるわけでもなく、海兵の姿も見えないので久々にのびのびとショッピングができると思っていた

まぁ、賞金首なのだからまったく人目を気にせず、という訳にはいかないが・・・

たまたまロビンとサンジが船番くじを引いたので、1人で町へ出たナミ

荷物持ちはいないが、たまには1人で買い物もいいだろう

なんて、ウキウキした気分で町へ出てきたのはいいが・・・


「おい、ね〜ちゃん1人で何やってんだぁ〜?」

面倒くさい輩に絡まれてしまった

結構な人数の男たち 

身なりを見る限り、この島の住人ではない

おそらく自分らと同じ海賊だろう

『港にはあたしたちの船以外、海賊船はとまってなかったのに・・・!!』

そもそも路地裏の店も見てみようと思ったのが間違いだった

思ったよりも良い品がなかった上に、店から出た途端こんな男たちに絡まれるなんて・・・

普段のナミなら慌てることはないのだが、今日は違う

理由は・・・

『天候棒、船に置いてきちゃったしなぁ〜』

そう

ナミの武器である天候棒は微調整の為、ウソップに預けているのだ

よって、今の彼女には戦う術がない

どう考えたって、素手で勝てるような男たちではないのだから

背中に伝わる、コンクリートの壁のひんやりとした冷たさ

周りの男たちから投げかけられる嫌な視線

とりあえず、ナミは腕を組んで壁にもたれ掛かった

「何? あんたたち」

「俺たちゃ海賊だよ、それも有名な 見覚えあるだろ?」

あるわけないでしょ

これを言葉にして逆上されると厄介なので、心の中で留めて置いた

「姉ちゃん、いい女だね〜 顔もかわいいし・・・スタイルもいいし・・・」

全身を嘗め回すように見る男たちに、ナミは顔を引きつらせる

どうしてだろう?

昔はこんなことよくあった こういう状況には慣れてるはずなのに・・・

『天候棒がない、だけが理由じゃないか・・・』

そして結びつく1つの答え

『みんな居たからなぁ〜・・・』

いつも町へ出るときには誰かと一緒だった

荷物持ちのサンジくん、またはロビン

あと、時々ゾロも付いてきてくれた

あいつは面倒くさいだの、眠いだの、言いながらも付いてきてくれる

何で今日に限って声かけなかったんだろう・・・

ハッとすると、自分の目の前まで1人の男の腕が伸びてきていた

慌てて、その手を払いのける

「あたしに手出したら、高くつくわよ」

「ほぉ、威勢がいいねぇ〜 まぁ俺らは海賊だから、金払わなくても問題はねぇ」

嫌らしい笑顔を浮かべる男たちに、ナミは唾を飲み込む

「後で、痛い目見るわよ・・・」

「ほう? 痛い目? ギャハハハハハ」

一斉に笑い出す男たちに、ナミの頬を何筋もの冷や汗が伝った

「姉ちゃん1人に何が出来るんだよ? 傷付けられたくなかったら大人しくしてろって・・・」

そう言って伸びてきた腕を、また払いのける・・・

が、横から伸びてきた別の手に腕を押さえつけられた

「ちょっ!! 離して・・・っ!!」

「大丈夫、すぐに終わるから」

反対側からも手が伸びてきて、ナミの腹を撫でる

「こんな格好してたら、襲ってくださいって言ってるようなもんだろ?」

『これがあたしのファッションよ!!』

と叫ぼうとしたが、舌が思うように回らなかった

やだ・・・やだやだ!!!

何度もこういう状況に陥ったことはあるが、今までのどんなときより怖かった

昔は隠し持っていた武器で男たちをぶん殴った

今は武器がないからそれができない

『助け・・・助けて・・・!!』

口を次いで溢れてきた言葉

それは、とても小さな叫びだった


「助けて・・・・・・ ―――ゾロ」


小さな呟きは男たちの耳に入ったかどうかは分からない

だが、そのすぐ後に男たちの体を触る腕が止まった

理由は、背後から投げかけられた男の声


「おい、お前ら」


ナミはギュっと瞑っていた目を勢いよく開く

男たちの体で見えないけれど、声だけで分かった

「あぁ?」

男たちが一斉に後ろを振り返る

ゆっくりと顔を上げたナミの目に映る、ゴツい体のすき間から見た人影


「お前ら、そいつに何してんだよ」


短い緑色の髪の毛の男

腰には3本の刀

ナミの目じりの奥がツンとした

大きく息を吸い込んで叫ぶ


「っ!! ゾロ!!!!」


助けを求めた男の名前を―――


「ゾロって・・・まさか!!」

「『海賊狩り』!!!!!?」

ナミの周りの男たちが慌てだす

「うちの航海士に何してんだ、てめぇら」

ゾロの怒りの篭った低い声に、ナミの恐怖心が薄れていく

「『うちの』・・・?」

「ってことは・・・」

男たちの視線がナミに戻る

「この姉ちゃん『泥棒猫』か!?」

ナミは歯を食いしばって言葉を吐く

「・・・だから、言ったでしょ? ・・・痛い目見るって・・・」

そう言ってナミは無理やり強気に笑ってみせた

「う、うわぁぁぁぁぁ!!」

「まずい!! 逃げろ!!!」

ナミを押さえつけていた腕たちは一斉に離れて、走り出す

だが・・・

「逃がさねぇ」

ゾロの声が響いたかと思うと、男たちは一斉に倒れこんでいた

続いて響く、刀を鞘に戻す金属音

ナミは地面に座り込んだ

はぁ・・・と大きな溜め息を1つ

すると、足音がナミに近付いてきた

「おい、何もされてねぇよな?」

そう言って、同じようにしゃがみ込むゾロ

「まぁ・・・ね? 体触られたりはしたけど・・・」

俯いたままの状態で返答するナミ

「何でぶっ飛ばさねぇんだよ お前なら楽勝だろ?」

「・・・天候棒、船に置いてきちゃったのよ」

「はぁ? バカだろ」

「うるさい」

ゾロは俯いたままのナミを見つめる

長い髪が顔の横に垂れているので、俯いた表情は見えない

「・・・何で、もっと早く助けにきてくれないのよ」

「助けにきただけマシだと思え」

「もっと野生の勘とかを働かせなさいよ」

「俺は動物じゃねぇぞ」

「あんたの脳なんて、動物と同じじゃない」

ゾロは溜め息をついた


「食べることと寝ることしか頭にない脳なんて、動・・・」

喋っている途中で、頭に感じた重み

ナミは少しだけ顔を上げる

ゾロの腕がナミの頭に伸びていた

続いて、頭を撫でられている感覚

その手の平は、優しさでいっぱいだった

「・・・何よ」

「いや? せっかく助けにきてやったのに、お礼も言えねぇのかと・・・」

「はぁ? 助けにくるのは当たり前でしょ?」


ゾロは知っている

ナミの声が涙声になっていることを

そして、ナミは絶対に弱音を吐かない奴だと


ナミは知っている

自分の声が明らかに涙声になっていることを

そして、ゾロはこういう時、無言で慰めてくれる優しい奴だと


だから2人ともあえて、そのことには触れなかった

さっきまで冷たいと感じていたコンクリートの壁が

なんだか暖かいと思ったのは

きっと、この男のおかげなんだろう 



ナミの頬を安心から出た涙が伝った



精一杯の強がり


(帰りに『背負って』ってねだったら)
(こいつはどんな反応をするだろう)



* * * * * * * * * *

小春さんのリクエスト
ナミってこんな弱気じゃないよね?w

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