街中をオレンジ髪が行く

その後ろを、まるで召使いのごとく、だが召使いにしては人相の悪い緑髪が歩いていた

事の始まりは数時間前〜・・・


「は〜い 島についたから自由行動でいいわよ〜」

『やっほーーーい!!』

「ちゃんと夜までに戻ってくるのよ〜」

「おう!! 分かった!!」

「あ、ゾロ〜 あんた私のお供ね」

「はぁ? 何で俺が?」

「ナミさん!! そんなマリモなんか連れずとも、このサンジがお供いたします!!」

「あ〜いいのいいの たまにはこいつも働かせないとね」

「何で俺がお前にコキ使われなきゃいけねーんだよ」

「だって、あんた私に貸しがあるでしょ? もちろん忘れたとは言わせないわよ? 20万ベリー」

「っ!?」

「利子を付けられる前に、言うこと聞いておいたほうがいいわよ〜」

「っ!! てめぇは地獄に落ちてろ」


・・・〜という訳なのである

有無を言わさず連れてこられたゾロは先刻から不機嫌丸出し

だが、女王ナミはそんな小さなこと、まったく気にしていない様子

「つーか、お前・・・いくつ買うんだよ」

前を歩くナミに愚痴を溢すゾロの手には、大量の紙袋がぶら下がっている

上機嫌なナミは、くるりと身軽に後ろを振り返り満面の笑みを浮かべた

「だって可愛いのがいっぱいあるんだから、買わなきゃ損じゃない」

「だからって買いすぎだ、バカ」

最後の単語を強調して言ったゾロだったが、ナミは特に何も触れず、またくるりと身を前方へ翻した

どうやら聞く気すらないらしい

わがままな姫に、顔の怖い召使いは頭を抱えた

左右を人が行きかう中、ゾロとナミはそれらを掻き分けるようにして進む

ザワザワと賑わう町の中だが、ゾロの耳にはナミのヒールの音だけが大きくこだましているように感じられた

それが、迷子のゾロが頼りにする道しるべ

なのだが・・・

コツ コツ コ・・・

突然、足音が消えた

目を伏せていたゾロが慌てて顔を上げると、前方に第2の目印であるオレンジ髪が見当たらない

思わずこめかみから冷や汗が流れ落ちた

「きゃぁっ!!」

最悪の事態を思い浮かべるゾロの耳に届く小さな悲鳴

分かる 確かにナミの声だ

ゾロは大きな荷物を持っているにも関らず、俊敏な動きで前方へ駆け出す

悲鳴の原因はすぐに分かった



「いたたた・・・」

小さなうめき声が聞こえる

足元に見えるのは、綺麗なオレンジ

「お前、何やってんだ?」

ゾロは思わず尋ねてしまった

「う、うるさいわね!! ちょっと前が見えてなかっただけじゃない!!」

階段の下に、尻餅をついてこちらを見上げるナミの姿があった

どうやら、上の段から足を滑らせて落ちたらしい

「ガキみてぇにはしゃぐお前が悪ぃんだろ」

ゾロは溜め息をつきながら、段を下りる

そして膨れっ面を浮かべるナミの前にしゃがみこんだ

「・・・血は出てねぇな?」

ザッとナミの体に視線を向けてから、顔を上げるゾロ

「とりあえず、人が多いから端へ移動するぞ」

ゾロは座り込んだままのナミの腕を強引に引き上げ、立ち上がらせる

そして、半ば引きずるようにして路地裏のほうへと移動した

路地裏に入った途端、人の声や騒音が止み、静けさが訪れる

何も考えず腕を引くゾロの耳に、ナミの声が入る

「ゾロっ 待って、足・・・!!」

ここに入ってようやく聞こえたその小さな声に、ゾロは足を止め、振り返る

ナミはというと、額に汗を滲ませながら大きく呼吸をしていた

「あぁ、悪ぃ 足、どうかしたのか?」

ゾロが腕を放した途端、壁に背をつけ、座り込むナミ

「右足、痛い」

そう言うナミの右足を見てみると、少しだが赤く腫れているようだ

「落ちたとき捻ったのか?」

「ん そうでしょうね」

「まったく世話の焼ける・・・」とゾロが髪の毛を掻き揚げたとき、空気の揺れる気配がした

見ると、ナミが笑顔を浮かべている

魔性の笑顔 ゾロは嫌な予感を、感じざるを得なかった

「な、何だよ」

ゾロは引き身になりながらも、一応問いかける

ナミは笑顔を崩さないまま、言った


「動けないから、船までおんぶして♪」


「俺は運び屋じゃねぇんだぞ」

「今はそれでいいじゃない」

「それに、それくらいの腫れなら、別に歩けるだろ」

「私はか弱い女の子なのよ?」

「だいたいお前、俺にどれだけ持たせる気だよ」

「いいじゃない トレーニングになるでしょ?」

「人事だと思いやがって・・・」

「じゃあ何? 私を置いて行くの?」

強調された最後の言葉に、ゾロは「うっ」と押し黙る

「寧ろ感謝しなさいよ このナミさんが、あんたに体を預けてやろうって言うんだから」

「何様のつもりだ、てめぇ」

ゾロがまた大きく溜め息をついたとき、急に聞こえた真剣な声音

「ゾロ」

たった一言、名前を呼ばれただけ

だが、その2文字に明らかにさっきまでと違う雰囲気を感じられた

ゾロが顔を上げる

視界に入ってきたのは、こちらを見上げるナミ

そして両手をこちらへ伸ばして、浮かべられる綺麗な微笑み


「乗せてよ 運び屋さん」


少しの沈黙の後、またゾロが溜め息を吐く

だが、それはゾロが折れたという証拠

「この魔女が」とゾロは内心で毒づく

『そんな顔で言われたら、乗せねーわけにはいかねぇだろ』

黙って向けられた背中に、ナミは手を伸ばす

腕を首に回すと、ゾロは勢いよく立ち上がった

まったく振動が伝わってこない

きっとそれなりに気を遣ってくれているのだろうと、ナミは解釈した

頬に触れる身近な緑髪がくすぐったくて、小さく声をあげて笑うと「何笑ってんだよ」とゾロが呆れたように言う

「なんでもないわ」と言いながらも、なんだか暖かい気持ちになることに、自然と笑みが浮かんでくるナミ

「それじゃあ、お願いね 運び屋さん♪」

「・・・どこまで行くんだ?」

「南の港に止めているサニー号まで」

「10万ベリーだ」

「ん そうね 5万ベリーで勘弁してあげる」

「やっぱり値切るのかよ」

口元に笑みを浮かべながら、重なる2つの影は港に向かって歩き始めた



背中の運び屋


(背中を見せてくれる事が、実は少し嬉しいなんて)
(緑のバカには言ってやらない)



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アラバスタ編のおんぶシーンをイメージして

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