静まり返っているサニー号

まだ日の高い昼間だというのに、サイクロンでもやって来るのではないかと思うような異常現象である

甲板には人影1人も見えない

しかし船内では数人の声がするのだから、きっと人は居るのだろう

船内を覗くと、一番騒がしいのは男部屋だった

「何で外出ちゃ駄目なんだよー!!」

「当たり前だろ!! ナミが風邪引いて寝込んでるのに、うるさくちゃ駄目だ!!」

「ウソップやサンジだって熱出てるじゃねーか!!」

「ルフィは風邪うつらないから大丈夫だろ!!」

「こいつら2人の風邪の原因はお前ぇだろうが、ルフィ」

「ヨホホホホ お元気ですね〜ルフィさん」

「お前ぇも原因だろーが、ブルック!!」

部屋の中ではルフィとチョッパーが言い合い、そこに口を挿んだブルックもフランキーに怒られていた

その様子を、腕を組んで眺めるロビン

「どうして2人とも、冬島に限って海に落ちたりするのかしら?」

遡ること数日前

サニー号は冬島に停泊していたのだが、

その島でテンションの高まりきったルフィが、サメの頭の上で「サーフィンだ」などとふざけていたところ、
サメがルフィもろとも、海中へ潜ってしまうという事態に

もちろん、悪魔の実の能力者であるルフィが泳げるわけもなく、
それを見ていた同じく悪魔の実の能力者のブルックが、助けようと海に飛び込んで溺れるのはお約束

結局、怒鳴りながらウソップとサンジが海へ飛び込み、2人を引きずり上げた

という訳なのだが・・・

「何で、海に落ちた張本人たちはピンピンしてるんだよ!!」

チョッパーは訳が分からないというふうに叫んだ

「いや〜私は寒がる肌、ございませんから ヨホホホホ」

「俺ぁ、生まれてから風邪なんかひいたことねぇぞ?」

フランキーとチョッパーは頭を抱える

その様子を見て、ロビンがやれやれと言った様子で笑った

「くっぞ〜 寒ぃ〜〜」

ウソップが長い鼻をズズッと鳴らせながら、声を上げる

対するサンジは

「ナミすわぁぁん!! 熱を出しているナミさんに、あったかい物をお届けしなければっ!!」

と布団から起き出して、今にも外へ飛び出して行かんばかりの勢いだ

「俺も、外で遊びてぇんだ!!」

そう言って、扉に向かってルフィの手が伸びる

「しまった!!」とチョッパーの顔が引きつる 

フランキーが叫んだ

「おいっ!! ロビン!!」

「えぇ」

ロビンの落ち着いた返事が聞こえたかと思うと、次に聞こえたのは男2人の「ぐえっ!!」という潰れた声

見ると、外へ出て行こうとした男2人の体に、ロビンの手が縄のごとく巻きついていた

「大人しくしてちょうだいね」

ロビンが胸の前で両手を交差させたまま、ニコリと微笑んだ

「ロビン!! 2人のことお願い 俺、薬作ってくるから」

「えぇ 分かったわ」

チョッパーはそう言うと、扉を開けて医務室へ

「うぉぉぉナミすわぁん!! でも、ロビンちゃんになら1日中拘束されててもいいーー!!」

男部屋ではサンジの叫び声が響き渡っていた

対する女部屋では

「・・・みんな大げさよね〜」

というナミの声と

「前例があるからな チョッパーも心配してんだろ?」

というゾロの声が、静かな空間を揺らしていた

ゾロはチョッパーに頼まれて、ナミの看病係を引き受けていた

理由を聞くと、消去法らしい
@ ルフィ  ・・・うるさい →×
A ウソップ ・・・発熱 →×
B サンジ  ・・・発熱 うるさい →×
C チョッパー・・・男側も見なくてはいけない →×
D ロビン  ・・・暴れる男2人を止めなくてはいけない →×
E フランキー・・・看病できそうにない →×
F ブルック ・・・セクハラ行為に走る可能性あり →×

という訳で、ゾロしか残っていないのだそうだ

ゾロなら風邪をうつされる心配もない、というのも理由の1つらしい

そのことをナミに話すと「あんたバカだからね」と笑われた

「第一・・・」とナミが天井を見つめながら口を動かす

「熱もそんなに高くないから、起きてても平気なのに・・・」

心配されることをあまり好まないナミは、膨れっ面を浮かべながら呟く

「念の為だろ? チョッパーが言うんだから、大人しく寝てろ」

ゾロは壁にもたれ掛かりながら、適当感溢れる声で答えた

こんな調子で、数時間前から退屈凌ぎに、ナミはゾロに話しかけている

が、返される答えはどれもこれも適当なので、つまらないとナミは唇をとんがらせていた

「ねぇ、ゾロ」

「ん?」

「タオル代えて 冷たくなくなってきた」

「・・・ああ」

短い返事の後、ゾロがベッドのナミに近寄った

今まで天井を見つめていたナミがゾロに視線を向ける

が、ゾロは特に顔色を変える様子も無く、ナミの額に乗るタオルを取った

『この状況で、こいつは動揺したりしないのかしら? バカの塊ね』

ナミは内心で毒ずく

風邪で弱っている女と男が2人きりで部屋に居るのに、男のほうときたら、いつもとまったく変わらない

ナミは何故だか無性に悔しくなっていた

『こいつを焦らせる方法はないかしら?』

横でバシャッと心地よい水の音がする

ナミは、思い切って体を起こしてみた

「あ? お前、起きるなって言われただろ?」

「ちょっとだけよ ずっと寝てたんじゃ背中が痛いのよ」

ナミは笑いながら、手で顔を仰ぐ

ずっと布団の中にいたのだ 熱のせいもあり、まだ冬島の気候とは言え、少し暑い

「暑いわ〜 服、着替えようかしら?」

そう言ってナミが、シャツの首元を引っ張る

『どうだ? これでちょっとは・・・』

ナミがちらりとゾロに視線を向けると

「・・・ほら、タオルできたぞ さっさと寝ろ」

『スルーーー!!?』

ナミは驚愕の表情のまま固まってしまった

ゾロは訝しそうな顔をしながら、もう一度寝ろと促す

ナミはまた膨れっ面をしながら、勢いよく倒れて布団を被った

「どーしたんだよ」

ゾロがタオルを畳みながら、尋ねる

「拗ねてんのよ」

ナミは、ほぼやけくそで、正直に答えた

「拗ねる?」

「あんた、この状況で何とも思わないの?」

「この状況?」

「風邪引いた女と2人きりよ!? ましてや私という女を相手に!!」

「あぁ そういうことか」

やっと納得した様子のゾロに、ナミは溜め息をついた

「まったく・・・あたしはあんたすら動揺させられないほど、色気のない女なのかしら」

ゾロの手がナミの額にタオルを乗せようと近付いてくる

そして響くゾロの声


「案外、そうでもないぜ?」


額にではなく、目の上に置かれたタオル

遮られた視界で、思いの外近くに聞こえたゾロの声

そして、ナミの唇に触れる柔らかい感触


一瞬、何が起こったのか分からなくなり、真っ白く染まるナミの頭の中

視界を覆っていたタオルが、本来あるべき額に移動される

開けた視界は、間近にあるゾロの顔を捉えた

ただ何も言えず、ゾロの顔を、目を見開いて見つめるナミ

ゾロが口の端を少し持ち上げて、満足そうに笑った

まるで「その顔を待っていた」と言わんばかりの笑み

「これで分かったろ? 満足か?」

「なっ・・・!!」

「何なら、もう1回してやろーか?」

そう言って顎に手を当てるゾロ

「け、結構です!!」

ナミは顔を真っ赤に染めながら、慌てて顔を背ける

そして、勢いよく布団を被った

「どーした?ナミ 暑いんじゃなかったのか?」

「もう平気!! ちょっと寝る!!」

「タオル落ちてんぞ?」

「別にいい!! 寝るから邪魔しないで!!」

それから後は話しかけてこなかったが、空気の震える気配がする

きっと声を堪えて、あの男は笑っているのだろう

『なんで私があいつに踊らされてるのよ!! 逆でしょ、普通!!』

布団を強く握り締める

驚くほど早く鳴る自分の心臓音に、ナミは落ち着けと言い聞かせた



潜り込んで深呼吸


(暑い!! けど、顔を出したらまたされるかも)
(されたくないわけじゃないけど・・・負けるみたいで嫌だ!!)



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