穏やかな風が吹き、はためく帆

波が船体を打っては、響きのよい水の音が鳴る

真っ青な海を進む海賊船 サウザント・サニー号

その甲板に影1つ

オレンジ色の髪が靡くたび、辺りに蜜柑の香りがほんのりと漂う

「進路、異常なしっと・・・」

航海士ナミは、左腕のログポースを覗き込んで頷いた

そして顔を上げ、船の前に広がる海を見つめる

その体を太陽の光が優しく包み込んでいた

この船にしては珍しい、静かな昼下がり

いつもははしゃぎ暴れまくっている船長と狙撃手、船医、音楽家はミニメリーに乗り込んで、海上で釣りをしているらしい

コックは夕飯の支度でキッチンに

考古学者は部屋で本を読み、船大工は船内で新しい武器の開発中だ

そして残る1人  

「・・・やっぱりここに居た」

剣士ゾロは甲板の手摺にもたれ掛かって、眠っていた

いつものことだが、久しぶりの光景

というのも、今向かっている島は春島なのだが・・・

普通の春島よりも湿気が多いらしく、天気は梅雨寄り

そのため、ここ数日はこの船体をシトシトと降り注ぐ小雨が濡らしていた

おかげで男たちは釣りをすることも、甲板で昼寝をすることもできなかったのである

だが、今日は久々の晴天

ナミが「今日1日雨は降らない」と言うのだから、そうなのだろう

船長たちは久々の晴れに踊りだし、我先と海上へ出て行ったのだ

そして昼食を食べ終わると、ゾロも食堂から姿を消す

その時から、きっと甲板で昼寝をするのだろうとナミは踏んでいた

案の定 という感じ

ナミはゾロの前まで歩み寄り、しゃがみ込んで顔を覗き込む

閉じられた瞼はピクリとも動かない

試しに、人差し指で鼻の頭をつついてみた

1回・・・2回・・・3回・・・

結局、5回つついてもゾロは微動だにしなかった

「こりゃ、そうとう眠りが深いのね」

まぁ、普段から3回以上つつかないと起きないのがこの男なのだが

ナミは立ち上がり、船の進路をもう一度確認する

「この調子なら、ちょっと気を抜いても大丈夫そうね」

ナミはそう言うと、大きく伸びをする

上を見上げ、伸ばした手を開いた

優しく輝く太陽に手を合わせ、握りこむ

もちろん掴めるわけないが、陽の光は掴めた気がした

そしてゾロの隣に腰を下ろす

膝を抱え込んで、ふぅとため息

相変わらず、横からは安定した寝息が聞こえる

目を向けると、相変わらずの体勢で眠るゾロ

短い髪の毛のせいで、横からでもちゃんと顔が見えた

「人の気も知らないで・・・」

ボソリと呟く

その言葉にどういう意味が含まれているのかは、ナミ本人にもよく分からなかった

いつも大怪我をして帰ってくることに対してか、はたまた・・・

ナミは空いていた微妙な距離を一気に詰めた

もう、腕を曲げた状態でも容易に手が届く

ナミはふと視界に入ったゾロの短い髪の毛をいじる

いつから私たちは喧嘩仲間になったのだろう

いつから私たちは宴会後残り組みになったのだろう

いつから私は―――

その先の言葉が流れようとして、ハッとする

「何考えてるんだろ・・・」

自分に微笑

ナミは髪をいじっていた手を下ろした



調度いい感じに風が吹いてきた

隣でバカが寝てるから、私まで眠くなってしまったじゃない

少しなら休んでもいいよね?

手摺に体重を預け、目を閉じる

途端に、さっき流れかけた言葉を思い出す

いつから私は―――

「あんたのことを、目で追うようになったんだろう・・・」

それを合図にするかのように、ナミは眠りの中へと落ちていった

甲板が茜色に染まる

船が騒がしくなってきた

「いやっふ〜 今日はいっぱい魚釣れたな〜」

「サンジーー!! 今日の夕飯は魚料理にしようぜ〜」

「おれ、こんなに魚釣ったの初めてだ」

「私もです ヨホホホホホホ」

騒がしい4人組が帰ってきた

「お〜〜い サンジーー」

ルフィーが甲板に顔を出した瞬間、その口が何者かによって塞がれる

「はふ!?」

壁から伸びる手

見ると、甲板の向こうでロビンが笑っている

「今、疲れてるんだから静かにしなくちゃ」

言い終わると同時に、壁から出ていた手が消える

「何だ何だ?」

他の3人も不思議そうに甲板に出てきた

「くそぉぉ!! あんのマリモ野郎!! 起きたら蹴り飛ばしてやる!!」

「まったく2人そろって・・・船の上だぞ、ここは」

サンジはハンカチを口で噛み、悔しそうに涙を流し

フランキーは腕を組んで、呆れたような声を上げていた

2人の視線の先は、ルフィーたちの位置からは体が邪魔になって見えない

「何かあったのか?」

チョッパーが首をかしげる

「ふふふ」

ロビンは笑いながら、指をさす

4人が不思議に思いながらも、3人のほうへ近付き、覗き込んだ

「あらあら、ヨホホホホホ」

ブルックは控えめに、だが高らかに笑った

他の3人は珍しいものを見たかのように「ほぅ」と声をあげる

「やっぱ、こいつら仲いいんだな〜」

ルフィーが嬉しそうに笑った

「そうだな」と答える船員たちの視線の先には


互いに寄り添いあって眠る、ゾロとナミの姿があった



皐月晴れ

(いつもは猛獣みたいな2人だけど
寝ていれば可愛らしいものよね)



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